VⅠVA! ブラジル

 

VⅠVA! ブラジル    2009年10月11日


 2016年の夏季五輪開催地に、ブラジル・リオデジャネイロが選ばれました。 ところが、リオデジャネイロの招致委員会は、東京都の石原慎太郎知事が、ライバル都市のイメージを損なう発言をしたと非難する声明を出し、IOCに正式に抗議するという事態になっています。

ライフサイクルコストの観点から、考えます。


 1.なぜ、東京は落選したのか

 2016年の夏季五輪開催地にシカゴ(米)、東京、リオデジャネイロ(ブラジル)、マドリード(スペイン)の4都市が立候補し、1回目の投票でシカゴが落選しました。 2回目に東京が落選し、マドリードとの決戦でリオが選ばれました。

 私は、上記の結果は以下の理由によるものであると思います。

・世界五大陸の中で、南米とアフリカがまだ一度もオリンピックを開催したことがありません。 他方、過去にアメリカは夏冬あわせて8回 日本は3回開催しています。 誰が考えても、21世紀における地域性のアンバランスは否めません。 最初から、アメリカ・日本は後進に道を譲るべきです。

・アメリカ・日本の両国で、世界のGDPの35%を占めています。 オリンピックを開催することにより、後進国から先進国へ移行するという大義名分は立ちません。 すなわち、オリンピックが巨大利権のショービジネスである今日において、どのようなプレゼンも意味をなさないのです。 アメリカも日本も、経済的覇権万能を見直すべきです。

・東京にオリンピックを招致することに対し、少なくとも地方は好ましく思っていません。 地方からも上がる法人税を東京一極に集中投下し、オリンピック開催収益も大部分が東京に落ちるという経済循環が見え透いているからです。 アメリカ・日本の両国でオリンピックを開催するための大義名分がないのと同様、東京でそれを開催する大義名分もないのです。

・鳩山総理は、国連総会で「日本が架け橋となって挑むべき五つの挑戦」として以下の5項目を挙げました。

(1)世界的な経済危機への対処
(2)地球温暖化問題への取り組み
(3)核軍縮・不拡散
(4)平和構築・開発・貧困問題
(5)東アジア共同体の構築

 確かに、今までの日本の首相にはなかったとして賞賛されてしかるべきです。 その余勢をかって、コペンハーゲンのプレゼンにも臨んだのですが、上記5項目はオリンピック招致の必然性とは直接関係しません。 むしろ、日本はプレーヤーよりもサポーター、ディレクターよりもマネージャーとして、世界の中に位置づけられる内容であることを認識するべきです。

2.今後の日本が目指すべき方向

 ブラジルのリオ-サンパウロ間に、新幹線を建設することが計画されています。 ブラジル新幹線は高低差が大きいため、各車両にモーターを配置して効果的に速度調節できる方式や優れたトンネル技術を持つ日本方式の新幹線を建設することが優位になっています。

 また、地上デジタル放送方式に日本の規格が採用され、南米諸国に広まりつつあります。 地上デジタル放送の国際標準規格には、日伯方式(ISDB-T方式)と呼ばれる日本方式のほか、欧州方式(DVB-T方式)、米国方式(ATSC方式)の3つの方式があります。 ISDB-T方式は、ほかの方式に比べて電波障害や干渉に強く、移動時でも受信が良好であるといった技術的な優位性があります。 加えてワンセグ放送とハイビジョン伝送が1つの送信機で伝送でき、全体のコストが安くなるといった長所を持っています。

 サンパウロを中心に、世界最大の140万人の日系人社会が存在します。 上記のような技術輸出を中心に、オリンピック開催の経験国として運営システムの指導にあたる等、日本の数少ない友好国を醸成する千載一遇のチャンスが到来しています。 まさに鳩山首相の提唱する「友愛社会」の登場です。

3.ライフサイクルコストとは

 ライフサイクルコスト(Life cycle cost)とは、製品や構造物などの費用を、調達・製造~使用~廃棄の段階をトータルして考えたものです。 すなわち、製品や構造物等を低価格で調達、製造することができたとしても、それを使用する期間中におけるメインテナンス(保守・管理)、保険料、長期的な利息、廃棄時の費用までも考慮しないと、総合的にみて高い費用となるというものです。

 転じて、いいかげんな発言や意思決定のために、後の世代は膨大なコスト負担ひいては迷惑をこうむるというものです。

4.なぜこうまで石原はライバル都市のイメージを損なう発言をするか

 石原は、「例えばブラジルの大統領が来て、かなり思いきった約束をアフリカの(IOC委員の)諸君としたようです。 それからサルコジ(仏大統領)がブラジルに行って『フランスの戦闘機を買ってくれるなら(五輪招致で)ブラジルを支持する』とか、目に見えない非常に政治的な動きがあります。」と話しました。

 また、「招致活動費150億円については財政再建の余剰分であり、東京の財政は痛くもかゆくもない。 余剰分で夢を見ようと思って(招致活動を)やったのは間違いじゃない。」と話しました。

 私は、以下の点で笑止・痛憤します。

・昨年の米大統領選で、マケイン候補はオバマ候補に対しネガティブキャンペーンを展開しました。 また、先般の衆議院議員選挙において、自民党も幾多のネガティブキャンペーンを、インターネット上で展開しました。 しかしそれらは、ことごとく失敗に終わったというのが歴史の示すところです。 一般的に、ゲームの勝敗は加点方式で行われます。 例外もありますが、柔道の両手狩りのように、互いに足を取り合って先に転んだほうが負けという方式は見るに耐えません。 よりによってオリンピック候補地選考の終わった後で、共和党や自民党が演じた田舎芝居を歴史に学ぶことなく、石原もまた演じています。

・麻生太郎が内閣総辞職後の会見で、景気対策に触れ、「政局よりも政策を優先した判断は国民生活のことを考えれば、決して間違ってはいなかった。」と述べています。 間違いかどうかは、すべて後々歴史の証明するところなのですが、敗北者に限ってこのような自画自賛のコメントをしたがるということだけは共通しています。

・ブラジルは、石原の一連の発言についてIOCに正式に抗議するという事態になっています。 まさにライフサイクルコストでいうところの、後の世代は膨大なコスト負担ひいては迷惑をこうむるという事態です。 150億円など痛くもかゆくもないというのも自民党らしく豪気なことですが、上記の技術輸出やサポートを通じて、友好国を醸成する千載一遇のチャンスが到来しようという時に、7年後には存在しない人間の発言ためにそれらが阻害されることは迷惑千万です。 都知事の分際で、内閣総理大臣でもあらずして、何様のつもりでこのようなコメントをするのか、プレス各社もそれを鵜呑みにしてリリースするのか、本当に日本古来の悪癖が露出され破廉恥です。

5.日本が立候補する都市は

 広島市と長崎市が2020年夏季五輪招致活動を準備しています。 まさに、五輪憲章が掲げる「平和」の理念を世界にアピールできる機会となります。 原爆ドームの傍で聖火を灯し続け、それを世界にプレスし続けることこそ、日本でオリンピックを開催する大義名分です。 私は、五輪は「1都市開催」の原則も、ワールドカップサッカーを日韓共催したように、案外「カンタン」に乗り越えられると思います。 広島長崎五輪が実現するように、応援したいと思います。