公会計制度改革

 

公会計制度改革    2010年7月11日


 公会計制度の改革として、単式簿記から複式簿記へ、現金主義から発生主義への移行を求める提案がされています。

公会計制度の改革について、考えます。


 私は、提案に全面的に賛成します。

 公会計の問題については、平成15年6月30日付で財政制度等審議会から、「公会計に関する基本的考え方」について という報告書が出されています。 その報告書にある内容は現在も有効な部分もありますが、7年以上の歳月が経過し公会計を取り巻く状況も大きく変化しているため、追加します。

 まず、企業会計の目的は、投下資本に対する回収計算結果たる処分可能利益を、株主・債権者・取引先・従業員等利害関係者に報告することにあります。 その報告の方法が、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書等であり、費用は発生主義・収益は実現主義で、費用収益対応をもって作成されています。

 他方、国を始めとする公共部門は、民間企業では行い得ない公共の福祉の向上等を目的とし、税収を根源的な財源として市場性のないいわゆる公共財の提供等を行っています。 このため、公共部門の活動は、定量的な評価にはなじみにくい分野も多く存在します。 例えば、宅配便は、関東圏内と離島では同一物でも送料は当然異なりますが、浄水場から自宅までの距離により水道代が異なれば、公共の福祉に反します。

 公会計の予算・決算を現金主義で行う理由は、

1.議会の事前統制の手段、あるいは、執行管理の手段として、客観性と確定性に基づく明確性と分かり易さが必要となるが、この点において、現金主義で計算した予算額に対する歳出権付与が優れている。 (日本国憲法第86条)

2.国の歳入歳出を網羅的に捉えるべきとの観点からは、国の歳入、歳出には、投資的経費を始めとして発生主義に基づく企業会計的な収益と費用の認識では捉えきれない項目が多く存在する。(防衛予算等)

3.発生主義的な会計処理の導入により、政策上の判断によって、恣意的に会計方針が変更されてしまう可能性を高めるおそれがある。(年金会計等)

4.現在の企業会計監査は、証券取引法および商法にもとづいて実施されている。 発生主義的な会計処理の導入を行った場合、新たな監査制度の整備が必要である。

ということが報告書でもあげられており合理的です。

 しかし、同時に以下の課題も指摘されています。

1.ストックとしての国の資産・負債に関する情報が不十分であり、国の保有資産の状況や将来にわたる国民負担などの国の財政状況が分かりにくい。

2.国と特殊法人等とを連結した財務情報が提供されておらず、公共部門の全体像が把握できない。

3.フローの財務情報とストックに関する財務情報の連動がない。 予算、決算という現金収支と資産、負債状況との関係の把握が困難である。

4.予算執行の状況が分かるのみで、当該年度に費用認識すべき行政コスト、事業毎に間接費用を配賦したフルコストや将来の維持管理費用などを加味したライフサイクルコストが明らかにならない。 事業毎のコストや便益が把握できないため、予算の効率的な執行を図る助けにはならない。

 私は、以下の例に見るように、発生主義の利点を生かした公会計財務諸表の作成と開示を現金主義と並行的に行い、上記の課題に対処すべきであると思います。

1.年金会計の過去勤務費用の明瞭性(債務性引当金)

 企業会計では、従業員の予測給付債務を債務性引当金として計上・外部積立している。 会計監査により不足額が生じると、特別損失として計上しなければならない。 

 このような発生主義的管理手法を公会計に導入・報告しないことが、年金会計が不透明になる原因である。
  
2.国と特殊法人等にまたがる公務員の労務費、事業経費の費用対効果分析

 企業会計では、重要な対内取引は連結会計・本支店会計のように、内部勘定を媒介として決済されている。 すなわち、対外取引と同様の価格で付け替えを行うことにより、各セグメントの収支を明瞭化している。

 このような対外取引の概念を公会計に導入しないことが、ODAをはじめ、いくら財務報告を行っても、連結収支管理が不透明になる原因である。

3.ダム・空港・公共施設等公共事業の設備投資の有効性(資本減耗引当金)

  企業会計では、正味現在価値法等により将来のキャッシュフローを測定し、設備投資の回収計算を実施することによりその意思決定を行う。 経済状況が急変すれば、キャッシュフローに見合うまで、設備投資額を削減する。

 このような、キャッシュフロー会計による公共事業投資の意思決定および進捗管理がされないことが、大赤字の無駄な事業が多発する原因である。

 このような事象は、まさに今回の事業仕分け等によってその一端が見えはじめたところですが、公会計に発生主義会計財務諸表を並行的に導入し、予算の効率化・適正化に活用していくことが極めて重要であると思います。