デフレに振れます!

 

デフレに振れます!    2012年11月6日


 十数年来のデフレにより、若年層の雇用は失われ、税収が不足し、増税が計画されています。 そのため、日銀法を改正し、物価上昇率について目標の設定とその説明責任を持つこと、説明責任が果たせなかった場合には日銀総裁を解任・交代させることを明記することが提案されています。

デフレの解消と日銀法改正について考えます。


 1.物価決定の方程式

・国内生産価格 = 製造原価(材料費・労務費・経費)+間接費(営業費)+利益
     ↑
   品質、納期、物流コストを加味して比較し、安価な方が市場価格となる
     ↓
 ・海外  〃  = 製造原価(材料費・労務費・経費)+間接費(営業費)+利益
           x 為替レート


 リカードの比較優位原則のとおり、輸出で利益を得た産業は生産を拡大し、より多くの利益を得ようとし、輸出拡張で自国通貨高となります。 輸出競争力の低い産業は自国通貨高により、輸出縮小により収益が悪化し、解散するなどして資源を解放することになります。 この結果、輸出競争力のある産業(比較優位な産業)へ特化が進みます。

 製造原価の固定費の内、国別に原価が大きく異なるものは、労務費と電力料等の経費です。 製造原価に品質、納期、物流コストを加味して比較し、安価な方が市場価格となります。

 現在、労務費は中国は日本の5分の1ですが、バングラデシュは中国の3分の1であり、「世界の縫製工場」となっています。

 すなわち、自国の労務費・経費が品質、納期、物流コストを考慮しても海外の労務費・経費を下回らない限り、海外生産価格が市場価格となり、国内市場の物価はデフレとなります。


2.物価の下降メカニズム

 物価決定の方程式のように、品質が同等品であれば、物価は労務費・経費・為替レートで決定されます。 

 労務費・経費が割高でも品質、納期、物流コストが優越し、為替レートが自国通貨安を維持している間は、国内生産品が市場価格となります。 

 しかし、労務費・経費が割高で品質、納期、物流コストが同等となり、為替レートが自国通貨高となれば、海外生産品が市場価格となります。

 十数年来のデフレは、為替レート以外は何ら作為的なものではなく、日本の技術的優位性がアジア諸国の割安の労務費・経費を原資として攻奪された結果であり、技術的優位性以外の対応をまったく成し得なかった結果です。

 日銀が、いくら消費者物価上昇率1%が見通せるまで強力な金融緩和を推進しても、すでに国内生産設備に数%のデフレギャップが生じ、割安の海外生産品が流入し続ける状態を解消することはできません。


3.デフレの解消策

 デフレ対策により若年層の雇用を活性化させ、税収増加を目論むのであれば、本末転倒です。 雇用が活性化し、需要増加によりインフレ傾向となることにより、デフレが解消されるのです。

 上記の方程式のように、物価が上昇するためには為替レートが円安に振れて海外生産価格が上昇するか、国内生産が増加してデフレギャップが縮小する以外、方法はありません。

 日本も政府紙幣を発行し、円安に振れさせて企業収益を良化させることは容易ですが、公定歩合引き上げによる国債利払いの急増と、円建て取引の拡大によるアメリカとの摩擦が大きな課題となります。

 私は、以下のケインズ政策を変形した「産業再起動政策」を実施することにより、インフレーションを誘発することなくデフレ状態から脱却できると思います。

(1)中国に投資した日系企業生産工場を引き上げ、内需生産に戻す

 日本の2011年度の実行ベースの対中直接投資額は7000億円、累積投資額は8兆円です。 欧米諸国の企業が中国市場から撤退を始めるなか、日本だけが対中直接投資額を増加させています。

 平均60万円の収入を得ながら、その恩義も理解できない中国人を雇用し続ける必要などありません。 日本は生産工場を中国から即刻撤退し、中国内の雇用悪化を招かせ、失業率を上昇させるべきです。

 生産工場を中国から撤退・国内復帰させる企業には、減価償却費の未償却分を一括償却し損金算入させる特措法を制定し、事実上の法人税減税を実施することで製造原価を圧縮します。

 また、労働意欲のある高齢者を優先雇用し、若年層に技術伝承する機会を設けることで、国民年金財源の逼迫を緩和します。

 このように、付加価値の高いコモディティの生産を国内復帰しやすくすることで、日本国内の雇用環境を良化し、少子化に歯止めをかけることができ、内需拡大・税収増加に貢献します。


(2)中国・韓国には技術流出しない、高度加工技術を育成する

 将来の成長に向けた布石として、以下のような社会インフラの構築と一体化した産業政策を推進し、パッケージシステムとして世界標準にするべきです。 インフラと一体化するためコモディティとならず、中国・韓国には技術流出しないというメリットがあります。

1.次世代自動車(太陽電池パネル+電気ステーション+EV+高速道路ナビ)
2.太陽光発電
3.省エネ住宅
4.サービスロボット
5.バイオ


(3)防衛産業を育成する

 アメリカが次世代の製品開発に強味があるのは、NASA・軍事・航空・コンピュータ産業を独占状態に保っているためであり、常に世界最先端技術を保有することを必要とする環境が醸成されているからです。

 日本は、これらの産業が未発達のため技術競争意識が働きにくく、民生用の規格大量生産型産業が主体となりがちです。 対中政策の為にも、沖縄米軍の肩代わりの為にも

 防衛産業の育成と発展を図るべきです。


(4)シルバーマネーの還流

 国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)の分科会は7月6日、国の長期ビジョン「フロンティア構想」の報告書をまとめました。

 60歳定年制では企業内に人材が固定化し、産業の新陳代謝を阻害していると指摘し、労使が合意すれば、管理職に変わる人が増える40歳での定年制もできる柔軟な雇用ルールを求めました。 

 報告書は現状のままでは日本は新興国との競争に敗れ、少子高齢化も進んで50年に「坂を転げ落ちる」と予測し、将来の理想は付加価値の高い産業が立地する「共創の国」としています。

 現在、個人金融資産1400兆円の60%は60歳以上の世帯が保有しており、これが若年世代に資金が回らずデフレとなる原因の1つですが、このシルバーマネーの還流を起こさせることに対し有効な対策を打てないままです。

労働流動性と雇用の柔軟性を高め、この高貯蓄率の解消を図るべきです。