奈良県の産業展望

 

奈良県の産業展望    2010年10月9日


 奈良県の産業・経済や地域・社会の今後を展望し、将来の企業・地域の発展に向けた提言が求められています。

この課題について考えます。


 (1)奈良県の現状と課題
  
1.人口

 約140万人で、10年前と比較して97%と4万人減少しています。これは、全国で29位であり、同様の条件の埼玉県・千葉県の約5分の1です。また、若年人口は約19万人で、全人口比の13%です。

 人口が減少に転じるのは、少子高齢化による自然減に加えて、それを補填する社会増が及ばないためです。すなわち、若年人口を引き付けるだけの機会が不足しているということです。

 人口を増加させ、地域を活性化させるには、教育機会・就業機会・観光機会を増加させる以外にありません。少子高齢化対策等を論議することは、本趣旨にそぐわないため、上記の3点について論述します。

2.立地

 大阪・京都等のターミナルから電車・自動車により約1時間でアクセス可能です。

 内陸に位置するため、空港・港湾設備はなく、重厚長大型産業の立地には不向きです。半面、地震・台風等の自然災害に強いことが特徴です。

3.経済環境 

・パナソニック住宅設備 筒井 → 草津に統合
・シャープ液晶テレビ  天理 → 堺に統合
・オムロン研究所  学研都市 → 草津に統合
・奈良市内のほとんどの遊園地・映画館も閉鎖 

ということが、この数年来発生しています。

 内需向け製品の生産能力は、どの産業もすでに飽和状態であり、輸出依存型の傾向は今後も継続します。特に重厚長大型産業は、輸送効率の良い場所に拠点統合されがちです。

 20世紀型の大規模工場誘致手法では、世界経済環境と為替動向に翻弄され続け、将来的に安定した地方財政収入は期待できないと予想されます。

 少子高齢化が進めば、若年ファミリー層に照準を合わせたアミューズメント産業は行き詰まります。年齢に関係なく、誰でもアミューズできるインフラ整備が必要である証左です。

4.所得水準

 平均的には全国で7位、エンジニアに限定すれば8位です。これは、奈良県民が近郊大都市に就業する人口比率が日本で最も高いためですが、その結果所得税収に対して、法人税・消費税収が上がりにくいという結果となっています。

 県内に商業サービス施設が充実すれば、個人消費を中心に十分経済活性化する余地はあると予想されます。アメリカは、GDPの70%が個人消費ですが、それに近似するものと予想されます。

5.産業構造

 ・農林水産業生産高   1%
 ・製造業生産高    43%
 ・サービス業生産高  56% 

 全国平均より奈良県の製造業生産高比率は高いですが、既に第3次産業がメインとなっており、今後の伸び代もそこにしかないと予想されます。労働集約的な従来型の第1次・2次産業に、大きな増進は期待できないと予想されます。
                  
(2)奈良県の将来への展望

1.観光産業モデル都市化

 政府は、21世紀の我が国経済社会の発展のために不可欠な国家的課題として、平成18年12月の「観光立国推進基本法」の成立、平成19年6月の「観光立国推進基本計画」の閣議決定等を行っています。

奈良県に関連する事例として、

・阿修羅展では、東京・九州の2ヶ所で数時間待ちの行列ができ165万人が観覧
・新潟での、奈良の古寺と仏像展覧会は13万人が観覧
・正倉院展の1日当たり入場者数は、常に上位5位以内にランク
・旅行希望先でも居住希望先でも、常に上位10位以内にランク

ということがあげられます。

 また、北海道の財界首脳は「観光は農業・漁業を合わせたのと同じ程度の経済効果を北海道にもたらしている」。と話しています。

 私は、良いものには何度でも来るリピーターの固定化と、修学旅行生の取り戻しおよび海外からの旅行者全体の70%を占めるアジアの500万人を集客するためにも、古代の歴史の再現とアジアの現在を表現するための、常設展示施設を創設するべきと考えます。

①文部科学省との確執はあるも、平城京建造物の完全復元
②3Dデジタルサイネージパネルによる美術回廊創設
③1000人規模の3Dシアター・スタジオ創設
④奈良独自の歴史ドラマ映像製作と常時上映
⑤アジア諸国の歴史映画・演劇の常時上映
⑥国際会議の更なる誘致と宿泊施設の増強

 このように、伝統行事のみならず、古代と現代を繋ぐ映像芸術祭典の常設化により、現物とバーチャル空間とを同時に堪能できる観光機会を創出することが必要であると考えます。

 観光産業を主とする諸外国の例では、

エジプト GDPの16%  外国人観光客数 1000万人  収入2兆円
ハワイ  GDPの17%  外国人観光客数  700万人  収入1兆円

のような実績が表れています。

 奈良県の観光客数は年間3000万人ですが、1割が増加したとしても300万人の増加となり、1人10万円の支出とすれば年間3000億円の増収が予想されます。

 税収率を15%とすれば、奈良県財政収入を10%程度増加させることが可能です。詳細な設備投資金額は未計算ですが、投資ライフサイクルを考えれば、十分に回収できるものと予想されます。

2.真の学術文化研究都市化

 奈良県は、上位5位以内にランクされる大学進学率を有し、多数の進学高校が集積していますが、進学先は他府県の大学がほとんどです。すなわち、多額の県税で教育インフラの整備を行いながら、その結果は他府県に流出しているということが実情です。
   
 原因として、産業界が大学に求める人材像が大きく変わりつつあるにもかかわらず、奈良県内の大学が応えきれていないということがあります。

 キーワードの1つが「グローバル人材」であり、もう1つが「留学生」の確保です。グローバル人材は、世界で活躍できる即戦力の育成、留学生は、教育内容の高度化という点で重要です。

 私は、以下の制度改革が必要と考えます。

 ①奈良女子大学はハイレベルな国立大学法人であるが、男子にも門戸を開放し、男女共学の総合大学として学生の活性化

 ②奈良先端科学技術大学院大学のサイエンス系と奈良女子大学の文学・歴史系のコラボレーションに社会科学系学科を追加することにより、東大・京大に匹敵する若年層に魅力ある教育機会を提供し、県外への頭脳流出を防止

 ③アジア諸国とのコラボレーションと留学生の招致(中国・韓国・インド等)

 中国・韓国・インドは、既に薄利多売の製品を輸出入するだけの相手ではなくなっています。
当社のコンピューターシステムアウトソーシング先は、中国大連の大学と合弁企業を設け、日本で受託した案件を開発委託しています。この逆バージョンで、彼らを日本に留学生として招き、就業と一体化させれば、産業振興も県税収増も期待できます。 同時に、親日的・高度文化的アジア人・諸外国人の育成拠点として、日本の理解者を増加させることも期待できます。  

3.ゲームソフト・産業用ソフトを中心とした日本のシリコンバレー化

 前述のとおり、重厚長大型・輸出型産業誘致に依存した雇用確保と法人地方税収確保というスタイルから脱却する産業構造転換が必要です。

 私は、以下の制度改革が必要と考えます。

 ①投資規模に応じた補助金政策と並行に、投資計画・従業員採用計画と収益率に応じた補助金政策の採用

 企業は、必ずしも円高と不況の影響を受けて製造拠点を海外移転・統廃合するだけではありません。たとえ内需主体の企業であろうとも、複数拠点に同種の製造設備が存在すれば、生産効率の良いほうを選択し統廃合します。 収益率に応じた補助金政策を行うことで、県外から奈良県内に統廃合する機会も増え、生産増と雇用増が期待できます。

 ②新たなソフト産業等の積極的な誘致

 前述のとおり、若年人口と優秀な頭脳が集積すれば、新たな産業誘致が容易になります。 学研都市近郊には、「私の仕事館」等遊休設備が多数あり、それらを利用した多種類の産業の集積を図ることで、就業機会も増加するという好循環が期待できます。

 ③地場既存産業の産官学コラボレーションによる効率化支援

 頭脳集積効果により、地場既存産業も効率化支援が期待できます。

4.文化の発信拠点化

 東京一極集中化の弊害が言われ始めて久しいです。前述のとおり、3割自治、地方経済の疲弊と空洞化、人材の枯渇もさることながら、日本の誕生から現在に至る悠久の歴史観を考察できる人材教育という点で、甚だ表層的になります。
 
 私は、既存の教育・観光・就業資源を大規模にブラッシュアップすると同時に、奈良県人として誇れる文化活動を創設することで、更なる若年人口の集積を図ることが必要と考えます。

 ①企業スポーツ、学生スポーツの強化(例 野球、サッカー、ラグビー、駅伝)のため、スポンサー企業・学校法人の開拓

 ②サッカーフランチャイズの創設

  将来のワールドカップ開催への対応
  
 ③将来の道州制導入に備えて、ベッドタウンとして埋没するのではなく、中核都市としての存在対応
  
(3)当社の沿革と事業貢献
 
1934年  関西唯一の音楽ソフト事業を創業
1997年  DVDディスク生産開始
2007年  Blu-rayディスク生産開始
2009年  Blu-ray 3D オーサリング生産開始
       関西唯一のDVD・BD・ソフト企画製作の一気通貫体制確立

 当社は、このように音楽・映像・ゲームソフトを中心としたパッケージメディア事業を創設以来70有余年にわたり行っています。

 当社の、世界最新鋭のDVD・BD・ソフト企画製作の一気通貫技術を用いれば、3D美術回廊やシアター・スタジオも容易に実現可能です。

 また、学術研究・ソフト産業とのコラボレーションにより、産学一体となった産業構造構築も期待できます。

(4)まとめ

 前述のとおり、奈良県の抱える課題と対策は、日本各地の課題そのものです。しかし幸いにも地理的・経営資源的に恵まれており、多くの伸び代が明確になっています。

①重厚長大産業依存型からの脱却
  知識集約型産業および観光産業の融合体への構造転換

②若年層を中心に居住人口の増加
  観光客から定住者への構造転換

③アジア諸国との産業・文化コラボレーション
  単純労働者の供給先ではなく、知的労働者集積への構造転換

これらの課題に、当社のDVD・BD・ソフト企画制作技術やノウハウが有効に生かされ、奈良県の発展・活性化に貢献できれば幸いです。