GDP数字って幸せ?

 

GDP数字って幸せ?    2012年11月8日


 人材開発という視点から考えると、長すぎる労働時間は主に出産・育児を担う女性が企業で活躍する機会を妨げ、それがミクロレベルでも企業の生産性・競争力にマイナスになり、国全体としての生産性・競争力の足かせになっています。

 企業や国全体の生産性・競争力を高めるために、企業単位でも、国単位でも、1時間当たりの付加価値額を目標に入れるということが提案されています。

1時間当たりの付加価値額を目標に入れることについて考えます。


 2010年のOECDの統計によると、日本人の平均労働時間は1733時間/年、フランス人は1500時間/年、ドイツ人は1309時間/年、アメリカ人は1778時間/年となっています。


1.労働生産性

 労働生産性は、以下の方程式により算出されます。

一定時間内に労働者一人当たりでどれだけの国内総生産(GDP)を生み出しているかを表す労働生産性 = 生産量(付加価値)÷ 労働量(従業員数)÷ 労働時間


 アメリカ人の1人当たりGDPは、ドイツ人やフランス人より2割ほど高く、「アメリカ人のように長時間働いて儲けるか、ヨーロッパ人のようにたっぷり休暇をとってほどほどの収入で満足するか」という二者選択の論議があります。

 しかし、日本人はフランス人より2割、ドイツ人より3割も長く働いているにもかかわらず、1人当たりGDPはドイツ・フランスと同等です。 そのため「日本人の労働は非効率的」ということが考えられます。

 ただ、労働生産性に関しては、為替レートと物価水準および産業構造の影響を完全に排除できないため、付加価値額と従業員数の除数である労働者一人当たりの国内総生産(GDP)を指標にすることは意味を成しません。

 問題となるのは、分母の一端を成す労働時間の長短です。


2.日本人の長時間労働の理由

 日本人が特出して長時間労働になっている理由は、以下のことが考えられます。

・残業手当は実質的に生活給となっており、材料・工程歩留り向上等の機械的コストダウンは率先するものの、自分の首を絞めることになる労働生産性の向上は手つかずとなる。

・組合員は、残業手当が給与収入の4分の1を占める賃金形態となっており、賞与と並んで業績変動にともなう労務費の調節弁的機能を果たしている。

・企業別労働組合が会社と結びついているため、労使双方の利害関係が一致し、労働条件について会社に強く要求しない。 

・家庭を中心に行動するという価値観が希薄であり、定時で帰宅しても時間の有効的な消化方法を持たない人が多い。

・休暇をとらずに働くことを称揚するムードがあり、仕事の結果よりも会社に長時間在籍することを尊ぶ。

・サービス残業や有給休暇の未消化といった明らかな違法状態さえも放置されているが、根強い終身雇用体系のため表面化しない。

・単純に販売量で勝負している会社が多いため、売上げと営業時間が比例するという発想になり、質の競争になり難い。


3.長時間労働の弊害

 長時間労働の弊害は、以下のことが考えられます。

・じっくりと物事を考える時間がとれなくなり、新鮮な発想やイノベーションが生まれ難く、勉強時間もとれない。

・健康に悪く、ストレスを生み、幸福感が少ない。

・長時間勤務のために多くの人(特に男性)が家事を顧みなくなり、子育て等に時間を割けず少子化となる。

・雇用期間の延長とも相まって、特定の人間が仕事を抱えることで他の人に仕事が渡らなくなり、失業率悪化の原因になっている。

・休暇が少ないと個人がレジャーに出費する機会が減り、景気回復にマイナス要素となる。


4.理想的な労働条件

 理想的な労働条件は、以下のことが考えられます。

・ヨーロッパと米国の勤労者の統計を分析した、スイスのルツェルン大学のサイモン・ルーチンガーによれば、幸せを感じる労働時間は「1週間に33時間」である。

・2002年のノーベル経済学賞を受賞した米国の心理学・行動経済学者ダニエル・カーネマンとアンガス・ディートンの、「Gallup-Healthways 健康指数」の分析によれば、幸せを感じる年収は「75000ドル」である。

・幸せを感じる子どもの数は「1人」であり、子どもをひとり持つと、まったくいない場合よりも親は幸せになるという統計は多いが、子どもの数が多ければ多いほど幸せになるとは限らない。

・スイスの研究者アロイス・スタッツァーとブルーノ・フライによれば、幸せを感じる通勤時間は「20分」であり、30分を過ぎると不満が募ってくる。


 このように日本の現状は、理想的とされる年収では10%の不足となっていますが、労働時間では15%の超過となっています。

 日本人はもともと能力が高い国民であり、まじめで器用で勤労意欲が高いです。 十分な休暇を取って効率よく働けば、停滞する経済を再起動することができるのですが、現行の「人・物・カネ」の資源配分と労働慣行では、それは達成できません。

 私は、政府のやるべきことは、1時間当たりの付加価値額がG7の水準に引き上げられるように留意しながら、新規の産業育成が後手に回ることがないように、そして世界標準となりうる産業を育成できるように、それに適合する社会システムを構築・運用することであると思います。