行政の説明責任

 

行政の説明責任    2009年7月19日


 投票期間中に有権者に約束したことが実際には、全く行われないというリスクが生じます。

これに対し、

(1)数値目標と、その目標を達成するための行動計画をセットで提示するよう義務づける
(2)「なぜできなかったのか」についての説明を義務づける
(3)数値目標の明確化と、それを実行するための予算編成討議を公開する

という提案がされています。

「行政・議会の透明性と説明責任」について考えます。


 私は、提案について賛成します。 ただ、幾つかの懐疑的な要素もあり、それについて述べさせていただきます。
 
(1)マニフェスト(公約)に対して、必ず数値目標と、その目標を達成するための行動計画をセットで提示するよう義務づける 

 政策には、それを実施すると、現状と比較して良化する場合と、悪化する場合が共存します。

財源を消費して新たなサービスを行うことは、有権者からすると概ね良化です。 いくらでもサービスの数値目標を立てることは可能であり、歓迎されます。

しかし、政府が新たなサービスを実施するための財源を確保することは、有権者からすると概ね悪化となります。 例えば、消費税率の引上げ、年金支給額の引下げ等ですが、これらを正直に数値目標としてマニフェスト化すれば、その候補者は相当の確率で落選し、また政党としても、そのようなアピールを行う候補者は公認し辛いところです。

すなわち、候補者個人に、数値目標や行動計画提示を義務付けすればするほど、選挙の際には口当たりの良いことしか表明しなくなります。 また、たとえ提示したとしてもハードルの低い目標が設定されるだけであり、都合の悪いことは隠蔽・先送りされる体質を改善することに繋がりません。


(2)達成できなかった時は「なぜできなかったのか」についての説明を義務づける
 
 企業は、赤字倒産という形で経営責任を負いますが、議員は負いません。 後援会の希望する政策を継続し、自分も当選し続ければ失業することがないからです。 その顕著な例が、世襲制議員の存在です。 公務員である議員に民間企業の収支分析まがいのことを求めても無理であり、その理由もどのようにでもつけられます。

議院内閣制は、あくまで政権与党の多数決で法案が決定される制度であり、議員個人はその構成メンバーの1人にすぎません。 議員立法が必ずしも成立する保証はありません。 この事後評価制度は、多数決制度のもとでは政党の方針に帰趨するだけです。 そのため、野党議員にとっては、この制度は有効なものにはなりません。

以上のことから、数値目標と行動計画をセットで提示するよう義務づけ、事後評価するということは議員個々の単位ではなく、政党の単位で行うべきです。

そのためには、二大政党制を整備し、政党としてマニフェストを策定し、相互牽制が行えるように、選挙の度に評価についてしのぎを削ることが必要です。

また、政党専用のマニフェスト参照ホームページを集中管理し、常時参照できるようなシステムの整備と十分な広報活動および配信が必要です。


(3)数値目標を達成するには、予算編成がオープンな場で話し合われ、それを有権者がしっかり監視できるようにすることが必要

 現在の予算制度は、各省庁から財務省に予算案が申請され、それを政府予算案として年度末に国会審議・可決されるという制度になっています。 予算委員会も、実態は予算を審議する場ではなく、与野党論戦の場と化しています。 また、予算の配分先も各省庁直配を初め、特殊法人・独立行政法人への補助金や地方交付税等多岐にわたります。 

このような制度のため、予算編成はオープンになりにくく、また政権与党の支持基盤には、優先的に予算が配分されがちです。 予算編成のオープン化には以下のような方法が必要です。

1.予算編成の推移と政府予算案が明瞭表示される政府広報を、専用ホームページで集中管理し、希望者に配信する。

2.政党専用のマニフェスト参照ホームページを集中管理し、議員が自分の賛成法案に対する予算の獲得・実施状況を有権者に報告できるシステムを整備する。 これにより、議員と政党と行政との相互牽制が有効となる。

3.数値目標の明確化と、それを実行するための予算編成討議の公開は、政党の責任のもとで行う。