道州制導入

 

道州制導入    2009年3月15日


 現在の日本の行政は中央集権的になっているため、予算編成や法制度の新設、改定などの際、非効率な部分が多いです。

これに対し、日本にも道州制を導入し、道州の規模に行政単位を再編し、これまでできなかった改革を迅速に実行できるようにすれば地方は活性化するという提案がされています。

道州制導入について考えます。


 私は、提案の目標とされることには賛成します。 ただ、懸念する要素も幾多あります。

(1)5畿7道73国体制 ・・・ 律令制度の時代 中央政府の直接支配体制で、ほとんど地方自治はない

(2)1幕府300藩体制 ・・・ 幕藩制度の時代 中央政府の間接支配体制で、地方自治重視 財政比率は、中央政府:地方政府=1:3

(3)47都道府県体制  ・・・ 現代 中央政府の間接支配体制で、地方自治重視 財政比率は、中央政府:地方政府=2:1 すなわち国民1人あたり、国から60万円、地方自治体から30万円が財政支出されている状態

ただし、ここでは地方自治の統括が、中央政府から派遣された者により行われているか否かにより、直接支配・間接支配としています。

 提案は、地方の活性化と競争力強化を図るということから、(3)の体制を維持しつつ(2)の財政比率を実現するために行政区画を束ねる道州制を導入するという内容と理解します。

 確かに、アメリカ合衆国は50州で、平均人口は600万人、ドイツ連邦は16州で平均人口は500万人程度の規模で運営されています。 
一方、日本は47都道府県で、平均人口は280万人ですから、地方自治の運営効率は諸外国と比較しても半分程度と言えると思います。

そのような受け皿を準備し、十分な権限を移譲すれば、地域特性に配慮した意思決定が迅速にできるようになります。 行政運営面ですぐれた道州は産業が活性化し、企業や住民が集まります。 良いこと尽くめのように思います。

 しかし、以下のような懸念があります。

(1)アメリカもドイツもその発祥から現在にいたるまで、州の独立性はきわめて強く、州法の独自制定権はおろか、軍事力まで有しているような状態です。 某アメリカ人留学生は、自分の出身州(アイダホ州)の地図をそらんじて描きます。 彼らは、日本では考えられないほど、自分の故郷に誇りと愛着を持っています。 その感覚は、人口5千人の町から来た人でも、ニューヨークから来た人でも同じです。 日本で、行政区画を束ねるだけで、精神面まで踏み込んだ、本来あるべき州行政が成立するのかどうかという点です。

(2)東京都には、日本の10%の人口と財政が集中し課題となっていますが、地方自治体単位で見ると、県庁所在地には30~40%のそれが集中しています。 このような状態のままで、自治体が結束され州都が定められると、州都所在地とそれ以外の地域とのインフラ・財政格差は累乗化され、各州がミニ日本化するのではないかという点です。 また、現在すでに人口の60%、工業出荷額の70%が太平洋ベルト地帯と呼ばれる地域に集中しています。 それとそれ以外の地域の財政格差は、権限委譲ぐらいで是正できるのかという点です。

(3)道州制の導入に伴い、現在の都道府県の呼称が廃止されるようになると、例えば「奈良県斑鳩町法隆寺」が「関西州斑鳩町法隆寺」のように、「京都府宇治市平等院」が「関西州宇治市平等院」のようになります。 万葉の時代から受け継がれてきた地方名称は、一種の文化遺産なのですが、それらが全国的に消滅する事態となります。 一国の尊厳と繁栄は、経済効率のみでは測れません。 歴史的・文化的伝統遺産なくして、郷土愛もひいては愛国心も育たないという点です。

道州制の導入により、これらの懸念を補って余りある効果が得られるのか否か、熟考を要すると思います。