相続税率の引上げ

 

相続税率の引上げ    2010年1月24日


 巨額の富がそのまま代々受け継がれると、社会的・経済的地位も固定化されてしまうため、相続税・贈与税の税率を上げて、階級の固定化を防ぐことが提案されています。

相続税・贈与税の税率引上げについて考えます。


 私は、提案の趣旨としては賛成しますが、手段やバックボーンを考慮すべきであると思います。

 階級の固定化を防ぐためなら、相続税・贈与税の税率を上げるよりも、民主党のマニフェストのとおり税金の無駄遣いを見直して、子ども手当てや高校教育費無償化を実現するほうがはるかに有効で直接的です。

 私は、次の3点について述べたいと思います。

1.国民性と風土環境
2.税金制度の信頼性
3.リーダー育成教育 

1.国民性と風土環境

 各種制度の問題以前に、日本人の国民性と風土環境の影響が大きいです。

 日本は、戦後50年以上、工業製品の規格大量生産のために均質化社会を維持し続けてきました。 民間から官界まで、突出することを極端に排除したがる国民性のため、久しくベンチャービジネスが育ちにくいです。 そのため、成功者が個人的に文化的寄付事業をするということも育ちません。 文化的寄付事業の大半は、大企業がスポンサーとなっているのが現状です。

 明治時代の教育先駆者の精神を、今一度学ぶべきです。 彼らは、一身を挺して国家有為の人材教育を行いました。 それが今日でも、日本の教育制度を支える根幹となっています。

 また、社会も成功者に対して、嫉妬心を持つのではなく、その努力をきちんと称えるように成熟するべきです。 そして、文化的寄付事業に対して、名誉・栄誉という意義を理解するようになるべきです。

2.税金制度の信頼性

 資産は、次の2種類があります。

動産   保有するだけでは非課税、運用すると金融所得課税、譲渡すると譲渡所得課税される
不動産  保有すると固定資産課税、運用すると不動産所得課税、譲渡すると譲渡所得課税される

 不動産は、すべての場合において課税対象となっています。

 都市部の空間がそれなりに保たれているのは、相続税率とともに地目による固定資産税率の相違が大きいです。 農地として、実際には販売することのない作物でも作付けされていますが、子孫のために資産を残す意図のためです。

 相続税率が増加すれば相続が不能となる確率も増加し、物納も増加します。 今以上に土地の細分化が進み、都市景観は収拾のつかない状態が拡大します。

 また日本でも2006年から、アメリカのパートナー制を参考にした合同会社が制度化されました。 これは当然のことながら、ベンチャービジネスを設立しやすくするための制度です。 しかし、どのような制度も諸刃の剣であり、悪用すればいくらでも資産隠匿や相続税・贈与税回避が可能となります。

 税金の無駄遣いを初めとして、税金制度そのものに大きな不信感が存在する現状において、いたずらに税率を上げて一般税金と混入するような政策に、賛同は得られません。 これも日本ではなじみが薄いですが、アメリカのトラストファンド制を参考にした社会貢献環境・文化的寄付事業環境を整備するべきです。

3.リーダー育成教育

 諸外国の例のとおり、一国の指導者なるものは、良い意味でエリート教育を受けることが必要です。 昨年のタイム誌の世界影響力ベスト100人に、日本の政府関係者は入っていません。 能力育成の例として、

政治的リーダー育成 (ディスカッション・政策立案・外交戦略等)
経済的  〃    (ノーベル経済学賞受賞・政策オピニオン等)

のようなものが必要です。

 このようなリーダー育成教育を施すためには、一般的な学校教育や個人の才能だけでは限度があります。 首相はほとんどが世襲議員で、裕福な実家の支援という形で他の候補者に比べ圧倒的な優位にあるという弊害はあるものの、そのような自民党時代の斜視的な意識にとらわれたままでは、日本はますますリーダー不在の国と成り果てます。

鳩 山由紀夫首相が実母から資金援助を受けざるを得なかったのも、まさに民主党が自民党時代の悪習を「政権交代」により断ち切らんがための第1歩であるとすれば、資産の有効活用制度を熟考することは極めて重要なことです。

 私は、いたずらに相続税・贈与税の税率を上げるだけではなく、どのようにして現在の資産を将来に有効なものとしていくかという制度を重視したいと思います。