申告納税制度

 

申告納税制度    2009年3月1日


 日本の給与所得者の納税制度は、源泉徴収、年末調整および確定申告により行われています。

これに対し、申告納税はインターネットによるe-Taxで簡単にできるようになったこともあり、年末調整をやめて申告納税へ納税のプロセスを変更するという提案がされています。

納税制度について考えます。


 私は、提案の目標とされることには賛成します。 ただ、内容の把握が本来の意味と少し異なると思います。

 まず、「給与所得者の税負担への意識が、源泉徴収と年末調整により希薄になっているので、給与所得者も申告納税する」ということについてです。

(1)源泉徴収 ・・・ 日本でもアメリカでも給与所得者は源泉徴収されます。 源泉徴収制度は、徴税の確実性と徴税コストパフォーマンスという点で優れており、この制度を法人税のように申告納税制度に変更することは、むしろ社会的コストと未納税を増加させます。 提案には、この制度変更は含まないという前提で考えます。
(2)年末調整 ・・・ 給与所得控除、配偶者・扶養控除、各種保険料控除といった、年末に確定したものに対する処理です。
(3)確定申告 ・・・ 医療費控除、住宅ローン控除、寄付金控除、雑損控除、特定支出控除といった年末に確定していないものに対する処理です。

 確かに、(2)は企業に委ねており、(3)は税理士や税務署の窓口相談員に委ねています。 それにともなう納税知識の希薄化と社会全体の計算経済性のバランスが論点です。 私は、税額計算を企業に委ねているということが、いくら税金がかかっているのか、あるいは所得税と住民税の税率、収入と所得の違いを理解していないことに直結するとは思いません。 たとえば、平均的なモデルとして、

給与所得控除(本人の必要経費見合)               約200万円
配偶者・扶養控除、社会保険料控除(家族と社会の必要経費見合)  約200万円
所得税額  (上記経費控除後の税負担見合)            約50万円

のようになります。 この程度の情報は、年末の源泉徴収表を見れば、誰でも理解のできる内容です。 むしろ、現在の税額計算システムでは、給与所得者個々が、毎年税額表を参照しながらこの数値を導くことは、計算経済性を害するのではないかと懸念します。

 高校を卒業すれば半数以上の人は社会人となります。 私は、納税知識の希薄化ということに対しては、税額計算実務とかみ合わせるよりも、特に中高生の学校教育において、数学や英語だけではなく、自己責任の意味・金銭管理の重要性・生活設計のノウハウ等と並んで税額計算の基礎を学ぶ教科を整備することが必要だと思います。

 次に、「申告納税はインターネットによるe-Taxで簡単にできる」ということについてです。

確かに、インターネットは、利用時間・場所に制約がないため、いつでも作業できますが、e-Taxにより申告納税するためには、

(1)インターネット自体を使いこなせる環境を準備
(2)住民基本台帳ICカードの取得
(3)e-Taxソフト、カードリーダーの導入
(4)e-Taxソフトの数十ページの操作マニュアルを読解
(5)税額計算要領を理解後、入力作業

のように、作業工程に相当のパワーを要します。 上記の確定申告が、やはり人任せになりがちな理由は、このパソコン操作および税額計算のスキル格差が大きいためです。
 
 私は、申告納税の普及ということに対しては、

(1)現在行われているカードリーダー税額控除のように、e-Taxソフト等を導入済みのパソコン・高速通信網の税額控除を行い、家庭への普及を促進する

(2)同時に、電子政府構築計画の「納税者番号制度」に相当するデータベースから関連データを引き込めるようにシステム対応して、都度入力の手間を省略する

(3)タックスアンサーの対応能力をさらに拡充整備し、税金教育を社会人に対しても継続的に行う

(4)申告納税者には、税務署事務軽減見合いとして税制上何らかの優遇措置を施す

ということが必要だと思います。