雇用不安

 

雇用不安    2009年1月17日


 2008年の金融危機は日本経済を直撃し、製造業を中心に解雇や内定取り消し、契約打ち切りなどの雇用不安を引き起こしています。

 これに対し、

(1)正規雇用者の解雇要件を緩和し、再就職支援の義務化や不当解雇を防止する方策も立てる
(2)欧州連合と同等の、週48時間労働規制を導入する
(3)最低賃金を1000円に引き上げる

という提案がされています。

 雇用不安について考えます。


 私は、提案の目指すところは賛成です。 しかし、その方法では、雇用不安対策としては限りなく実現不可能だと思います。

 論じる前提として、某製造業の従業員構成を1つのモデルとして提示します。 このように4種類の職種で構成されています。 このうち、企業直雇用は正社員・契約社員・アルバイトです。

正社員     無期契約    人数シェア 33%   労務費シェア 55%
契約社員    1年契約      〃   12%     〃    11%
アルバイト   半年契約      〃   32%     〃    20%
派遣社員    3ヶ月契約     〃   23%     〃    14%

(1)正規雇用者の解雇要件を緩和し、再就職支援の義務化や不当解雇を防止する方策も立てるということについて

 正規雇用者の解雇要件を緩和することが「非正規労働者の待遇改善」に直結することはありません。 正規雇用者は、上記のとおり無期契約であり、「就業規則」に反しない限り雇用が保障されます。 企業は、決して単調なものづくりだけを行うのではなく、事業の安定と継続・新製品開発・技術伝承・情報守秘等のために正規雇用者の高い労務コストを負担しているのです。

 昨今の議論で、ともすれば「何兆円もの内部留保がありながら・・」という論調がはびこっていますが、見落としてはいけないことは、それぞれの雇用形態1単位のレベルは大きく異なるということ、および企業の継続性・貢献性と雇用維持とのバランスです。

 普通、一般企業の「就業規則」には、

1.事業縮小・閉鎖による余剰人員発生
2.業務能力・勤務成績の著しい不良

等が、解雇事由としてきちんと掲げられています。 正規雇用者といえども、それらに該当すれば解雇となるのであり、逆に言えば、そうならないために最大限の努力を払うことを要求されるのも正規雇用者であるのです。

 再就職支援の義務を負う対象が派遣先企業であるとすれば、契約期間途中で、業務能力・勤務成績の著しい不良に至った労働者でも、再就職支援の義務を負わなければならないことになります。 経験則ですが、そのような労働者は、他社に就業しても不適正となる確率が非常に高いです。 

 現在は派遣法により、事前に応募者面談をすることは禁止され、すべて派遣業者任せの採用となっています。 一旦採用したら、最後まで面倒を見続けなければならないのであれば、派遣社員の採用自体極めて慎重にならざるを得なくなります。 このような一方的な制度は、派遣業者・派遣社員の怠慢化を招き、就職の機会さえ失います。

(2)欧州連合と同等の、週48時間労働規制を導入するということについて

 これは良い方法だと思います。 7.75時間/日 + 10時間残業/週で、週48時間労働となります。 提案の中で、最も実現可能性が高いです。 ワーク・ライフ・バランスを崩すまで残業させることは、人員配置の適正化や業務教育の充実という企業努力が足らないという評価尺度となります。企業に任せておいたのでは実現しませんから、政府主導で進めるべきです。
ただし、次の2点に配慮が必要です。

1.季節要因等による繁忙期対応
2.不測の事態

(3)最低賃金を1000円に引き上げるということについて

 冒頭の雇用形態で、アルバイトなら900円/時、18万円/月ですが、派遣社員なら1200円/時、25万円/月(交替制の場合)の可処分所得となります。 すなわち、今話題の派遣労働者の可処分所得は、300万円/年以上あるのです。 平均賃金の約60%です。 しかし、2ヶ月間仕事が無くなっただけで、各地の公園に行列ができます。 TVカメラに向かって、「ポケットにはあと50円しかない・・」と言います。 景気が良かった頃の可処分所得の処分方法を見直すべきです。 いつの時代でも、「アリとキリギリス」の教えは心に留め置くべきことです。
  

 この事例からも判明するように、最低賃金の30%引き上げや、シャワーのような給付金のばら撒きで解決するほど、今日の雇用不安は安易なものではありません。 労働者・企業・政府の3者とも、将来への備えというコンセプトが決定的に欠如しています。

 私は、今後3年間に以下のことを行うべきと思います。
  
(1)労働者特に非正規雇用者は、雇用の不安定さを認識し、将来のために貯蓄と自己研鑽というセーフティネットを日頃から張るべきです。 「正社員としては入れなかった企業に派遣社員としてなら入れる」ということが、派遣という働き方を選択する理由のトップであったことを常に忘れないことです。

(2)企業は、労働者がそのような認識がないのであれば、雇用責任の一環としてセーフティネットの張り方教育をするべきです。 法的に問題はないとはいえ、派遣労働者の機械部品的な処遇は憂慮するべきです。

(3)政府は、特に中高生の学校教育において、数学や英語だけではなく、自己責任の意味・金銭管理の重要性・生活設計のノウハウ・社会人生活の基礎等を学ぶ教科を整備すべきです。 英検や漢検は数百万人/年受験しますが、簿記検定になると数十万人程度です。また、高校を卒業すれば半数以上の人は社会人となりますが、商業学校生しか簿記教育を受けないことなど、GDP2位の国家として本当に異常です。

(4)他方、低賃金を据え置くと、そこから少子化等の問題が生じます。 補助は必要ですが、その方法は、一律「給付」方式から、貢献者「税額控除」方式へ方向転換すべきです。 
 
 例えば、保育所費および小中学校までの教育費を負担し、少子化対策に貢献されたのならその費用を所得税から控除する、控除しきれない分はキャリーオーバーさせるといった方式です。

 当座の消費に消えがちな「賃金引上」や「給付」よりも、貢献者を直接優遇できるという点ではるかに公平です。 制度的な整備にもつながります。 また、同じ資金負担を企業に負わせるのであれば、営業利益を痛める「賃金引上」よりも特定目的課税の方がベターです。