社会保障番号

 

社会保障番号    2009年2月1日


 政府は、年金不信を一掃することを狙いとして、社会保障の給付と負担を一元的に管理する「社会保障番号」導入の検討を急ぐ考えを表明しました。

これに対し、社会保障番号を導入し、納税者番号としても活用することで、税の捕捉率を上げるという提案がされています。

社会保障番号導入について考えます。


 私は、提案の目標とされることには賛成します。 ただ、内容の把握が本来の意味と少し異なると思います。

 まず、「社会保障番号の導入」です。 社会保障番号を導入することは賛成ですが、その内容と効果に過剰な期待を寄せることは好ましくないと思います。

(1)年金の記録という点では、すでに大半が基礎年金番号に統合されています。 2005年当時から、年金制度毎に体系の異なる番号を基礎年金番号に統一する所作は行われていたのですが、社会保険庁および受給者双方にチェック漏れが多かったことが今回のずさんな年金管理の直接的原因です。 
また、国民が自分の年金残高を簡単にチェックできるオープンシステムの整備と公告が遅れたことが間接的原因です。 それがなければ、どんな番号制度を構築しても同じ結果となります。
  
(2)一元管理の番号制度を導入すれば、今後の年金記載漏れは防げますが、年金制度上の規則も障害となる場合が多いです。

   例) 収入減等により掛金免除申請をした場合、年金加入月数としてはカウントされますが、掛金は未払扱いとなります。 復活払込は      10年間の時効に掛かるため、加入者側でそれをよほど管理しないと復活の機会を逸します。これまでの年金所轄官庁と国民との      情報格差を考慮すれば、事実上の所得不安定者切捨てとなりかねません。

このように、いくら番号制度の整備をしても、当局と国民との情報格差を埋め、年金制度情報を簡単に把握できるようにならない限り有名無実です。

(3)住民基本台帳ネットワークがすでに存在していますが、趣旨がダブります。 住基ネットのうたい文句の一つが年金・雇用保険の支給の簡易化です。 屋上屋を架すことになります。

(4)国民が日常的に使用する番号体系だけでも、以下のようなものがあります。

   基礎年金番号    10桁       住基ネット     11桁
   運転免許証     12桁       健康保険証(組合)  8桁
   パスポート      9桁       クレジットカード  16桁 
   
書籍のJANコードのように、統一することも一考を要します。

 次に、「納税者番号として活用」です。 これは、以前から税制調査会で審議されている納税者番号制度の導入実現化と解釈します。
 
 納税者番号制度を導入することは賛成ですが、

(1)納税者番号制度は、もともと金融所得を損益通算することによる一体的課税を目的として論議されている制度である

(2)事業所得の捕捉手段としては、実務的にもコスト的にも不可能に近い

(3)自営業者・農業経営者は、自分の労務費以下、減価償却費・経費等を損金処理した後の利益に課税する

(4)給与所得者は普通、源泉徴収制度であるが、自営業者・農業経営者は、確定申告
   制度である

(5)管轄税務署独自に、既に納税者番号体系を有している

(6)法人格には、社会保障番号は付与されない

という事実からすると、大きな実効性は期待できません。

 私は、「納税者番号制度」を導入することで、消費税率引き上げと差し違えられる程に、その内容と効果に過剰な期待を寄せることは好ましくないと思います。

 番号制度を導入するメリットは、事業所得の黒字と金融所得の赤字を損益通算できることで、「貯蓄」から「投資」にマネーフローが変化することくらいです。

 デメリットは、情報漏洩リスクと導入費用対効果です。 (1)誰が番号を管理するか(2)データベースに何を記録するか(3)データを何に使用するかの乗数でそのリスクはいかようにも変化します。

 どちらとも言えないのが、自営業者・農業経営者の所得の捕捉率向上です。

 私は、今回の論点が、給与所得者の不公平感の緩和方法の模索であるならば、あるいは消費税増税のような提案への国民の理解を得る環境作りであるならば、むしろ

(1)給与所得者の確定申告の所得控除対象額(医療費・給与特別等)を、現在の半額に拡大する
(2)育児・教育関連費用を、確定申告で税額控除する

といった施策との抱き合わせの方がインパクトは大きいと思います。