高等教育費用 2009年5月20日
日本の家計に占める教育費負担の割合は22%と、30%の韓国に続いて2位の水準になっています。
これに対し、
(1)国公立大の学費、入学金は所得に応じたスライド制にする
(2)私立大生向けに、給付型奨学金を増やす
という提案がされています。
高等教育関連の家計の負担引下げについて考えます。
私は、提案の目標とされることには賛成します。 ただ、高等教育関連の家計の負担を引き下げるということがメインテーマですが、同時に、その負担した結果たる高等教育の内容もあわせて考えます。
(1)何が本当に大きい教育費負担か
現在の教育費で本当に負担が大きいのは、大学に入学するまでの教育費です。 すなわち、通常の学校費用以外に、塾・予備校・家庭教師・通信講座・習い事等の費用が必要です。 大学は4年間ですが、その前工程の7~8年間に毎年、国公立大学授業料とほとんど同額が必要というのが現状です。 普通の公立中学校・高校に行くだけで有名大学に進学できることなど、事実上無理と考える家庭が大半です。
1.国公立大の学費、入学金は所得に応じたスライド制
2.上位20%の私立大生向けに、給付型奨学金を増やす
という対策を講じても、
1.有力国公立大学生の家庭ほど、所得にスライドして学費は高止まりする
2.上位20%の私立大生が対象となれば、一部の大学が対象としてほぼ固定化する
という現象が生じることは明らかです。 普遍的ではありません。
私は、どのような家庭に生まれようとも、子どもたちが同等に教育を受けられる機会を持つことを命題とするならば、むしろアメリカの州立大学設置のポリシーが適切ではないかと思います。 すなわち、学費は安く、誰でも受け入れるが、卒業するにはそこそこ厳しいというものです。 実際、その対極にあるハーバード大学を始めとする有力大学は、日本の大学よりはるかにハイレベルで学費も高額です。
(2)日本の大学のレベルは、大学と呼ぶにふさわしいか
日本の大学進学率は、過去20年間で20%伸長しましたが、従来の専門学校が大学組織を併設したり、大学編入制度が拡充されたことが大きく、大学の裾野が広がった感があります。 反面、大学生の半数が、中学レベルの数学が充分できないという調査結果もあります。 抽選的な奨学金の支給は、定額給付金ばらまきと同じです。
機会平等は重要ですが、費用対効果の観点も必要です。 大学生にふさわしいレベルの奨学金支給対象者を選別した上で支給すべきです。
(3)日本の大学のあり方は、現在のままで良いか
日本の大学教育は、ほとんどが20代前半限りで終了し、およそ社会人がキャリアアップするために簡単にリターンできるような体制にはなっていません。 そのため、知識のインプットは大学卒業と同時にストップしてしまいます。 20歳前後で、自分の適材適所が把握できた学生は良いとしても、そうでなければ投資に対して大きな損失を招く結果となります。
現在、所得税法では給与所得者の特定支出控除がありますが、控除額は極めて少ないです。 学生に奨学金を支給することとあわせて、社会人になった後でも有能な人材が大学へリターンできる補助制度を、拡大構築することも考えるべきです。
(4)日本の大学カリキュラムは、どのように充実すべきか
タイム誌の世界影響力ベスト100人に、日本の政府関係者は入っていません。 そのキャリアからしても、大学教育の責任は大きいです。 能力育成の例として、
政治的リーダー育成(ディスカッション・政策立案・外交戦略等)
経済的 〃 (ノーベル経済学賞受賞・政策オピニオン等)のようなものが必要です。
アメリカには、誰でも受け入れる州立大学とともに、世界ランキング1位の大学も並存します。 一律に薄層な高等教育の裾野を広げ、大学定員を政策的に増やすぐらいなら、将来国家の体系と人材育成を考え合わせたカリキュラムを充実するべきです。 そして、それを踏まえた教育投資配分をするべきです。