尖閣諸島で尖って

 

尖閣諸島で尖って    2010年10月19日


 2010年9月7日に尖閣諸島沖で、日本の海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件に対する論評は、おおよそ以下の5点のようになっています。

これらについて考えます。


 (論評 1)
 菅政府は、外交音痴で弱腰であり、危機管理ができない。 検察に責任を押し付けてやり過ごそうという体質である。 また、外務省は「兵を出すという選択肢が最初からないのだから、仕方ないでしょう」と議論放擲する状態である。 結局のところ、フォークランドのように武力で実効支配しないと自国の領土にはならない。


 菅政府は、海上保安庁のVTRの公開もしません。 公開すれば、よくもここまで舐められて、5・6発殴られたような状態で平気な顔をしているものと世論が激高し、その結果あらゆる選挙で大敗し、たちまち民主党政権崩壊につながるからです。

 嘘八百を並べ、詭弁を弄し、「検察の政治的判断」を政府が承認したという前代未聞のシナリオに仕立てあげるしか、無難にやり過ごす方法は見つからないというのが大勢です。

 そのうちそれなりに、悪化した日中関係は取り繕われ、一時的に、表面的に、関係改善に見えるようになりますが、それで安堵し忘却するようなら、いよいよ菅政府のリーダーシップの無さは深まります。

 国内の課題であるならば、蒙古襲来の反対バージョンのごとく、家計と財政のゼロサムゲームであり、対策が遅れても国富へのダメージはたいしたことはありません。

 今回問題となるのは、排他的経済水域への影響です。 自国の財産を「強盗団まがい」に掠め取られ、それをまるまる太らせ、まるで日本は厩舎の牧童です。

 政府というものは、最も情報量も多く、判断力にも優れ、国民の模範たる存在であるはずですが、民主党菅政府の外交能力に関してはその片鱗も窺うことはできません。

 歴代の政府も評論屋も、ITバブルの頃は競争社会だ、勝ち組だと得体の知れない若年起業者を持ち上げておき、それらがことごとく頓挫して、リーマンショックと円高デフレの影響に直撃されるようになると、今度は高負担高福祉国家だ、北欧制度のものまねだと騒ぎ立てます。 この程度の予見能力しかない状態で、外交戦略を含め国家百年の大計などできるはずがありません。 チリの鉱山労働者のリーダーシップでも見習うべきです。

 中国は、「釣魚島領有権に関する温首相の3段階戦略」なるものを策定し東シナ海の新秩序を打ち立てようとしています。 それらに全面的に対抗するためにも、菅政府は「対中政策戦略会議」を立ち上げ、中長期段階的・経済的・軍事的に対中政策をどのように方向付けるのか、国内外に政府の姿勢を明確に表明するべきです。 そして、政権交代のマニフェストと同様、必達目標として掲示するべきです。


(論評 2)
 菅政府は歴史を学習するべき。 自民党時代からの曖昧先送りのつけが回っている。 歴史的には、国内向けには「固有の領土」、中国向けには「領土問題は棚上げしているが、実効支配は日本」という二枚舌を使っていた。 鄧小平の時には、尖閣諸島問題よりも日中平和友好条約を優先的に考えていたため、無理に決着しようとすれば両国の関係がこじれ、平和友好条約の調印が難しくなる。 そこで彼は、「次の世代の人間は自分たちよりも知恵があるだろうから、彼らに任せよう」と言ったのである。


1895年 下関条約後、台湾を日本に割譲、沖縄県に編入 南西諸島の一部を構成し、台湾及び澎湖諸島には含まれていない(外務省)
1896  古賀辰四郎に30年リース
1932  古賀家有償で払い下げ、私有地
1940  鰹節工場閉鎖で無人島
1945  米軍の沖縄統治
1951  サンフランシスコ条約で米軍統治下 中国は、同諸島が含まれている事実に対し何等の異議なし(外務省)
1968  国連アジア極東経済委員会、石油埋蔵量1千億バレルと発表
1972  沖縄返還
1978  鄧小平来日、日中平和友好条約調印で棚上げ
1992  中華人民共和国「領海法」で中国領と明記
2004  中国人7人上陸、強制送還
2005  2プラス2会議で島嶼防衛は日本の役割と規定
2008  台湾遊漁船「連合号」、「こしき」と衝突、沈没
2010  中国漁船、海保巡視船と衝突、公務執行妨害で逮捕・釈放

 項羽と劉邦の戦いには、「助けた小蛇は丈余の大蛇となって襲いかかる」の下りがあり、源平の戦いには、「頼朝の首を墓前に供えよ」の遺言が出てきます。 日中ともに、命運をかけた戦いに、無駄な情を持ち込むと後顧の憂いとなるというエピソードには事欠きません。

 中国は二十四史を有する記録の国であり、容易に過去の事物が消えることはありません。 むしろ熱しやすく冷めやすいのは良くも悪くも日本の特徴であり、今回は完全にその隙を突かれています。
  
 このような完全決着のついていない大課題が水面下に隠されていたということが、ライトアップされたという点では、今回の事件は事業仕分けと同様に成果はあります。 しかし、歴史の裏事情が理解されていない、そのために相手の出方を予測した危機管理もできていないという「評判通りの結果」となっています。
  
 民主党のマニフェストは、情報公開と可視化が主題です。 外交交渉のテーブルトークまで逐一公開する必要はありませんが、現状の課題と解決方向付けを明瞭にしようとしないから、いつまでたっても準備万端整わないのです。

 日本は、四方を見回しても、西方の竹島、南方の尖閣、北方の国後と国境問題を多数抱えています。 菅政府は、外交実行力の増強の裏づけとして、明治以降の歴史的事実・自民党政権以降の阿吽の呼吸と二枚舌・裏舞台で切るカードを十分に研鑽し、決着させる準備をするべきです。


(論評 3)
 日本国民の世論と行動が弱い。 日本国民は中国に対してもっと意思表示をしたほうがよい。 「大人の対応」などしても相手には通じない。 日本人はデモをヒステリックな行為だと考えているが、決してそうではない。 民主主義が認める、集団で意思や主張を表すための合法的な活動である。


 日本でも、尖閣諸島事件に対し数千人規模のデモが実施されましたが、何に遠慮してのことか既存のマスコミは十分に報道していません。 60年安保闘争のように、派遣切り失業等で鬱積した国民の不満を、一度噴出させることが必要です。

 海外からの旅行者の評判は、「日本人は親切」が定番となっていますが、親切と従順とはまったく異質であるということを、日本人は可及的速やかに再確認するべきです。

 中国は、レアアースの禁輸措置などは兵糧攻めのような「前世紀の遺物」に過ぎないことを再認識するべきです。 日本製品の不買、中国製品の不買を同時に実行すると、日中どちらが先にくたばるか、安物衣料・百円均一・毒入野菜がなくなって長期的に誰が困るかを冷静に判断するべきです。

 テレビ・新聞等の既存のマスコミだけには任せておけません。 市民レベルで動画投稿サイトをフル活用し、世界中に日本で大規模な反中デモが行われている状況を報道するべきです。 安保闘争再現のデモを実施し、日本の敵対国者が在住することは危険だと思わせるように世界中に放映するべきです。

 ようやく市民運動の成果として政権交代を達成しましたが、外交に関して菅政府は張子の虎です。 菅政府が、「予算委員会のとんまな問答」から脱却するためにも、日本国民の世論の本気度合いを見せつけるべきです。


(論評 4)
 中国の財力増強にともなう覇権主義の台頭への対処。 中国の軍事的プレゼンスの強化である。 この20年、中国の軍事費は年率2桁の伸びを示している。 特に海軍力を強化しており、今年から来年にかけて航空母艦を2隻造るとも言われている。また、「資源戦争」の始まりである。 日本には資源がないと言われるが、日本の排他的経済水域(EEZ)の広さは世界第6位である。 その経済水域の海底などには資源がたくさん眠っているため、実は日本は世界有数の資源大国である。


 中国のGDPは、2000年から2005年までの5年間の伸長率は2倍、その次の5年間で2.5倍、すなわち過去10年間で5倍に拡大し、現在は450兆円です。 日本の対中貿易では、輸出入額合計で10兆円から30兆円と3倍に拡大し、総額の20%を占めています。

 ここで、GDPの計算方法を再確認します。 

国内総生産 = 消費支出 + 投資支出 + 政府支出 + 経常収支(輸出 − 輸入) 

 

 このように、経常収支は「0」であっても、輸入材料を用いた完成品の消費支出はGDPに算入されるため、安価な労働力をてこにして海外企業を誘致すればいくらでもGDPを拡大することが可能です。

 中国は、2010年にはGDPで日本を抜いて世界第2位になりそうだと欣喜雀躍中ですが、GDPの3分の1は輸入部品を単純作業で組立加工したデフレ製品の垂れ流しで稼いだものです。

 「中国オリジナルは天津甘栗程度」しかなく、労務費の高騰にともないこのような垂れ流し状態が永続するはずもないため、安定的に資源を輸出し軍備拡張の源泉とする資源大国化をもくろむことは容易に想像できます。

 中国は、1968年に石油埋蔵が確認され、1978年に鄧小平が曖昧な先送りの発言をしたことが勝手な思い込みをするトリガーとなっていますが、日本の歴史的・実効支配的状況を厳に認識するべきです。

 このまま中国の見え透いた言いがかり行為を野放しにすれば、日本の対中感情は極度に悪化し、軍備増強論や核武装論が世論本流として勃興します。

 このような「いつか来た道」へ戻らないためにも、菅政府の対応は極めて重大であり、民主党代表選の公約どおり、身命を賭して尖閣諸島事件に立ち向かうべきです。


(論評 5)
 中国の国内事情による強行対応。 「ここで引き下がったら李鴻章になってしまう」-党中央の中堅幹部は、胡錦濤指導部の危機感を、日清戦争に敗北、全権として日本に台湾や遼東半島などを割譲する下関条約に調印したため、売国奴の代名詞となっている清末の政治家・李鴻章になぞらえる。胡錦濤総書記や温家宝首相は、寸土でも「神州大地(中華民族の神聖なる版図)」を奪われれば「李鴻章のように、民族の裏切り者として歴史に名を刻まれ、永遠に唾棄される」と身構えた。 また、「市場経済時代の漁民は恐れ知らず。国内外を問わず法律など一顧だにしない。豊漁が期待できる魚場があると耳にすれば、即飛び出す」「保釣運動家はほぼ完全に管理できる。けれども漁民は、どうしようもない。いとも簡単に国家の網の目を潜り抜ける。」と話す。


 日本は絶対に譲歩しないということを宣言するべきです。 日清戦争に敗北し、台湾や遼東半島などを割譲したのが施政者の当然の行為なら、ポツダム宣言を受諾してそれらを返還したのも同様です。 100年前に歴史的に帰納したことについていくら反証しても、何の意味もありません。

 それほどに手に負えない漁民がいると承知しておきながら、何等の対策を施さないのは明らかに中国政府の責任です。 日本の法律が刑事犯に手緩いことを良いことに、海賊同然の漁民を先兵としてのさばらせ、その処罰を日本に転嫁し、日本が捕まえて国内法にのっとり粛々と処罰すると言った途端に豹変します。 「中国は、不良児童を放任し、注意すれば反駁する、ごろつきまがいの父兄同然」です。

 10月17日の中国各地のデモと騒擾を見ても、彼の国民の知的道徳的水準は日本の全共闘賑やかなる60年代以下であり、「田舎の祭りと余興」そのものです。

 中国在留邦人は10万人、在日中国人は60万人、日本が提供したODA総額は3.5兆円です。 日本から有形無形の恩義をいかほど受けているか、それへの感謝も礼儀も教育もなく、無学無頼の徒を政府自ら反日キャンペーンとして利用すること自体、中国のレベルを表しています。

 もはや、どのような弁解も通用しません。 中国はいっそう醜態をさらけ出し、世界中の笑止者となり、決定的に日本と対決するのかしないのか、国民世論を方向付けるべきです。 「カンタン」ではありません。