円高の是正は再び?

 

円高の是正は再び?    2012年11月3日


 日本の経済を苦しめ、雇用を流出させている円高に対しては通貨量の発行を為替が十分に是正されるまで増やすことを政府が日銀に命令し、日銀がそれに従わず、その説明責任が十分に果たせない場合には、幹部が解雇されることを明記した日銀法改正が提案されています。

円高の是正と日銀法改正について考えます。


 1.現在の円高原因

◆中国企業 → 対米輸出(ドル建て) → 対米代金決済(ドル) → 中国人民銀行通貨発行・交換(ドル→元) → 外貨準備(ドル) → 対米輸入(ドル建て) → 対米代金決済(元売りドル買い) → 輸出が多ければ、元安ドル高となる


◆中国企業 → 対日輸出(ドル建て) → 対日代金決済(ドル) → 中国人民銀行通貨発行・交換(ドル→元) → 外貨準備(ドル) → 対日輸入(ドル建て) → 対日代金決済(元売りドル買い) → 輸出が多ければ、元安ドル高となる


◆日本企業 → 対米輸出(ドル建て) → 対米代金決済(ドル) → 市中銀行通貨交換(ドル→円) → 外貨準備(ドル) → 対米輸入(ドル建て) → 対米代金決済(円売りドル買い) → 輸出が多ければ、円高ドル安となる


・この中国人民銀行通貨発行・交換(ドル→元)というプロセスが、政府紙幣の発行と同様になる。

・通貨を発行した国では為替差損益は計上されず、通貨を発行しなかった国だけがこの為替差損益を計上する。

・日本は、日本銀行の通貨発行権と市中銀行の外貨決済権が分離されているため、外貨建て取引では為替差損益が企業会計上に発生する。

・輸出額が増加するほど外貨準備が増加するため、外貨売り人民元買い圧力が高まる。すなわち、人民元高外貨安となるのであるが、中国人民銀行は外貨と人民元を等価交換することにより、為替差損の発生を防止している。

・しかし、この政府紙幣政策は人民元がだぶつきインフレ圧力が働くが、それを回避し、かつアメリカ等の人民元切り上げ圧力に対抗するために、人民元建て決済を目論んでいる。

・日本も政府紙幣を発行し、為替差損益の発生を抑制することは可能であるが、インフレ圧力を抑えるための公定歩合引き上げと、円建て決済圏の拡大によるドル基軸通貨との軋轢が懸案となり、困難である。


 以上のように、中国が2000年以降台頭し、貿易収支黒字化のために元安ドル高政策をとり続けています。 そのために、ドルが基軸通貨ということもあり、相対的に円高ドル安となります。

 この状況は、アメリカから見た場合、日本向けには輸出が行い易く、輸入が行い難い、また中国向けには、輸入が行い易く、輸出が行い難いということになります。

 すなわち、アメリカは日本に石油・原材料・農産物・国債等を輸出し、中国からコモディティ製品を輸入すると、最も貿易収支上有利に展開できることになります。

 また日本も、欧米に対して貿易摩擦を誘発する円高対策よりも、価格競争力を強化し、マーケットを確保するために、中国の安価な労働コストに依拠した設備投資を実施し、中国市場に進出を続けたのです。


2.円高の是正

 上記のように、日本も政府紙幣を発行し、企業収益を良化させることは容易ですが、公定歩合引き上げによる国債利払いの急増と、円建て取引の拡大によるアメリカとの摩擦が大きな課題となります。

 現在、日本・アメリカ・中国で、世界のGDPの半分を占有しています。 この状態で、日本が通貨発行量により為替レートを操作することは、相当なインフレーション誘発の危険性があります。 しかしながら、財務省主体の円高対策である外貨準備を使って国内産業の海外投資を促進することや、一時的な為替介入などでは、円高を前提として産業の空洞化が進展するだけです。

 私は、以下のケインズ政策を変形した「産業再起動政策」を実施することにより、インフレーションを誘発することなくデフレ状態から脱却できると思います。

    
(1) 中国に投資した日系企業生産工場を引き上げ、内需生産に戻す

 日本の2011年度の実行ベースの対中直接投資額は7000億円、累積投資額は8兆円です。 欧米諸国の企業が中国市場から撤退を始めるなか、日本だけが対中直接投資額を増加させています。

 平均60万円の収入を得ながら、その恩義も理解できない中国人を雇用し続ける必要などありません。 日本は生産工場を中国から即刻撤退し、中国内の雇用悪化を招かせ、失業率を上昇させるべきです。

 生産工場を中国から撤退・国内復帰させる企業には、減価償却費の未償却分を一括償却し損金算入させる特措法を制定し、事実上の法人税減税を実施することで製造原価を圧縮します。

 また、労働意欲のある高齢者を優先雇用し、若年層に技術伝承する機会を設けることで、国民年金財源の逼迫を緩和します。

 このように、付加価値の高いコモディティの生産を国内復帰しやすくすることで、日本国内の雇用環境を良化し、少子化に歯止めをかけることができ、内需拡大・税収増加に貢献します。


(2) 中国・韓国には技術流出しない、高度加工技術を育成する

 将来の成長に向けた布石として、以下のような社会インフラの構築と一体化した産業政策を推進し、パッケージシステムとして世界標準にするべきです。 インフラと一体化するためコモディティとならず、中国・韓国には技術流出しないというメリットがあります。

1.次世代自動車(太陽電池パネル+電気ステーション+EV+高速道路ナビ)
2.太陽光発電
3.省エネ住宅
4.サービスロボット
5.バイオ


(3) 防衛産業を育成する

 アメリカが次世代の製品開発に強味があるのは、NASA・軍事・航空・コンピュータ産業を独占状態に保っているためであり、常に世界最先端技術を保有することを必要とする環境が醸成されているからです。

 日本は、これらの産業が未発達のため技術競争意識が働きにくく、民生用の規格大量生産型産業が主体となりがちです。 対中政策の為にも、沖縄米軍の肩代わりの為にも、防衛産業の育成と発展を図るべきです。