スポーツで医療費減? 2012年10月25日
社会保障費の収支を改善する方策として、成人で週1回以上スポーツをしている割合を59%から75%に、週2回以上1回30分以上の運動を行っている割合を現状の18%から40%に引き上げるという、運動習慣作りが提案されています。
運動習慣作りについて考えます。
1. 運動習慣はどのように作るか
社会保障費の収支を改善する方策として、運動習慣を構築するということですが、運動であれ学習であれ、習慣化するためにはまずモチベーションが喚起されることが必要であり、次にそれを実行する余裕が必要です。
まず、惰性は価値を求めませんが、モチベーションは価値が必要です。 モチベーションを与えてくれるものは次の3つであると言われています。
(1)自律性 ・・・ 自分の人生のことは自分で決めたい
(2)熟達 ・・・ 進歩していきたい
(3)目的 ・・・ 世界を変えたい
すなわち人間は、運動することで得られるものにこのような価値を見出すことができれば、モチベーションを喚起することができます。
次に、それを実行する余裕です。
日本と欧米の労働時間比較がされますが、残業時間を含めずに日本は1800時間/年、欧米は1600時間/年というあたりが通説となっています。 すなわち、余暇時間が欧米のほうが200時間/年多いということです。
そのうえ、長時間通勤・有休消化率の低さ・残業・休日出勤等が重なるため、日本と欧米の余暇時間の差はさらに大きなものとなります。
日本と比べると、イギリス、フランス、オーストラリアなどでは、成人が自転車や水泳、ジム、エアロビクス等の、より豊富な運動量のスポーツに定期的に参加しているといわれますが、この余暇時間の差による影響を検討しなければなりません。
また、日本のスポーツの定義はあいまいで、フィットネスクラブや地域の運動クラブで行う運動になると、週1回以上行っている成人は実は17%に過ぎないということです。(笹川スポーツ財団調べ)
すなわち、日本の現状は、現役世代はワークライフバランスが十分に取れない限り、モチベーションだけでは運動習慣作りは非常に困難であるのに対し、リタイア世代は時間的・経済的余裕はあるため、モチベーションが喚起されれば運動習慣作りは容易であるといえます。
2.運動習慣作りが社会保障費の収支改善に直結するか
運動習慣を構築するということが、社会保障費の収支の改善に直結するのかどうか、直結するとしてどの程度かということが曖昧です。
まず、社会保障費の中でも、健康保険(医療費)の増加は、高齢者の増加と医療高度化による高額な治療・投薬の増加が主な原因です。
次に、日本人の労働慣習として社内外の接待交際があげられます。 これにともなうカロリー摂取量を管理しないと、メタボシンドロームは防げず、運動習慣作りの効果が相殺されることになりかねません。
さらに、「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)により、加齢とともに筋力、持久力、運動速度、バランス能力などが低下することで、移動が困難になったり、骨折しやすくなります。 若い間は何もしなくとも影響がないため、運動習慣作りにつながりません。
以上のように、運動習慣作りが社会保障費の収支改善に、どの程度直結するかを測定することは困難です。 しかし、ランニングを例にとると、以下のような身体的効果は確認できます。
1 体脂肪率8%を維持できる 7 血行・冷え性・肩こりを改善できる
2 標準体重-8㎏を達成できる 8 免疫力UPで丈夫な体になる
3 早寝早起きを習慣化できる 9 睡眠時間を7時間確保できる
4 脳の働きが活性化される 10 汗腺が活発になり代謝も進む
5 着地の刺激で骨が丈夫になる 11 ストレスが解消できる
6 飲食量・睡眠不足を管理できる 12 生活を規則正しくできる
3.運動習慣をどのように財政補助するか
上記のとおり、運動習慣を構築するためにはまずモチベーションが必要であり、次にそれを実行する時間的・経済的余裕が必要です。 したがって、経済的余裕があるということは、現役世代が運動習慣を構築する一助になります。
現在、東京・大阪マラソン等の大規模なイベントが開催されていますが、開催地や参加人数も限定され、費用も相当高額となり参加者には大きな負担となっています。 このような限定地域イベントだけではなく、全国に多数のイベントを創設し、参加費も無料にできるように財政補助を行います。
また、会員制の有料スポーツクラブジムが各地にありますが、利用できる人は経済的に余裕のある人に限られがちです。 この会費を財政補助するということも行います。
そして、この財政補助額と医療費減少額との相関関係を調査し、各人毎にポイント化して、補助率を都度決定するという制度を創設します。
その他の方法も併せて、スポーツ基本計画の策定に掲げられている、「スポーツを通じてすべての人々が幸福で豊かな生活を営むことができる社会の創出」を行うためにも、社会保障費用収支の改善に明瞭に寄与する制度設計を行うべきであると思います。