相対的貧困率 2009年11月8日
日本の相対的貧困率は、OECD30カ国中4番目の高さです。 加えて、下位10%の国民の平均所得は日本は6000ドル(約54万円)とOECD平均(7000ドル)を下回ります。
これに対し、相対的貧困率を全国平均・子ども・高齢者は10%未満、ひとり親家庭はOECD平均の30%未満にする数値目標を置くという提案がされています。
日本の相対的貧困率について考えます。
私は、相対的貧困率の低減という提案に、総論としては賛成します。 しかし、各論として余りにも矛盾が多いと考えます。
日本は欧米諸国や国連常任理事国と異なり、武器を輸出することは禁じられています。 また、現在でも実質的にドルが基軸通貨のため、世界をリードする金融商品を開発・販売することも成し得ません。 民生用の自動車・エレクトロニクス製品等の工業製品を外需依存し、付加価値を稼ぐ以外に、十分に雇用を確保し生存する道はないのです。
ところが、21世紀以降、中国を中心としたアジア諸国の生産能力が増大し、日本の労働集約的産業はもちろん、資本集約的産業でさえも生産シェアが減少していく時代と変化してきました。 残るのは、一部の重化学と知識集約的産業という状態です。 そして、このようなことは遠からず現出すると予想されていたことでもあります。 実際、トヨタ自動車1社の生産能力で、日本の内需は十分まかなえる状態です。
某製造業の従業員構成を1つのモデルとして提示します。 このように4種類の職種で構成されています。 このうち、企業直雇用は正社員・契約社員・アルバイトです。
正社員 無期契約 人数シェア 33% 労務費シェア 55%
契約社員 1年契約 〃 12% 〃 11%
アルバイト 半年契約 〃 32% 〃 20%
派遣社員 3ヶ月契約 〃 23% 〃 14%
現在、製造業はこのようにして労務費という製造原価を圧縮し、経営を続けています。
他方、製造業だけでは雇用確保が足らず、公共事業投資による雇用確保のため、累積800兆円の国債・地方債の相当部分がそれに投入されてきたことも事実です。
八ツ場ダム以下多くの建設工事・・地元住民でさえ無駄な建造物とわかっていても、雇用確保対策として実施
特殊行政法人 ・・経営実体のない厚生施設や効果分析のない海外援助(ODA)投資
等はその代表例です。
来年度予算も、税収の減少と厚生経費の増加で、40兆円以上の国債増発の見込みですが、この方法も遠からず行き詰ると思います。
私は、以下の矛盾とその考慮が必要と考えます。
1.今般のJAL支援策のように、数の理論で過去に約定した個人の財産権を侵害してでも企業存続をはかる場合もありますが、日本国全体としてそのような方法がコンセンサスを得られるか不明です。
そうでなくとも、政府主導で労働力の流動化・実力主義化・年金の確定拠出化と煽り立ててきたことと整合性がとれません。
2.所得の再配分の名の下に行われてきたのは、ほとんどが特殊法人化と公共事業です。 相対的貧困率の引き下げという目標は総論として賛成しても、それに対する政府の政策は信用できません。
現に、今更のように、「子ども手当て」「教育費の無償化」等の国民目線に立った制度を創設し始めているのであり、それらを実施するべき時期を完全に逸しています。
3.購買力平価との兼ね合いもあり、相対的貧困率を全国平均・子ども・高齢者は10%未満、ひとり親家庭はOECD平均の30%未満にしても、デフレ対策の効果は不透明です。
日本の物価水準では、少々所得が増加しても、まず遊興費や貯蓄に消えるということが実態です。
4.家計収入と教育水準との相関関係が指摘されています。 国民全般的な家計収入の減少は、教育水準の低下につながります。
相対的貧困率を引き下げることは、政策を誤ると諸外国と比較して教育水準まで引き下げることにもなりかねません。
5.格安ジーンズ・格安食品等全盛ですが、原料は大部分が海外諸国産品です。 そのような製品がいくら売れても原料調達という内需拡大にはほとんど貢献せず、むしろ既存産業の足を引っ張ります。
中途半端な対策は、既に多額のODAを提供している海外諸国をさらに豊かにするだけです。
6.安易な増税に頼るのではなく、食傷の新規殖産興業でもなく、上記の労働力の構成と国民の人口構成を踏まえ、中長期的なグランドデザインを描くべきです。
そのために、政権交代したのです。