終身雇用制度

 

終身雇用制度    2009年4月16日


 日本は終身雇用制度を基本に社会システムを設計しているので、それに包含されない労働者に対する十分なセーフティーネットが整備されておらず、派遣切りのようなしわ寄せが起きています。

これに対し、

(1)失業保険の給付強化
(2)公的負担の職業訓練充実
(3)ジョブカード制の普及・強化

という提案がされています。

終身雇用制度について考えます。


 私は、提案の目指されるところは賛成です。 しかし、この論点は限りなく解決困難なものであると思います。

終身雇用制度は、年功序列賃金制度と同様に法制化されたものではなく、戦後半世紀の間に整備された経営上の慣行です。

その根拠は、

(1)継続的勤務をすることによる、業務能力の向上発達に見合う報酬として

(2)形に表せない、本人しかできない技術を蓄積し伝承する能力に見合う報酬として

(3)将来の経営幹部候補者としての、訓練・準備に見合う報酬として

(4)家族の増加・成長を通して、将来の労働力蓄積に見合う報酬として

(5)従業員の継続的確保のための、福利厚生とモチベーションとして

ということがあげられます。

 確かに、終身雇用制度を維持するには、内需・外需を問わず高成長とそれに対応する人口増加が必要で、昨今その条件を満たせなくなりつつあります。 「もはや、終身雇用は維持できない」というよりも、「国際競争力を維持するためには、日本の賃金水準では、全従業員を対象にした終身雇用制度は維持できない」時代になったということです。

 日本の産業構成は、自動車・電機・鉄鋼産業の完成品メーカーだけで100兆円、その下請け関連を含めるとGDPの半分近い生産額となり、そのマーケットは内需だけでは全く足りず外需依存となります。 中国を筆頭にアジア諸国が世界の工場と化した現在、国際競争力がなければ、工業製品輸出国の雇用の確保と生存する道は閉ざされます。

 ところが、日本では、従業員は時間をかけて社内で育成するものという考え方が強く、まだまだヘッドハンティングのように外部調達でまかなうという風土ではありません。 また、ドイツのマイスター制度のように、そのような風土は日本固有のものではないことも事実です。

 この種の伝統的制度・規範から生じる課題を論じると、抜本的解決策は現れず、いつも中途で行き止まりになってしまいます。 その最大の理由は、日本のGDPの半分を担っている企業が、それらの制度を経営上の慣行として必要としているからなのです。

 私は、今後以下のことを行うべきと思います。
  
(1)失業保険を給付強化しても、それにより再就職率が急増する保障はありません。 むしろ、安易に失業保険を需給し、それが終了しても不就業状態が続いている場合、より悲惨な結果を招きます。 労働者特に非正規雇用者は、雇用の不安定さを認識し、将来のために貯蓄と自己研鑽というセーフティネットを日頃から張るべきです。 同時に、その自己研鑽は、複数の業種にまたがることができるものであることを心に留め置くべきです。

(2)ジョブカード制の普及を図るとしても、それはひとえに企業の雇用姿勢に依存します。 現在既に、同じ業界の同じ職種であっても能力レベルに格差があります。 企業は、どの程度までそのレベルを標準化できるのか、ジョブカードを公的資格として認証するのかを明確にすべきです。 現在、ジョブカードは何の市民権も有していませんが、雇用責任の一環として有効化することは必要です。

(3) 公的負担の職業訓練充実は重要ですが、社会人になってからでは遅すぎます。 一般的な職業訓練よりも企業のOJTのほうがはるかに強力で実践的であるため、継続雇用の従業員と途中採用の従業員との能力差は、時間の経過とともに開く一方です。 政府は、特に中高生の学校教育において、数学や英語だけではなく、自己責任の意味・金銭管理の重要性・社会人生活の基礎知識等を学ぶ教科を整備すべきです。 高校を卒業すると、すぐに半数以上の人は社会人となります。 現状は、あまりにもそのような教育システムがなさすぎます。

(4)その他の手立てとして、

   ・第1次産業の公的支援による活性化と雇用拡大
   ・官営事業の民営化推進          〃
   ・学校教育の職員、設備、内容拡充による  〃
   ・医療、介護の職員、設備拡充による    〃

   等があげられますが、いずれも決め手に欠けます。 

産業構成と慣行に関する課題は、それほどに対策が困難なものと再認識します。