出生率減少

 

出生率減少    2008年12月22日


 日本の合計特殊出生率は2007年度で1.34と、OECD諸国中最低水準です。

 これに対し、

(1)年間約2兆円の財源を投じて、3歳未満の児童手当を現行の月1万円から5万円に増額する
(2)待機児童解消のため、3歳未満の認可保育園の受け入れ児童数を現在の65万人から100万人にする

という提案がされています。

 出生率減少について考えます。


 私は、角度を違えて提案に賛成します。

 通説は、「日本の合計特殊出生率が、OECD諸国中最低水準である背景は、政府からの育児に対する家庭への金銭的な支援が小さいため」ということですが、それほど簡易な理由でしょうか?

 日本の1人あたりのGDPは約400万円です。 その順位は為替相場の動きに伴い大きく変動していますが、概ね5位~10位です。 この事実からしても、決して可処分所得の多少だけが少子化の原因とは言えません。 私はむしろ、日本の大都市と地方都市の生活環境の相違が大きいと思います。

 日本では、夫婦が出産数を決定する場合、外部環境と将来への期待が大きな要因となります。

 まず外部環境ですが、例えば近所に自分の両親が居住する場合の安心感、あるいは通勤の利便性や周囲の育児理解度などがあげられます。 
私は人口10万人の地方都市に居住しています。 全世帯の2割から3割は3世帯同居かそれに近いです。 当然のことながら、認可保育所は数ヶ所だけで、待機児童が多数存在するということなど聞いたこともありません。 1世帯あたりの子どもの数は1人か2人が8割、3人以上が2割となっており、出生率の平均は2人程度です。
 
 次に将来への期待ですが、例えば跡継ぎの用意、家業の伝授、教育による立身などがあげられます。古い時代の話になりつつあるとはいえ、特に地方都市では、「家」の跡継ぎという観念は根強く残っています。 男子出産という確率論からすれば、自ずと出生率は2人に近くなるのです。 また、祖父母が近所に居住するケースが非常に多いため、資金面での支援も充分すぎる程です。 地方都市に対して、認可保育所を増やし、児童手当をばら撒いても、出生率はほとんど変わりません。

 だとすれば、「日本の合計特殊出生率が、OECD諸国中最低水準」という問題は、東京をはじめとしたほとんど大都市固有の問題と捉えるべきです。 都会生活への憧憬や就職等の理由で若年層は大都市に集まります。 ところが、衣食住・サービス何をとっても高額である、住環境は狭い、通勤時間は長い、親同士の競争意識は激しい、行政サービスも追いつかない・・・議論され尽くした大都市の課題は、当然に、真っ先に子どもの養育環境ひいては出生率に影響します。

 本来なら、大都市に吸い上げられた法人税以下の税収を地方に還元していただくところですが、この提案を実施すると、還元されるべき地方の財源をもって大都市の育児手当や保育園職員の雇用の費用負担をしなければならなくなります。

 しかし現状は、この大都市と地方都市との財政アンバランス是正を無視してでも、日本の合計特殊出生率1.34を対策しなければならないところまで切迫してきています。 また大都市で暮らす若年層の人たちにも就業の機会と育児の機会を充分に与え、親としての活動に参加していただかなければなりません。 これ以上、子育てを経験しない大人が増加することは、社会的に好ましくありません。

私は、このように機会平等という角度から、あるいは2兆円の定額給付金支給という愚行を省みて有効的支出方法を考えるという角度から、提案に賛成したいと思います。