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Title : BookShelf 2001
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2001/11/26
『生命学に何ができるか』 (森岡正博;勁草書房)

 私が学生の頃に、この森岡氏の著作で『生命学への招待』というのを読んだ。この本は言わばその続編だ。もちろんこの本だけを読んでも、氏の提唱する生命学の輪郭を追いかけることは十分可能である。
 氏の定義によれば生命学とは「生命世界を現代文明との関わりにおいて探り、みずからの生き方を模索する知の運動のこと」である。おそらく、生命学という学問を学んで生命学から何かを得ようとすることは生命学を学んだことにならない。私が、そして他ならぬあなたが自らの生と格闘し、そこから何かを導き出したその答えの蓄積が生命学となっていくのだ。

2001/07/23
『日本経済の生産性分析』 (中島隆信;日本経済新聞社)

 この本については山形浩生氏のコラムにあったので買って読んでみた。
 日本経済の生産性、特にホワイトカラーの生産性って全然改善してないって言われつづけてきてるし、みんなも、間接部門って役に立ってないよなっていう実感を持ってたりするわけだけれども、それをきちんと数値で分析したらそうじゃないんだという話。
 ロジックは極めて明快。
 製造業については、産業として全体の生産性は統計で把握できる。また別の統計から製造業の製造部門の生産性も把握できる。ならば、製造業の間接部門の生産性についてはその引き算で求められるじゃないかってこと。正確には生産性そのものの数値ではなくその伸びを比較してるんだけれども。

 具体的な数値を上げると、1985年から1996年までの期間で電気機械製造業では平均して1.0%生産性が向上していて、その寄与率は製造部門が0.1%。残りが間接部門。輸送機械業に至っては、製造部門が-1.1%(つまり悪化)であるのに対し、間接部門は0.4%。

 いやぁ、何でもそうだけど、特に政策とか論じる人はこういう数値・分析をきちっと押えとかないとヤバイな。

2001/07/16
『選挙に行く前に読んでおけ。』 (福田和也&大塚英志;PHP研究所)

 この本(というかリーフレットだな、これ)は、確かに選挙に行く前に読んでおくべきだ。もちろん筆者の出している結論に従うか否かは各人が判断すべきことではあるけれども、指摘している論点については一通り考えた後に具体的な投票行動に出るべきだろう。そうでないと、きっと後悔することになる。
 筆者たちはインパクトが強いように「自分の属する『階級』を意識して投票せよ」と言ってる。「中流の中」とかぼんやりした認識じゃなくて、自分が今背負ってる、または将来背負うことになる負債・負担がどのようなもの/どの程度のものになるのかをシビアに認識して、自分の属する領域が来るべき構造改革で強化されるのか淘汰されるのかを見極めないと、人生設計に響く危険性が高いのだ。
 「痛み」は「失業」よりも先に「増税」という形でくるんだろうなと思ってたけど、それもこの本で指摘されてる。

 ま、読んで、じっくり考えて投票してくれい。

2001/06/17
『ニヒリズムからの出発』 (竹内整一・古東哲明編;ナカニシヤ出版)

 最近、「明日があるさ」って言う歌が流行ってる。
 最近、「癒し系」だけじゃなくて、この手の「諭し系」というか、「励まし系」が流行ってるらしい。とは言え、「明日があるさ」って言われて「ああ、そうだよ、明日があるんだよ!」と思える人は、既に「明日がある」と思ってる人なのだと思う。
 「明日なんてないさ」って思ってる人間にとって、「明日があるさ」という言葉を投げかけられても、鼻でくすっと嘲笑するだけ、だろう。

 「死ぬ理由もないけど、生きる理由もない」と遺書に書いて飛び降りちゃうような女子高生にとって、 「明日があるさ」という言葉は無力だ。
 この本にもあるし、このサイトによく来てくれる ゆにさんサイトにも書いてあるけど、逆だ。「生きる理由もないけど、死ぬ理由もないでしょ?」と言ってあげなきゃ。確かに理由なんてないんだ。それでもみんな生きている。その理由を探してみろよって言ってみる。ニヒるなら徹底してニヒるんだ。ニヒリズムそのものをもね。

2001/06/06
『リナックスの革命』−ハッカー倫理とネット社会の精神− (P.ヒマネン;河出書房新社)

 この副題を見て、M.ウェーバーを思い出したあなたは社会学通である。そう、これはウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(いわゆる『プロ倫』)を踏まえている。…というか、原書のタイトルはそちらなのだ。しかし日本版を作る時点でいかにも時代迎合的なタイトルになってしまっている。まあ、最近の書店の店員(またはバイト)の質ってかなり下がってて、自分の担当の分野とは場違いなところに場違いな本を置くことが最近は多く、『プロ倫』並みの名前なんかつけると下手したら社会学関係のところに置かれてしまうに違いない。
 しかし実際のところ、ネットワークの発達・インターネットの成長により発生したハッカーたちの行動倫理を社会学的に解析し説明しているのはなかなか知的に興味深い。ハッカー達の行動倫理がどこまで一般化されるかはなかなか難しい側面があるが、なぜ、GNUみたいな運動が成立するのかということを理解するためにの一助にはなると思う。「それ自体が楽しいからやる」というのは正しい行動原理だと私は思う。

2001/03/19
『「日本型」思考法ではもう勝てない』 (平尾誠二;ダイヤモンド社)

 私はかなり乱読しているように思われてるけれども、実はそうでもなくて、何人かアンカリングしている…というか、常にその人の言動とか著作をチェックをしている人がいる。この平尾氏もその1人だ。
 この本は心理学者の河合隼雄氏・プロ野球選手の古田敦也氏・経営学者の金井壽宏氏との対談なのだが、いかに平尾氏がラグビーの試合運びを中心に、情報のあり方・組織のあり方を考え抜いているかがよくわかる。
 この本を読んでいて面白いなと思った点をいくつかピックアップしておこう。

 平尾氏は、神戸製鋼が8連覇を阻止された直後の著作(対談)で、「今度、神鋼ラグビーが爆発するときは、日本のラグビーを根本から変えた時だ」という意味のことを言っていた。私はこの言葉にゾクッときた。
 もちろんラグビーと言うのは相手のあるスポーツのことなので、考え抜いた結果がそのまま実現されるわけでもなく、平尾ジャパンはワールドカップに出たものの、惨敗。まだまだ「爆発」してない。私は、平尾氏の言う、爆発したラグビーを見てみたい。
 その時は、そのようなラグビーを生み出す社会的素地が日本にも芽生えた結果なのだ。おそらく、その時、日本も(いい意味で)爆発できるだろう。

2001/03/07
『生命の文法』 (中村桂子&養老猛司;哲学書房)

 この本を読んで、生命って「こと」のことなのだ、と納得した。「ものごと」の「こと」ね。「(起こる)こと」と表現すればいいのかな。今、「(起こる)こと」じゃなくて「(起こる)こと」と書いたのは、やはり言葉は生きたものを固定化してしまう力を持っていて、確かに何かが起こっているのだけれども、それを「(起こる)こと」と書いた瞬間に、「起こったことの記録」になってしまって、それはもはや「(起こる)こと」ではない。でも、「(起こる)こと」と言わなきゃ伝わらない。でも「(起こる)こと」と書かれたこと、そのこと自体は否定しなきゃならない。だから「(起こる)こと」。
 ま、とにかく、読んでみてくれい。

2001/02/13
『IT革命のからくり』 (月尾嘉夫&田原総一朗;アスキー)
『新世紀への英知』 (渡部昇一&谷沢永一&小室直樹;祥伝社)

 別にこの2冊、内容に関連があるっていうわけではないんだけれども、ちょっとね。

 まず『IT革命のからくり』のほうだけれども、前書きで田原総一朗が月尾さんを持ち上げてるけど、私自身は、月尾教授の本は数冊読んだことがあり、セミナーで実物を見たこともありますが、さほど「キレ者」という印象はありません。インターネット上で流通している技術を丹念にフォローしている身から見れば、さほど斬新なことを主張しているわけでも画期的なことを言っているわけでもなく、んー、「そんなん、大学のセンセが今ごろ力 説すんなよ」という気がしています。 …と傲慢なことをひとしきり言ってしまいましたが。
そういうレベルの議論が先端と思われてしまうほど日本は遅れてるってことだと思います。
 もし、この本を読んで「すげぇ〜!」とか「世の中はこうなるのか!!」と感じた人は、確実に世の中から取り残されているし、これからも取り残されるでしょう。

 次に『新世紀への英知』のほうだけれども、著者らが位置付けられているポジション(それが著者本人の意図にかなうものかどうかはともかく)である、ガチガチの保守(…って言うか、いかにも森首相のようなオジさんが好みそうな意見)を展開している。もちろんそれはそれで意味がないわけではないが、そういう立場からはそう見えるだろうということはわかるのだが、そういう立場に立ってない者に対する説得力に乏しい。

【まとめ】
 要するにどっちの本も、著者が従来言ってることをもう一度言ってるだけ。

2001/02/06
 『VC 新しい金融戦略』 (村上龍;Japan Mail Media Vol.11;NHK出版)

 このシリーズでは様々なテーマで議論がかわされるわけだが、今回の話題の1つに「既得権益層とは何か。彼らをリタイアさせるインセンティブとは何か。」というものがあった。
 「既得権益層」といえば、「持つ者」と「持たざる者」という対立軸があり、「持つ者」の側が既存のしくみを温存しようとあの手この手を尽くす…という構図を思い浮かべがちで、大抵の人が自分はそちらに属していないと考えがちなのだが、そもそも、日本全体が世界から見れば既得権益の側にいるわけだ。
 「挑戦者」が「勝者」になろうとする力(=現状を変革していこうとする力)が、資本主義社会を活性化させるわけだが、「勝者」になってしまったら、「勝者」でありつづけようとして現状を固定しようとする力を発揮してしまう。これって、実は資本主義のかかえた根の深い矛盾かも。

2001/01/29
 『人道援助、そのジレンマ』 (ロニー・ブローマン;産業図書)

 この本はブローマンの著作というよりは、ブローマンへのインタビュー集だ。
 さて、ロニー・ブローマンという存在が日本でどれほど浸透しているかは微妙だが、NGO・「国境なき医師団」の理事長を1994年まで勤めていた医師である。「国境なき医師団」とは、紛争地に分け入り、医療活動を行う医療チームを派遣するNGOだ。「国境なき医師団」の活動をご存知ない方がこういう説明を聞くと、その理事長ってのはバリバリのサヨクなのかと思われるかも知れないが、ちょっと違う。この本の前書きにもあるけど、「果てもなく地上で繰り返される非常事態の下を生きぬくアナーキーな人道活動家」だ。
 なぜ「アナーキー」なのかと言うと、「国境なき医師団」の活動を、徹底して人道援助の分野に限定し、政治や軍事の/への介入を断固として拒否する姿勢を貫くからだ。

 ブローマンは人間とは苦しむようにつくられていない者であると言う。
 そこには、メディアが喜びそうな、お涙頂戴的センチメンタリズムはない。自己賞賛もない。ただ、そこに苦しむ人がいるから救護する。ところが、そうして紛争地で救護して回復した兵士が再び戦場に向かうことだってないわけではない。またそのように救護することが(政治的な活動をしないという意図に反して)政治的な行動に見えてしまう。…日本で「人道援助」といえば手放しで賞賛されてしまうもののように捉えられるが、現場ではさまざまな矛盾(ジレンマ)がある。この本はそのジレンマとの格闘の記録でもある。

2001/01/28
 『バカのための読書術』 (小谷野敦;ちくま新書)

 いやあ、久しぶりに「バカ」っていう言葉をタイトルにしている本を見た。
 そうそう、最近は「バカ」に「バカ」って言いにくい時代なのだ。ちょっと前、チョコラBBのCMで桃井かおりが「世の中、バカが多くて疲れません?」っていうのがあったんだけど、クレームがあったとかで、すぐ「世の中、利口が多くて疲れません?」に差し替わってた。だ・か・らぁ、そういうことにクレーム入れるヤツがバカだってぇの。
 おっと、話が脱線した。で、そういうご時世なのに、敢えて「バカ」って書くのは、戦略的な意味がある。著者は「バカ」を罵倒用語として用いてはいない。「学校は出たけれどもっと勉強したい人、抽象的な議論はどうも苦手という人」を指している。そうそう。日本には掃いて捨てるほど出版物があるのに、確かにそういう層が読めるのが少ない。

 著者も指摘してるけど、確かに最近、社会全体的に「教養」のレベルが落ちてる。会社の同僚とか、大学の後輩とかと話をしていて、「え? こんなの中学で習ったことだぞ?」ってことを知らなかったりする。知的なパロディ(Wittというべきか)では笑いをとりにくくなってしまってる。何しろ、元ネタを知らないので、それを微妙にズラすという「通」の楽しみがわかる人種が減ってしまった。
 やっぱ、「バカ」に「バカ」っていいたいなぁ。
 そうなんだ、「バカ」って言われて怒り出す人って、本当は自分は「バカ」なのにそれを認めたくない人なんだな。「バカ」じゃない人ってのは自分の「バカ」さ加減を認識しているもの。

2001/01/17
 『無責任の構造』 (岡本浩一;PHP新書)

 なぜ組織は腐敗し、不祥事が発生するのかを社会心理学的なアプローチで説明している。
 自分の周囲の人の多くがある行動を取りつづけていると、最初は自分は「なんか違うよなぁ」と思っていても、それに「同調」して同じ行動を採ってしまうという心理そしてそれが蓄積されて内部倫理として定着してしまう。これを著者は「無責任の構造」と呼んでいる。
 この構造に打ち克つものは、個人の強い倫理観しかない。おかしいことはおかしいという勇気しかないのだ。

2001/01/08
 『幸福のつくりかた』 (橋爪大三郎;ポット出版)
 

著者の著作は以前からいくつか読んでいて、社会学者らしくきっちりと社会現象を分析していて読みやすいし、納得のいく議論が多い。この本のタイトル・『幸福のつくりかた』というのは、一見すると自己啓発系のアヤシイ本にもありがちなものだが、内容はきわめてロジカルで、きちんと記述されている。教育改革の話にしても、社会を元気にする方策にしても、よくある「みんなで心がけましょう」なんてあたりまえだけど実行力のない発言などしない。かなり具体的に提唱している。もしこの本を読んで真面目に法制化する政治家(現時点ではまだ官僚か?)が現れれば実現しちゃうんじゃないか。

 日本はなぜ政治がだめなのかっていう話題で、「政治とは人が人を支配すること、という認識の徹底性に欠けているからだ」という指摘は鋭いな、と思った。
 それから次の言葉は、たぶん、この本全体をつらぬくテーマ。

「他人に自分の運命を委ねたままで、自分がなぜ幸せになれないのかをエンエン考えていても、それは自立した人間のすることではありません。自分で自分が幸せになるように世の中を作り変えるための努力をする。それが人間が自分の人生に責任を持つということなんですから。」

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Updated : 2001/11/26