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Title : Chapter 1 : System Dynamics and Energy Modeling
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System Dynamics and Energy Modeling

The World Models

 システムダイナミクスモデリングは25年以上にわたって戦略的エネルギー計画立案や政策解析に用いられてきた。物語は、1970代初期にMITのシステムダイナミクスグループにより進められた世界モデルプロジェクトから始まる。これらのプロジェクトで、WORLD2*1 及び WORLD3*2 モデルが「人類の難問」−すなわち長期間にわたる社会経済的相互作用が引き起こし、究極的には限界のある世界の人口及び工業生産の指数的成長−と取り組むために作成された。*3

 世界モデルにある根本的な仮定の1つは地球の天然資源はある水準で有限であり、その使用の指数的増加によりいずれ枯渇し、これにより世界社会経済システムを崩壊させる、ということである。「人類の難問」を極めて簡潔なモデルで説明するために地球の天然資源を1変数としてあらわした世界モデルが用いられた。

 天然資源を集積して1変数で表しても問題は生じなかった。また WORLD3 モデルプロジェクトの一環として、いくつかの天然資源を資源別・問題別に分割したモデルが作成された*4。これらのモデルの比較により、天然資源全体を1変数として扱うことが適切であると結論付けられた。*5

The Life Cycle Theory of M. King Hubbert

 世界モデルの一環として作成された、資源を特定したシステムダイナミクス解析の1つに、MIT修士学生のロジャー・ナイル(Roger Naill)によって作成された天然ガスの発見と生産のモデル*6がある。ナイルは自身のモデルを、石油地質学者のキング・ハバート(M. King Hubbert)が提唱した石油・ガスの発見と生産に関するライフサイクル理論に基づいて作成した。*7

 ハバートは自身の理論を定式化するにあたり、化石燃料システムの物理的構造を考慮し、合衆国における石油・ガスの総量(すなわち「適切な場所」にあり、究極的に回収可能な総量)は有限であると仮定した*8。ハバートによれば、結果として、国内の石油・ガスの積算生産量は合衆国内の究極回収可能量以下でなければならないとのことだった。*9

 図1はハバートの理論に記述されている、システムダイナミクスのストック・フロー構造である。この構造も最も重要な点は (1) 究極回収可能量(Ultimately_Recoverable)ストックに対する入力がないこと(すなわち、石油・ガスについて固定のストックが存在するということ)及び (2) 資源は指数関数的に生産され、消費されるという点である。


図1:石油・ガスの発見・生産に対するハバートの視点によるストック・フロー構造

 ハバートの理論からの直接の帰結は、石油・ガスの生産(世界的な(人たち・もの)あるいは国内のレベルにおいて)の時系列グラフは(それが世界全体のものであれ国内のものであれ)、こぶのような形状にならざるを得ないということである。すなわち石油・ガスの生産量を示す曲線の下部の領域は資源の積算生産量を示し、それはある有限値で抑えられるということである。
 実際、ハバートは石油・ガスの発見と生産に関するライフサイクルは釣鐘型(bell-shaped)の生産曲線を示すと論じた。つまり、資源の価格が低い段階では生産量が指数的成長し、試掘に対する発見率が落ち、資源価格が上がるにつれて生産量はピークに達し、代替資源の出現し、長期間にわたりコストが上昇し、生産量が下がっていく。図2はハバートの石油・ガスの発見と生産に関するライフサイクル理論をグラフ化したものである。


図2:M. King Hubbert による石油・ガスの発見と生産に関するライフサイクル理論

 先に進む前に、天然資源の発見と生産に関するハバートの視点が必ずしもすべてのエネルギー研究者により共有されているわけではないことに注意することは重要である。たとえば、世界的に有名な資源エコノミストでありMITの名誉教授であるモーリス・アーデルマン(Morris Adelman)は、石油の固定ストックなどないという見解に立っている。アーデルマンの視点は、デービッド・ウォルシュ(David Warsh)が1991年にボストン・グローブ(Boston Globe)誌上のコラムで記したように、総括された。

 石油の価格は独占の問題であってそれ以上のものではない。実際、アーデルマンは石油に固定したストックはないと発言している。あるのは我々が新たに発見して採掘する技術に満ちるまでの「予約」だ、と。
 我々が発見できないもの・採掘できないものは地球の中に潜んでいるのであって、それれは未知もしくは不可知で、重要ではなく、経済的な興味はないというのが地質学的な事実である。「収穫逓減と知識の拡大の間の終わりのない戦争では技術が最後に勝つよ。」ともアーデルマンは語っている。

 1995年以降の新しい石油の発見コストの世界的安定は、これまでがそうであったように、まだまだ欠乏していないということを示している。アーデルマンは「大欠乏なんて水平線のようなもので、追えば下がっていくよ。」とも語っている。残されているのは政治的な駆け引きに過ぎない。*10


図3:Adelman の視点による石油・ガスの発見と生産に関するストック−フロー構造

 図3はAdelman の視点による石油・ガスの発見と生産に関するストック−フロー構造を示したものである。これは図1と対応している。2つの図を比較すると重要なことが2つあることがわかる。
 第1に、図の左側に雲のようなアイコンがあるが、これは石油・ガスの発見には限界がないことを示している。第2に、資源発見率(Discovery_Rate)の制御に2つのパラメータ・技術革新(technological change)と収穫逓減(diminishing returns)が影響を与えていることである。歴史的に、技術は常に収穫逓減を打ち負かしてきたし、多くのエネルギー研究者と同様、そうあり続けるだろうとアーデルマンも語っている。

Naill's Master's Thesis

 ロジャー・ナイルの修士論文研究の結論は、ハバートのライフサイクル仮説を確証するものだった。
 ナイルは、1973年にピークを迎えた、合衆国における天然ガス生産は下降を続け、20世紀後半または21世紀初頭に国内生産をやめるまで資源発見率が下がると結論付けた。
 ナイルの研究の結論は、世界モデルプログラムの下にいた他のエネルギーモデル問題に従事しているシステムダイナミクス研究者に次の質問を投げつけた。

 合衆国の経済成長は『成長の限界』に示されたようなエネルギーの限界によって阻害されるのか?

 この問題に答えるために、ダートマス大学(Dartmouth College)の資源政策グループ(Resource Policy Group)が全米科学財団(National Science Foundation)からエネルギー移行に関する3年間の研究契約を受託した。*11

The US Energy Transition Problem

 エネルギー移行問題は、国内ガス・石油への依存度を低下させ、と同時に新たなエネルギー資源の信頼性を増大することで直面する混乱に関係する。

 歴史的に、米国の経済は(1)1800年代後半:木から石炭へ、そして(2)1900年代初頭:石炭から石油・ガスへという2つのエネルギー移行を経験していた。これらの移行は、既存の資源よりもより新しく豊富で安価で生産的な資源の有効性によって動機付けられたものであった。これに対し現在合衆国が直面しているエネルギー移行では、資源は枯渇し始め、生産コストも上昇していることに起因しているのであって、より安価で生産的な資源の登場によるものではない。エネルギー移行問題の予測は合衆国にとって極めて重要な問題なのだ。*12

 合衆国のエネルギー需要の絶え間ない増加は、国内の石油・ガス資源の枯渇と代替エネルギー資源開発の長期的な遅れと相まって、国内のエネルギーギャップ(国内エネルギー需要から国内エネルギー供給を減じたもの)を拡大する要因となっている。このギャップは、少なくとも短期的には、天然ガス・石油の輸入の増加により補填されるしかない。さらに、豊富な石油とガスの輸入が新しい国内供給の限界費用に対し相対的に安価で行われる限り、特に加速させられない限り、合衆国内の石油とガスの枯渇は継続するであろう。*13

The COAL1, COAL2 and FOSSIL1 Models

 ロジャー・ナイルの天然ガスモデルは、合衆国のガスシステムを極めて集積したレベルで扱っており、地域や技術、ガスの種類などにブレークダウンされていなかった。さらに代替燃料や内生的な技術進歩も扱っていなかった。合衆国のエネルギー移行問題への研究に注意を喚起はしたが、研究それ自体は不十分であった。そこで新しい、拡張したモデルが必要とされた。ナイルは博士論文のための研究として、ダートマス大学で再びデニス・メドウスの指導の下、他のエネルギー源(エネルギー供給)を組み込むことで自身の天然ガスモデルの限界の拡張に取り組んだ。*14ナイルはこの論文用のモデルを COAL1 と呼んだ。*15というのも、彼の分析はエネルギー移行間に頼るべき最良の燃料が石炭であることを示していたからである。博士号取得後、ナイルは全米科学財団からの受託研究のため、 COAL1 資源政策グループとともにで働き、その成果として改善・拡張されたモデルは COAL2 と呼ばれた。*16
 1975年にエネルギー研究開発庁(Energy Research and Development Administration;後のエネルギー省)は政府のエネルギー計画に用いるために COAL2 を拡張するための研究資金を提供した。これにより改良・拡張されたモデルは、化石燃料(すなわち石油・ガス・石炭)による経済から代替エネルギー資源による経済への移行を示しているように見受けられたので FOSSIL1 と呼ばれた。FOSSIL1 モデルは、その元となったモデルと同様、資源の豊富さ・枯渇・代替に関するハバートの理論に基づいており、合衆国経済をしてエネルギー移行を円滑に行わせるため、新しい政権のための解析及び計画に用いられた。このモデルは(1)エネルギー需要、(2)石油・ガス、(3)石炭、(4)電力の主要な4つの部門から構成されており、以下のような問題を取り扱っていた。

  • 合衆国のエネルギー自立は可能か? もし可能ならそれはいつか?
  • 国家エネルギー戦略としては、需要を削減すべきか? 供給を増加すべきか?
  • どのようなエネルギー資源への移行を加速すべきか?

 FOSSIL1 を用いた解析結果によるエネルギー移行への問題の回答は以下のようなものであった。

  • 過去のエネルギー戦略の影響と、新しい政策が効果的になるための遅れにより、短期的には合衆国のエネルギー問題は解決できない。
  • 供給側及び需要側双方の戦略とも、それぞれ単独では移行問題を有効に解決できない。
  • 円滑なエネルギー移行のためには、エネルギー需要の安定化と代替エネルギー供給増加の双方が必要である。

The FOSSIL2 and IDEAS Models

 1977年に初めて合衆国を襲ったエネルギー危機に対応して、カーター政権は初の国家エネルギー計画(National Energy Plan)を策定した。その後まもなく、ダートマス大学の資源政策グループに、合衆国下院から FOSSIL1 モデルを用いて、この計画を評価するよう要請があった。計画の評価完了後、ロジャー・ナイルは資源政策グループを去り、エネルギー省の解析サービス局(Office of Analytical Services)の責任者となり、将来の国家エネルギー計画の支援のためのエネルギー予測に従事した。ナイルはエネルギー省で実装した FOSSIL1 を、国家エネルギー政策を分析できるように拡張するチームを監督した。この FOSSIL1 の修正版は FOSSIL2 と呼ばれた。1970年代後半から1990年代初頭まで、 FOSSIL2 モデルがエネルギー省での以下の問題の解析に用いられた。

  • 合衆国の石油輸入における(価格低下を含む)供給側のイニシアティブの正味の効果
  • 中東における政治的混乱や石油価格の倍化などによる石油供給不安定に対する合衆国の脆弱性
  • 合衆国の合成燃料生産の刺激を目的にした政策
  • 税金(炭素・BTU・ガソリン・石油輸入手数料)課金の合衆国エネルギーシステムへの影響
  • クーパー=サイナー二酸化炭素オフセット法案(Cooper-Synar CO2 Offsets Bill)の合衆国エネルギーシステムへの影響

 1989年に議会はエネルギー省に対し温室効果ガス削減を進めるエネルギー技術及び政策オプションの研究を先導するよう要請した。FOSSIL2 はこの目的のために利用された。研究の中間的な結論は以下のようなものである。

  • 森林再生は税や標準の代替となりうる。
  • 費用効率の高い省エネルギーの効果的な促進は価値がある。
  • 合衆国に電力部門における石炭から高度な原子力発電、再生可能なエネルギーへの移行は重要な長期的展開である。
  • 合衆国エネルギーシステムにおける相殺するフィードバック(compensating feedbacks)のため、単独の政策ではなく、複数の戦略の組み合わせが地球温暖化問題との戦いに成功を収めるために必要である。
  • 政策立案者は合衆国エネルギーシステムの単一の部門の政策変更を企図すべきではない。このアプローチは他の部門に対する影響を無視することになるからだ。*18

 近年になって、 FOSSIL2 モデルの輸送部門と電力部門について劇的な改善がなされた。FOSSIL2 の改良版は「統合動的エネルギー解析シミュレーション(Integrated Dynamic Energy Analysis Simulation)」を意味する IDEASに改名された。*19IDEAS モデルは現在バージニア州アーリントンのアプライド・エネルギーサービス(Applied Energy Services of Arlington, Virginia)により維持管理されている。*20

Sterman's Model of Energy-Economy Interactions

 1970年代後半、元ダートマス大学の学部生で、MITの博士課程学生のジョン・ステアマン(John Sterman)はロジャー・ナイルに雇われ FOSSIL1 モデルを FOSSIL2 モデルに修正・拡張する仕事に従事していた。その作業の過程で、ステアマンは FOSSIL2 モデルにはエネルギー部門と経済そのものとの重要なフィードバックを無視しているという欠点があることに気がついた。そこでステアマンは自身の博士論文のために、初めてエネルギーと経済の間の相互作用を組み込んだシステムダイナミクス経済モデルを構築した。COAL-FOSSIL-IDEAS のモデル群では、エネルギー部門は他の経済から孤立しているようにモデル化されていることに気づいたのである。*21

つまりこういうことである;

  • GDP がモデルの外部変数となっており、エネルギーの価格や可用性に影響を受けない。
  • 斬新なエネルギー技術のコストがモデルの外部変数となっている。エネルギーにおける投資が経済の他の部門の投資のニーズの影響を受けない。
  • 利子率がモデルの外部変数である。
  • インフレーションが国内エネルギー価格・生産・政策の影響を受けない。
  • 世界の石油価格が国内エネルギー価格・生産・政策の影響を受けない。*22

 ステアマンはこれらの困難を解決するように努力し、以下のことを発見した。

  • 移行期間中(約2030年まで続く)における資源枯渇の経済的影響は、平常時や均衡状態時におけるものよりも極めて深刻である。
  • 経済への影響の大きさは絶対的に深刻で、経済低成長や失業の増加、インフレ圧力、高利子率、一人当たりの消費の低下などを引き起こす。
  • エネルギー価格の高騰は、それは急激なものであろうが穏やかものであろうが単独ではインフレを引き起こさない。実経済活動に対してマネーサプライの増加が伴わなければ発生しない。
  • モデルの主要な振る舞いは極めて頑強である。すなわち、パラメータの変化に対してもさほど結果は変化しない。
  • モデルでは、所得税を埋め合わせる税金の導入で経済活動は改善し、エネルギー価格は下落し、OPECの収入も下落し、短期的インフレ圧力は低下する。*23

Fiddaman's Model of Economy-Climate Interactions

 指導教官の研究成果を基に1997年、フィダーマン(Tom Fiddaman)は、MITのスローン経営大学院に経済と気候の影響に関する博士論文を提出した。*24その博士論文では、既存の(システムダイナミクスを活用していない)気候=経済モデルの問題点を指摘し、FREE(Feedback-Rich Energy Economy model)と呼ばれる新しい気候=経済システムダイナミクスモデルを提案していた。
 FREE モデルには、エネルギー=経済システムにおける石油・ガスの枯渇のダイナミクスがソース条件(source constraint)として、気候変動のようなエネルギー=経済システムにおけるシンク条件(sink constraint)のダイナミクスと同様に明示的に組み込まれていた。FREE モデルは、エネルギーと経済の相互作用におけるソース条件の影響を明示的に確認する最初のモデルである。また FREE モデルは、これまで気候変動の文脈では触れられてこなかったフードバックプロセス(たとえば外部技術の変化及び認識の遅れやバイアスにより制限された合理的意思決定)を明らかにした。さらに、このモデルは特定のパラメータ化が新古典的な気候=経済モデルにおいて見出された結果をもたらすように構築されている。

Estimating the Amount of Oil In-Place

 1980年代初頭、システムダイナミクス研究者のリチャードソン(George Richardson)は、「世界の石油の量は増加している」とクレームをつけたイギリスの石油アナリストと会見した。リチャードソンは世界の石油備蓄量は増加し、石油の推定量も増加しているかも知れないが、字際の石油の量は減少しているのだと答えた。しかし、リチャードソンはその石油アナリストを納得させることはできなかった。そこで自分の主張を証明するシステムダイナミクスモデルを作成することにした。彼は直前にエネルギー=経済の相互作用に関する論文を提出したステアマンを助手とし、ハバートの研究及びナイルの天然ガスモデルを検討の出発点として採用することとした。*25
 リチャードソンとステアマンはナイルの天然ガスモデルとよく似てはいるが重大な拡張と改良を施した石油の探索・発見・生産モデルを開発した。簡潔に言えば、彼らのモデルには技術変化と合成燃料による代替が組み込まれていた。
 リチャードソンとステアマンは「ハバートのライフサイクル法と地質類推法のどちらが世界の究極的な供給可能量を正確に推定できているであろうか?」という問に答えるために彼らのモデルを最初に適用して統合データ実験を行った。*26世界の石油供給可能量は未知であり、世界の石油が実際に枯渇するまで知ることはできないため、統合データ実験は必要であった。

 リチャードソンとステアマンの統合データ実験のロジックは極めてシンプルであった。
 まず、世界の石油システムの探索・発見・生産の振る舞いを正確に再現するシステムダイナミクスモデルを構築し、これを「リアルワールド(real world)」とした。
 次に、 Hubbert の方法と地質類推法を定式化し、モデルに組み込んだ。
 統合データ実験の結果は以下の通りであった。

  • モデルは現実の世界石油システムを非常によく再現していた。
  • モデルは Hubbert の方法と地質類推法の双方を非常によく再現していた。
  • Hubbert の方法は明らかに正確であった。
  • 地質類推法では、究極的な供給可能量は増加し続け、過大評価してしまった。*27

 地質類推法が究極的な供給可能量を過大評価する要因には以下のようなものがあった。

  • 石油保護努力の低下
  • 石油の代替物の開発への時間の過大評価

 リチャードソンとステアマンはシステムダイナミクス研究者のダビッドセン(Pal Davidsen)の助力を受け、このモデルを合衆国における問題に適用することとした。*28世界モデルにおける結果と同様、ハバートの方法がより正確であり、石油発見・生産の振る舞いをよく再現していることが確認された。
 もちろん、まだピークに達しなかった世界の石油産出量のケースと異なり、合衆国国内(アラスカとハワイを除く本土48州)の石油生産が1970年にピークに達した。ハバートは1956年に合衆国本土の石油生産は1966年から1971年の間にピークに達するであろうと予測していた。*29この点を考慮に入れると、ステアマン・リチャードソン・ダビッドセンの統合データ実験はハバートの方法が最も正確であることを支持しているものと言える。

Other System Dynamics Modeling in the Oil and Gas Industry

 システムダイナミクスモデルはナイルから IDEAS へとつながる流れの他にも、石油・ガス業界において企業や業界レベルで多くの研究者によって取り組まれてきた。表1にそれらの業績を挙げておく。
 この表を見ると、OPECと世界石油市場の振る舞いや石油・ガス業界におけるビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)、世界の石油需給関係から派生する国際関係、「学習する組織」としての石油企業という観点からモデル化が行われていることが明らかになる。
 Energy 2020 モデルはバッカス(George Backus)とアムリン(Jeff Amlin)によって開発され、個々のエネルギー企業や政府機関に複数エネルギーモデルを提供している。これは国防省の IDEAS モデルに類似している。

Topic AreaAuthors
Hubbert’s method versus the geologic analogy methodSterman and Richardson (1985); Sterman, Richardson and Davidsen (1988); Davidsen, Sterman and Richardson (1990)
Hubbert’s Method applied to MexicoDuncan (1996a, 1996b)
The behavior of OPEC and world oil marketsPowell (1990a, 1990b); Morecroft (1992); Morecroft and van der Heijden (1992)
Business process re-engineering in a gas and oil producing firmGenta and Sokol (1993)
Shell Oil as a learning organizationDe Geus (1988)
Learning about the oil industry from a management flight simulatorKreutzer, Kreutzer and Gould (1992); Morecroft (1992); Morecroft and van der Heijden (1992); Genta and Sokol (1993)
International relations stemming from world oil supply and demand relationshipsChoucri (1981)
Multi-fuel energy model for use by individual firms and state agenciesFord (1997, pp. 58-59)

表1:石油・ガス業界におけるシステムダイナミクス研究の著名な例

 「マネージメントフライト・シミュレーター」の活用を通じて「学習する組織」となろうとする石油企業の努力が、エネルギーモデリングにおけるシステムダイナミクスの特に重要な利用方法であろう。
 1990年にシステムダイナミクス研究者のセンゲ(Peter Senge)はシステムダイナミクスとその他ツールを用いた「学習する組織」になるための本を著した。*30「学習する組織」は共有された、全体論的な、全身のビジョンを所有し、組織の先頭で「雄大な戦略家」によって述べられた「計画」を実行して絶えず学ぶべき責務と能力を持っている従業員で構成されている。
 「学習する組織」によって用いられた主要な道具の1つが「マネージメントフライト・シミュレーター」である。マネージメントフライト・シミュレーターは決定者にパイロットがそうするのとまったく同じように、シミュレータを仕込むよう招くコンピュータ化された学習環境である。フライト・シミュレーターは多くの期間を対象にしたシステムダイナミクスモデルを稼動し、ひと呼吸おいて、そして決定者が政策変更をするのを待つ。政策変更が入られた後、フライト・シミュレーターは再びモデルフォワードをシミュレートして、ひと呼吸おいて、そして次の政策変更を待つ。決定者がシミュレータにセッションを終えた後、彼あるいは彼女がそれがしたようになぜシステムが作用したか決定するよう要請される。決定者がこれを確認する途端に、彼あるいは彼女が再びプレーするよう要請される。もちろん、多くのプレーの後にシステムの決定者の理解は良くなっているだろうし、望むらくは、彼あるいは彼女が学ばれたレッスンを実際の組織に適用することである

System Dynamics Modeling in the Coal Industry

 Naill から IDEAS へとつながる流れの他のシステムダイナミクスの適用がが石炭産業でも同じく存在する。
 表2に示されるように、システムダイナミクスは、産業レベル・採鉱システム・小表面石炭オペレーションのダイナミクス・国際的な採鉱所有権とシステムダイナミクスモデルにおける離散事象の研究に多く用いられてきた。

Topic AreaAuthors
The dynamics of small surface coal operationsKinek and Jambekar (1984a, 1984b, 1983)
Industry-level studiesZahn (1981); Mendis, Rosenburg and Medville (1979)
Mining systemsWolstenholme and Holmes (1985); Wolstenholme (1983, 1982b, 1981); Schwarz (1978)
International mining ownershipWolstenholme (1984)
Representing discrete events in system dynamics modelsCoyle (1985)

表2:石炭業界におけるシステムダイナミクス研究の著名な例

System Dynamics Modeling in the Electric Power Industry

 世界モデルプロジェクトの後継研究の1つに、ダートマス資源政策グループ(Dartmouth Resource Policy Group)で行われ、ナイルの COAL1 研究と並行して行われていたフォード(Andrew Ford)による合衆国の電力産業の将来のシステムダイナミクスによる解析があった*31。彼は自身の博士論文のために EPPAM モデルとして知られている一連の電力事業者のシステムダイナミクスモデルである ELECTRIC1 モデルを開発した。*32フォードのモデルとその後継の修正バージョンが COAL2、FOSSIL1 と FOSSIL2 モデルの電力セクタを構築するために用いられた。フォードの道を切り開く業績を行って以降、システムダイナミクスはユーティリティ経営者の戦略上の計画に用いられるようになった。*33

 表3に示されるのは、よく知られた電力産業における問題を扱ったシステムダイナミクス研究の例である。*34規制政策とユーティリティパフォーマンスの影響を検討したもの、「不可能のスパイラル(spiral of impossibility)」を扱ったもの、ユーティリティパフォーマンスにおける外部エージェントの影響に関するもの、ユーティリティの財政的パフォーマンスに関するもの、ユーティリティパフォーマンスにおける省エネルギー行動の影響を研究したもの、地域における戦略的電力/エネルギー戦略や国家における戦略的電力/エネルギー戦略を扱ったもの、電気自動車を検討したもの、合衆国電力産業における規制緩和を扱ったもの、水力発電における河川利用の影響を扱ったものなどがある。

 河川利用及び水力発電への影響に関するシステムダイナミクス研究の成果は、特に公共政策の文脈におけるマネージメント・フライトシミュレータの活用に大いに役立った。簡潔に言えば、マネージメント・フライトシミュレータはユーティリティ経営者や他の関係者だけでなく一般の人びとが利用することも想定して設計されており、水力発電システムを望む方向に移動させたり複数の問題を検討する際に用いられた。

Topic AreaAuthor
Effects of regulatory policy on utility performanceGeraghty and Lyneis (1983)
The "spiral of impossibility"Ford and Youngblood (1983).
Effects of external agents on utility performanceGeraghty and Lyneis (1985)
Financial performance of utilitiesLyneis (1985)
Effects of energy conservation practices on utility performanceFord, Bull and Naill (1989); Ford and Bull (1989); Aslam and Saeed (1995)
Regional strategic electricity/energy planningDyner et al. (1990)
National strategic electricity/energy planningCoyle and Rego (1983); Naill (1977, 1992); Sterman (1981)
Electric vehiclesKhalil and Radzicki (1996); Ford (1996b); Ford (1995a); Ford (1994)
Deregulation in the UK electric power industryBunn and Larsen (1992, 1994, 1995); Bunn, Larsen and Vlahos (1993); Larsen and Bunn (1994)
Deregulation in the US electric power industryLyneis, Bespolka and Tucker (1994)
River use and its impact on hydroelectric powerFord (1996a)

表3:電力業界におけるシステムダイナミクス研究の著名な例

Summary:Intellectual Lineage of System Dynamics Energy Modeling

 フォレスターのシステムダイナミクスモデリングに関する最初の著作『Industrial Dynamics』により、彼の業績はさまざまな企業や産業レベルのシステムダイナミクスのエネルギーモデルを生み出し、センゲをインスパイアして『the Fifth Discipline』を書かしめた。センゲの著作はエネルギー関係のマネージメント・フライトシミュレータの開発をもたらし、いくつかのエネルギー会社を「学習する組織」へと導くこととなった。*35
 またフォレスターは WORLD2 モデルを作り、MITで世界モデリングプロジェクトを始めていた。世界モデルはハバートの石油・ガスの発見・生産に関する業績とともにナイルを刺激し、天然ガスモデル COAL1 モデルを生み出し、これを改良した様々な派生モデルの基礎となった。(FOSSIL79 や DEMAND81 など)
 ナイルとハバートの業績はステアマン・リチャードソン・ダビッドセンらによる世界や合衆国における究極的石油供給可能量の推定に関する統合データ実験の基礎となり、FOSSIL2 モデルにおける弱点に関する知識はステアマンにエネルギー転換におけるエネルギー=経済の相互作用のダイナミクスを検討する機会を与えた。
 エネルギー=経済システムにおけるソース条件はエネルギーモデル研究者に十分検討されていたが、フィダーマンのシンク条件は十分検討されていないという認識が FREE モデルへとつながった。

 世界モデリングプロジェクトは同じくフォードによる合衆国の電力産業の研究と次の EPPAM モデルとそのの支流を生み出したと言える。


図4:システムダイナミクスによるエネルギーモデルのつながり


【原注】

  1. WORLD2 モデルは MIT のフォレスター教授により開発された。(本文に戻る
  2. WORLD3 モデルはメドウズ教授率いる MIT チームにより開発された。(本文に戻る
  3. Forrester (1970); Meadows et al. (1972, 1974, 1992); Meadows and Meadows (1973);and Naill (1977, Preface; Naill 1992, pp. 1-2).を見よ。(本文に戻る
  4. 例えば models were built to examine the dynamics of natural resource utilization (Behrens 1971, 1973), 天然ガスの発見と生産(Naill 1972, 1973), and solid waste generation, disposal and recycling (Randers and Meadows 1973). See Meadows and Meadows (1973) for a collection of papers describing these, and other, studies.(本文に戻る
  5. Similarly, pollution was lumped into a single variable after the analysis of disaggregated, pollution-specific, models suggested that it was appropriate to do so. See Meadows and Meadows (1973).(本文に戻る
  6. See Naill (1972, 1973). Dennis Meadows was Naill's thesis supervisor.(本文に戻る
  7. See Hubbert (1950, 1956, 1993).(本文に戻る
  8. Of course, the amount of oil and gas in the earth does change, but only over geologic time. It is consumed, on the other hand, over a few hundred years. Thus, for all practical purposes, the amount of oil and gas on the earth is fixed.(本文に戻る
  9. For the more mathematically inclined reader, Hubbert's fundamental assumption is that:(本文に戻る
  10. Warsh (1991).(本文に戻る
  11. After the completion of the WORLD3 modeling project at MIT, Dennis Meadows moved to Dartmouth College to form and lead the Resource Policy Group. After graduating from MIT with his Master's degree, Roger Naill followed Meadows to Dartmouth to pursue a Ph.D.(本文に戻る
  12. Naill (1977, p. 1; 1992a, pp. 2-3).(本文に戻る
  13. Naill (1977, pp. 3-4).(本文に戻る
  14. See Naill (1976).(本文に戻る
  15. Due to the global warming problem, there is different thinking today vis-a-vis coal as the best transition fuel. For more information see the section on global warming ahead.(本文に戻る
  16. See Naill (1977) for a detailed description of the COAL2 model.(本文に戻る
  17. The Dartmouth team continued to extend the FOSSIL1 model on their own. This process resulted in the FOSSIL79 and DEMAND81 models. See Backus et al.(1979) and Backus (1981).(本文に戻る
  18. An example of compensating feedback and unintended consequences in other sectors in the FOSSIL2 model was revealed when a carbon tax was assessed to inefficient coal-fired electric utility plants. This policy change caused the demand for coal to fall, which reduced the price of coal, and eventually made coal more attractive to industrial users.(本文に戻る
  19. One of the more interesting recent extensions to the FOSSIL2 model involves expanding its vehicles sector so that it can treat policies aimed at promoting alternative vehicles. See Ford (1995a, p. 28).(本文に戻る
  20. See Alternative Energy Systems (1993).(本文に戻る
  21. See Sterman (1981).(本文に戻る
  22. Sterman (1981, p. 28, Table 2-1).(本文に戻る
  23. Results 1-4 are summarized in Sterman (1981, Chapter 7). Result 5 is explained in Sterman (1981, Chapter 6).(本文に戻る
  24. John Sterman was Fiddaman's dissertation director at MIT and Dennis Meadows was his undergraduate mentor during Fiddaman's student days at Dartmouth.(本文に戻る
  25. For a description of the model see Davidsen, Sterman, and Richardson (1990).(本文に戻る
  26. Historically, geological analogy methods have been used extensively to estimate ultimately recoverable resources. In essence, the techniques involve estimating the abundance of a resource in an unexplored area by assuming it will be similar to that in known regions of similar geology.(本文に戻る
  27. See Sterman and Richardson (1985). In the model, world oil production peaks in approximately the year 2018.(本文に戻る
  28. See Sterman, Richardson and Davidsen (1988).(本文に戻る
  29. Hubbert (1956).(本文に戻る
  30. See Senge (1990).(本文に戻る
  31. Ford (1975).(本文に戻る
  32. EPPAM stands for Electric Utility Policy and Planning Analysis Modeling.(本文に戻る
  33. Ford and Youngblood (1982) provide a detailed history of system dynamics electric utility modeling from 1975 to 1982, which includes an outline of the evolution of the ELECTRIC1 model from its origin to the EPPAM1, EPPAM2, EPPAM3 and EPPAM4 models.(本文に戻る
  34. Ford (1997) and Ford (1995b) provide broad overviews.(本文に戻る
  35. Forrester (1961).(本文に戻る

[Bibliography]


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Updated : 2006/01/28