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Why model?
第1章のシステムダイナミクス概略史で見たように、システムダイナミクスの中心課題は、複雑な政策問題を検討するためのモデルの利用とモデル化のテクニックの周辺にあったと言える。システムダイナミクスの概念を概括を進めるにつれ、「いったい、なぜモデルなのか?(Why model at all?)」という問題に簡潔に答えるらめに基本的なことに戻ることも重要である。観察すれば私たちはモデル化とは様々な理由で人間がすることだと考えている。しかしながらモデルの区別と適用の重要性については十分ではない。
本章ではこの基本的な問題に取り組み、システムダイナミクスの基礎的な前提と哲学について概略を説明していく。
Why Build Models in the First Place?
このオンラインブックの目標は基本的なシステムダイナミクスの概念とモデリングのテクニックを教授することであり、これは基本に立ち戻ってこう質問することが理に適っている;そもそもなぜモデルを構築するのか? システムダイナミクスモデルを構築することで何か利点があるのか? 一般的にモデル構築によって何が得られるのか?
Formal Models
モデリングとはあらゆる人間がするものである。子どもたちはお遊戯用の粘土やおもちゃ、レゴ、ブロック、カード、砂といったものからモデルを作っている。エンジニアは自動車の粘土模型や、飛行機の金属模型、橋の木造模型、街のプラスティック模型、建物の手書きモデル、ありとあらゆるもののコンピュータモデルを構築する。自然科学者は分子の物理モデルや人体モデル、太陽系モデル、宇宙の進化を示す数学的モデルまたは記述モデルを構築する。社会科学者は心のコンピュータモデルまたは記述モデルを、経済の数学的またはコンピュータモデルを 、古代文明の物理モデルを構築する。経営者はスプレッドシートとデータベースのアプリケーションで財政モデルを構築する。劇作家は人間の状況の一側面を捉えモデルを構築する。
人間はさまざまな理由からモデルを構築する。モデルとは現実の簡素化であり、(たいていは)人が自らの思考を明らかにし、世界への理解を促進するためのものである。モデルはよく実験のために用いられる。例えばコンピュータモデルは時間と空間を圧縮し、現実の世界でかかるであろう多大な時間を削減することができる。さらにモデル上で変更して確認することは「自分の足元を撃つ」ことを防ぐために有効である。すなわち、システムのモデル上でうまく機能しないような変更は現実の世界でもうまくいくかは疑わしいということだ。付け加えれば、モデルによる実験は、仮に実験がうまくいった場合にでも現実に悪影響を与えない。例えばある建物での効果的な火災時におけるスプリンクラーシステムを検証するためにモデル上で行うことができる。
Mental Models
人間が恒常的に形式的なモデルを構築して利用していることは自明であるが、メンタルモデルを用いていることはさほど自明ではない。簡略化して言えば、人間の頭の中には実際の家族もクラブも教会も大学も企業も都市も州も国家的社会経済システムと言ったものもないが、これらのシステムのメンタル表現は持ち合わせているということである。このようにシステムダイナミクスの分野では政策立案者はモデルを使うべきか否かで悩む必要はなく、どのモデルを採用するかに頭を使うべきである。*1言い換えれば、システムダイナミクス研究家は、独力のメンタルモデルから得られる結果によって判断するか形式的モデルとメンタルモデルの組み合わせから得られる結果によって判断するかは政策立案者が決定すべきであると信じている。形式的モデルとメンタルモデルのどちらにも長所・短所がある。メンタルモデルは柔軟で、細部にわたって詳細で、世界のもっとも豊かで価値のある情報源−すなわち頭脳の中に集められた経験という「データ」から構成されている。マサチューセッツ工科大学の傑出したシステムダイナミクスの教授であるステアマンは「哲学も政治も文学もある意味でメンタルモデルである」と指摘している。
メンタルモデルの重要性を説明するためには、以下のような思考実験を検討してみることは有用であろう。デトロイトのスペースマンランド(spacemen land in Detroit)で、市内の1つの自動車工場の全労働者を異動させ、他の労働者に入れ替えたと想像してみよう。ただし彼らには自動車を組み立てるために必要なメンタル情報がないという点を除いては全く異動させられた労働者たちと同じものとする。そこで新しい労働者たちは入手できる書類や数値情報で自動車を組み立てることができるだろうか? 答えは「No」である。それは自動車を組み立てるために必要な情報の圧倒的大部分は異動させられた労働者の頭脳の中にあるからである。
メンタルモデルには多くの長所があるが、その一方で多くの弱点もある。*2メンタルモデルは往々にして曖昧であり、不完全であり、複雑で不安定な仮定や目標に満ちている。会話や議論の最中でも人々によって異なったメンタルモデルを用いているだけでなく、それぞれのモデルが−一連の会話や議論の最中でも−変容する。さらに人の頭脳は貧弱なダイナミックシミュレータである。認知的な限界のために、最も簡単なメンタルモデルでおいてすら動的な振る舞いを正確に思考することができない。*3
人間のメンタルも出るの豊かさと複雑性やその動的な因果関係を通じて思考することの困難さを示すためには、ホフスタッター(Douglas Hofstadter)の『ゲーデル,エッシャー,バッハ―あるいは不思議の環(Godel, Escher, Bach: An Eternal Golden Braid)』を検証することが有用であろう。*4この本でホフスタッターは、機械推論と人工知能にとってどこまでが可能かを確かめるためにゲーデルの不完全性定理と、バッハの音楽と、エッシャーの美術に触れている。Hofstadter 自身の手によるメンタルモデルの一部を下図に示す。
図1:ホフスタッターのメンタルモデルの一部
ホフスタッターのスケッチを確認すれば、メンタルモデルにおける動的振る舞いの正確な追跡が実に困難なことであることが容易に理解できるであろう。
Combining Mental Models with System Dynamics
システムダイナミクス研究者によれば「メンタルモデル問題」の解は、意思決定者が自身のメンタルモデルをシステムダイナミクスを用いて全てコンピュータ上に書き出し、それをマシンに追跡し、コンピュータとの共同作業で意思決定者がメンタルモデルを改良し、自身が理解し制御しようとしているシステムについて学ぶことだと言う。実際、システムダイナミクスモデリングでは、モデリングのプロセスを見ることはモデル自身を見ることよりも価値があると言える。*8
システムダイナミクスモデリングでは洞察に満ちたモデルを取り上げ、それをゲームやマネジメント・フライト・シミュレータに仕上げることは典型的なことだ。パイロットがするように The argument for doing this is that a 意思決定者がシミュレータで訓練すべきことが議論の対象であり、またそうすることで、自身が理解し制御しようとしているシステムに対するメンタルモデルを大きく改善することができる。洞察に満ちたシステムダイナミクスモデルから効果的なシステムダイナミクスゲームを創り出すことは重要な仕事であり、それ自身が重要な研究分野である。
【原注】
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Updated : 2006/02/05 |