20選 | 富本憲吉作品 コレクション |
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桜筏文様は、川の流れに寄せられた桜の花弁が集まったままに流れる様子が、あたかも筏を漕ぐかのようであることから、それを意匠化したものである。ここでは川の流れを古来から桜と組み合わせられることの多い柳で表現している点が、機知に富んだデザインであるといえよう。紀貫之(きのつらゆき)の詠んだ「青柳の 糸よりかくる 春しもぞ 乱れて花の ほころびにける」(『古今和歌集』)の世界を思わせる。
文様は、鮮やかな萌葱色の縮緬地に白く染め残し、流水に浅葱色(あさぎいろ)を挿し桜筏には藍(あい)と紅(べに)の型匹田(かたびった=鹿の子絞りの文様を型染めであらわしたもの)を加え、更に紅糸の刺繍が華やかさを添えている。小袖全体に文様が行き渡っていること、身頃の両脇で絵羽(えば)を合わせないことなどは江戸時代中期の小袖の一般的な特色である。