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Title : Dillemma
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救済のジレンマ

 『IWAMAL』というコミックがある。どんな動物のどんな症状でも治してしまうようなスーパー獣医・岩丸の話だ。この最終巻(9巻)の最終話は、なぜ岩丸がそういうスーパー獣医になったかというルーツを探る話だ。

 岩丸は大学を出て留学し、アメリカの陸軍生物科学兵器実験場で働いていたことになっている。その実験場では「生物兵器を防ぐための研究」という名目で、さまざまな動物実験が繰り返されている。岩丸の担当は、実験動物の延命処置。実験で生き残った動物をデータを取り続けるためだけに延命させる役目だ。化学兵器の実験なのだから、必要なデータとは、どの程度の量を与えればどのような症状になり、どの程度の量を与えれば死に至るかという情報である。すなわち、岩丸の作業は最終的に殺すこと目的として延命措置を取るという、非常に屈折した作業なのだ。
 …で、どうなったかは作品を読んでもらうこととして。

 「救済」とか「救援」とかいう言葉は美しい。
 苦しんでいる人に手を差し伸べること自体は間違いではない。が、その行為によって、その人を苦しめている目下の症状を緩和することはできても、根本原因を解消させるどころか是認・強化してしまうことだってありうる。ならば、どうすれば「救う」ことになるのか。
 1つは、『人道援助、そのジレンマ』で触れたように、その場の援助に徹底し、その政治的意味あいには一切タッチしないという姿勢。
 1つは、現状を直接救うことにはならないけれど、その現状を生み出した根本原因の解決に挑むという姿勢。
 個別にこのように書くと「両方やればいいじゃないか」という声があがりそうだが、現実には往々にして矛盾する。特に、大地震発生直といった緊急事態下では、必要なのは百の議論ではなく援助物資である。人は地震が揺ろうが洪水が襲おうが、生きている限りはおなかもすくし、自然の欲求もある。ねぐらだって必要だ。「国境なき医師団」では徹底して前者の姿勢を貫いている。それを公に宣言し実行することでしか、政治的にどのサイドにも荷担しないという信頼は得られない。後者の姿勢では、効果はすぐに出ないし、効果が出たら出たで、その瞬間に立ち会った人のみが賞賛されかねない。

 中途半端な「救済」は、岩丸が行ったような逆説的な延命治療と同じで、かえって「生殺し」の目に遭わせる。じゃあ、いっそ一思いに。。。というわけにもいかない。ならば、何をすればいいのか?


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Updated : 2001/02/13