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Title : Ask not what your country can do for you. Ask what you can do for your country.
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Contemporary Files #20030908
天下
/ BBSへGo! /

 ひょっとしなくても、これから書くことは、現在公開中の映画のネタバレになるので、まだ見てなくってこれから見ようと思ってる人は読まないこと。(注意したからね。後から文句言うなよ。)

 この週末に久しぶりに映画を見に行った。『英雄 -HERO- 』である。詳しいストーリーやその映像におけるいかにも中国(香港?)映画的様式美については、オフィシャルサイトやファンサイト、その他映画フリークのサイトが説明してくれているので敢えて述べない。知りたければ自分で映画を見るか、その手のサイトを検索してみてほしい。
 思いっきり圧縮したら、この映画は、後の始皇帝となる秦王を暗殺するために、他の刺客を征伐したことにして−その褒美として財宝を受け取るほかに、秦王に近づくことができるという「栄誉」を与えられるため−暗殺をしようとした趙の刺客・無名が、結局暗殺をあきらめ、殺されるという話だ。もちろん史実はその後に秦王が最初の中国統一するわけなのでそこで殺されるわけはなく、「10歩以内に近づけば必ず相手を殺せる」という剣術の持ち主が秦王を暗殺しなかった理由というのが、この映画のキーとなるわけだ。

 刺客・無名に殺されたことになっている趙の別の刺客・残剣は、実は3年前に秦王暗殺を図り、失敗した−正確に言えば暗殺を取りやめた−という経緯があり、あくまで秦王を暗殺しようとする無名に対し、「どうしても行くというのなら、書を送る」と言い、ある言葉を砂に書く。それが「天下」だ。

 残剣のメッセージはこうだ−民は長く続いた戦乱に苦しめられ、厭いている。誰かが国を統一・平定して安定した世の中をもたらすべきなのだ。そしてそれができるのは秦王以外にはいない。だから殺せない。−と。
 無名は秦王の前に向かう。そして最初は「あなたを狙っていた刺客を始末した」という。しかし秦王はそれが嘘だといい、「本当はそういうことにして私を殺しに来たのであろう」といい、自分の理解した顛末を話す。それを聞いた無名は、真実を、先の残剣の言葉も含めて秦王に伝える。
 最後に秦王は、残剣のメッセージを、そして、どうして無名がそれでも自分の前に来てすべてを話したのかを理解する。それを見た無名は「そのことを忘れないでほしい」といい、秦王の前を去り、衛兵らの無数の矢によって倒されるのだ。

 この映画での主題は、諸国の民が何を望んでいるかが最優先されるべきで、国同士の面子だの、個人の恨みつらみなどというものは、そのような大義の前では押し通すものではない…と言ってしまえばそれまでだろう。それはそれで非常にわかりやすいメッセージだ。『史記』に『刺客列伝』があるように、刺客、つまり暗殺者であってもその手の大義に殉じて「漢(おとこ)」として死んでいった人間を持ち上げる傾向が中国古代の文学にはあるように思う。
 けれども、今の日本ではとても成立しないだろう。詳しい数字は覚えていないが「戦争がおきたら国のために戦うか」なんてアンケートしたら「戦う」と答えたのはかなり少なかったはずだ。そして、それが「国家には殉じる価値などない」という判断のもとであったなら非常に結構な結果だ。けれども、同時に「国家は国民に安心した生活ができるよう責任を持つべきだ」という意見が圧倒的になるようでは、その姿勢には矛盾がある。「自分は国に何もしないが、国は自分に何とかしろ」では、「何とかしてやろう」という意思と行動力を持った連中に絡めとられる。国に依存したいから国を(たとえ消極的にであっても)支持する、という「依存型のナショナリズム」がこの国には蔓延しているのだと思う。だからいつまで経っても国民の多くは自民党を支持し、自民党員の多くは選挙で勝てそうな小泉現首相を支持する。

 国になんとかしてもらおう、なんて発想から逃れないと、いつまでも時代は変わらない。

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Updated : 2003/09/08