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Title : Deterrent
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Contemporary Files #20030815
抑止力
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 最近、日本の核武装を肯定する議論が出てきている。けれど、そういう議論をマスコミでしたがる人たちには1つ重要な観点が抜けてるような気がする。私個人は日本が核を持つべきではないとは思うが、とりあえず、もし本気で日本が核兵器を保有しようとしたらどうなるかを考えてみた。

 まず核兵器を保有するには、自国で開発するか、既に開発している国から買うか、またはそのような国から奪い取るという3つの選択肢がある。

 「核開発経験者を雇う」というのは、結局その人を頼って自国で開発することを指すので1番目の選択肢に入れる。

 2つめの選択肢には、開発されながら行方不明になっていると言われる核兵器を核テロリスト(?)から買い取るという手もある。テロリストの手に核があるより目に見える国家が保有しているほうがまだましという見解もあるだろうが、その購買資金が新たなテロ資金になるわけだし、「日本が買い取ってくれるらしいぞ!」って核強奪が世界で流行っても困る。じゃあ、買った後にその売ってくれた(!)テロリストを捕まえればいいなじゃないかということも考えられるが、それじゃあ、もともと売ってはくれないだろう。
 んじゃ無理かな、とも思ったけど…ひょっとしたら現在の核保有国のうち、経済的に困ってる国の横っ面を札束で張って、「オラオラ、金に困ってんだろう、オメェんとこのをこっちに譲ったれや!」って核兵器+開発者+管理者ごと買い取っちゃうってのは、どうなのかな。ロシア&インド&パキスタンあたりは飛びついてこないかな。3国の保有が減れば日本が保有しても保有国は2つ減るし。…なんてな。ま、これは無理だな。

 3つめの選択肢は、そもそも日本には他国を攻めるだけの兵力がないのでどだい無理な話。自衛隊があるだろうって? いや、あのね。日本がどっか他の国を攻めるには、陸続きじゃないんだから、海から上陸するかそらから空襲するしかないでしょ? 上陸するにしても空襲するにしても、直接日本本土から目的地まで運んでいけるような「足の長い」軍用機がないんだから、近くまで艦船で運ぶ必要がある。特に戦闘機だの爆撃機だのを飛ばそうと思えば空母が必要だけど、それもないし、上陸するための舟艇がないはずだ。それに一旦攻めればいいってもんじゃなくて、かなり長期にわたって占領を続けるには、それなりの兵力・兵站等々やそれを確保するための制空権の確保とかなんとかが必要なんだけど、それって維持できるほどの体制が組めるとは思えんのだ。

 この意味で、私は「日本が戦争をしかける」という危険性はまずないと考えている。もしそれが起こるとすれば、今書いたようなことがわかってないアホな政治家が命令した場合だ。

 となると、やはり、1つめの選択肢だけしなないだろう。

 まさか「他国を攻撃するため」という名目では開発しないであろうから、ほぼ間違いなく「抑止力の確保のため」という名目で行うだろう。しかし、核兵器を持つだけでは抑止力を確保したことにはならない。核による抑止力というのは、「もし敵国が攻撃してきたら、その反撃として核兵器で応戦するという姿勢と能力を見せることで、敵からの攻撃を思いとどまらせる」というだが、そのためには大きな大きな前提条件がある。それは「最初の敵からの攻撃に耐えうる(=先制攻撃で核兵器が全滅しない)」ということだ。
 仮に日本のいくつかの基地にミサイルとして配備したとして、それらをすべて破壊されてしまうようでは反撃は不可能なので、抑止力にはなりえない。核保有国の多くの国土が比較的広いのは大きな利点でもあるのだ。そのため本気で日本が核抑止力を持ちたければ、英・仏のように原子力潜水艦に搭載可能な核兵器か、爆撃機に搭載可能な核兵器の開発になる。ただし、先ほど書いたことの繰り返しになるけど、その場合は航続距離の関係からその爆撃機を運ぶ空母級の艦船が必要だ。もしくは「足の長い」爆撃機を開発・購入することが必要になる。
 つまり、「核兵器を持つ」だけでは有効な利用はできず、抑止力を確保したければ付随して(!)軍備を拡張することが必要となる。これでは周辺地域の緊張をより高めるだけだ。それは確保したかった抑止力を確保しづらい環境になってしまうことを意味する。

 日本の核保有に賛成の人々はそこまで考えて発言してるんだろうか。
 もともと(自国への攻撃に対する)抑止力とは、相互の不信と恐怖の均衡によって成立する。それを取り除くことが、より本質的な戦争への抑止力となるはずだ。核を持つとは−しかも抑止力という理由で核を持つとは−、軍事的に意味があるのか、ということのほかに、彼我双方が核兵器の被害にあってもかまわないとする覚悟と狂気を是認するということだという認識があまりにも薄いのだと、私は思う。

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Updated : 2003/08/15