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Title : Information Security
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Contemporary Files #20030513
個人情報保護法案に反対するなら
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 先週は個人情報保護法案が衆議院で可決して、まるで治安維持法が通ったような報道がなされていたりする。んー。なんだかなぁ。たぶんね、問題がごっちゃになってるような気がするのね。純粋な意味での「個人情報保護」と「報道の自由」とを1つの法律でなんとかしようとしている法律の技術的な問題と、その法案に対して報道の自由の侵害という面をやたら強調しすぎるとこと。
 ちょいと前に『ECで取り扱われる個人情報に関する調査報告書』というのを読む機会(と言うか読まざるを得ない状況)があってね。まとめてみたんだよ。

〔各国の個人情報関連保護法制度〕

国・地域 法律・規定 ポイント
OECD プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関するOECD理事会勧告(1980)
  • 個人の情報収集は適法かつ公正な手段によるべきであり、必要に応じてデータ主体に通知または同意をえること
  • 個人データは利用目的に沿ったものであること
  • 収集目的は収集時よりも遅くない時点で明確にされること
  • 明確化された目的以外にしようされないこと
  • 紛失・破壊・修正・開示等の危険に対し合理的な安全保護措置がとられていること
  • 個人データにかかわる開発・実施・政策は公開されること
  • 自己に関するデータの所在を確認し知らせるべき
  • データ管理者は以上の原則を実施する責任を負うこと。
EU 個人データ処理に係る個人の保護および当該データの自由な移転に関する欧州議会および理事会の指令(1995)
  • EU加盟国は1998年10月14日までに当指令に沿った国内法を整備すること。
イギリス データ保護法(1984,1988年)
  • 官民双方を対象としたデータ保護を規定
  • 自己データが含まれるかを知る権利とそのコピーを受ける権利を明記
  • データ主体の同意または契約の履行時にのみ処理されること
  • 明示された適切な目的に対する処理のみ可能であること
  • 処理目的に適った期間だけ保存すること
  • 安全保護のための適切な安全措置をとること
  • ただし安全保障上・犯罪捜査上・教育上・統計上の利用のための例外規定がある。
フランス 情報処理・データと自由に関する法律(1978)
  • 官民双方を対象としたデータ保護を規定
  • 不正・違法な個人情報の取得を禁止
  • 個人情報収集時の提供義務の可否・提供しない場合の効果・提供対象・アクセス権および訂正権に関する通知義務を規定
  • 情報収集時に提示された期間だけ保存すること
ドイツ 連邦データ保護法(1977,1990)
  • 官民双方を対象としたデータ保護を規定
  • 不正・違法な個人情報の取得を禁止
  • 原則として書面による当事者の同意がなければデータの処理・利用は禁止
  • データ主体は蓄積目的・データについて開示要求できる。(アクセス権)
米国 (包括的なプライバシー保護法案はない)
  • 金融プライバシー権利法
  • 公正信用報告法
  • ビデオプライバシー保護法
  • 有線プライバシー保護法
  • 家庭教育の権利とプライバシーに関する法
  • 運転者プライバシー保護法
  • 電話利用者保護法
  • 情報の自由法
韓国 公共機関における個人情報保護に関する法律(1994)
  • 公的部門を対象としたデータ保護を規定
  • 個人情報の収集・ファイルの保有を制限
  • データ主体による個人情報の開示請求。
  • 不当な目的や不正な方法でデータを利用・漏洩・譲渡した場合に罰則
【出典】:『ECで取り扱われる個人情報に関する調査報告書』(平成 14 年 3 月)
電子商取引実証推進協議会 個人情報保護WG

 一般名詞としての個人情報保護法ってのは、やっぱり必要だと思う。それでなくとも自分に関する情報が勝手に流通して、「あんた、どこから私の情報を知ったの?」って言うところから電話とかがかかってきたりするのは気味悪いだけじゃなくて、危険であったりする。上の表を眺めてもらったらわかるけど、基本は、「本人の情報は本人の意図以外に利用されてはならない」ってことだと思うのだ。だから「『個人情報保護法』なんて要らない!」っていうのは、結構、変なスローガンだと思うわけ。だって、それって、「個人情報は保護しなくていい」→「私の情報は好き勝手に流通させていいよ」って叫んでいるように見えてしまうから。だから個人情報保護法に反対する立場には、なんらかの限定がつくんじゃないのかなぁ。報道の自由が気になって仕方がないのなら、包括的な個人情報保護法にしないで、別途、報道に関する個人情報の侵害に関する法律を作ればいいじゃない。

 ああ、今、「法律を作ればいいじゃない」と書いてしまったよね。たぶん、ここんとこで色々と立場が分かれると思うんだ。「法律を制定すること」≒「規制すること」としか理解できなくて「お前は国による規制が強まればいいと思ってるんだな!」と決めつけてくる人もいるんだけど、そういうことを言いたいんじゃない。私は、社会が機能していくためのルールは明文化されていたほうが望ましいと考えているってこと。ほら、こういうのって業界による自主規制で充分っていう立場もあるんだけどね、それこそ、何でも反対したがる人が最も嫌う「権力」側の思うツボなんじゃないのかなぁ。
 あのね、人に自分の言うことをきかせる力のことを「権力」って言うんだけど、それには4つの源泉というか方法があるって、ちょっと前に話題になった『CODE』(ローレンス・レッシグ;翔泳社)に書いてある。1つめは法。2つめは法じゃないけど規範のようなもの。3つめは市場。経済的な原理による行動。そして4つめが「アーキテクチャ」による支配。クセ者は4つめだと思うのね。別にどこにも明示的に決められたわけでもないし、強圧的に命令されているわけでもないのに、みんながそれとなく、ある行動原理に従うように仕向けられているという、「環境」による支配。「30分以上座席に座っていてはいけない」と明文化されているのと、座席の座り心地を敢えて悪くして30分以内に出たくなるようになってるのと、どっちがイヤかっていうレベルなのかも知れないけどね。私は、それでも、明文化されているほうがよりマシだと思う。人々の意識に上ることで、議論したり改善したりする余地が生まれるから。でもアーキテクチャによる支配は違う。それを布いた者(強いた者、ではない)が巧妙であればあるほど、人々はその支配に気づかない。

 いいかい、法律になるから「廃案だ!」とか反対できるんだよ。誰もアーキテクチャに対して文句言えないし、言ったとしても、多くの人は、「こいつ、一体、何に怒ってんだ?」という反応を示すことになるだろう。
 明文化されないアーキテクチャに多くの人が従ってしまったとき、それに従わない少数の人々は、理由がよくわからないままに異端視されてしまうだろう。それはそれで住みにくい世の中だと思うのだが。

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Updated : 2003/05/13