Location : Home > Contemporary Files > 2003
Title : The words makes the world.
Site:Felix Logo
Contemporary Files #20030209
ことばが世界を創る
/ BBSへGo! /

 2月5日の安全保障理事会で、合衆国のパウエル国務長官がイラクの大量破壊兵器査察問題で、イラクが安保理決議に違反し、証拠隠ぺいをはかっている証拠(と合衆国が主張するもの)を公開した。ま、もちろんイラク側も「はい、そうですね!」などと言うわけも無く、「事実無根だ」と抗議しているわけなんだけれど。ま、ことの真偽はともかく−って本当は重要なんだけど、その真偽に関わらず合衆国はイラクを攻撃するような気がしてならないのでこういう表現になってしまうのだ−、英国のストロー外相がちょっと気になる発言をしている。
 通常、国連の安全保障理事会というのは各国の国連大使が普段は参加して討議しているのだが、この手の重要な問題のときは外務大臣級の閣僚が参加するわけだ。(ほら、だって、安保理でパウエル自身が説明してるでしょ。それに安保理の会合って決議採択するときだけ集まってるんじゃなくてほとんど毎日会合は開いてるんだな。そういう会合に毎回外相が参加してたら,それ以外の公務ができなくなっっちゃうでしょ。)
 さて、本題に戻ってストロー英外相のコメントだけれども、こういうもんだ。

[原文]
"The League of Nations had failed because it could not create actions from its words.
We owe it to our history, as well as to our future, not to make the same mistake again."
[訳文]
 国際連盟はその言葉の通りに動かなかったから失敗したのだ。
 我々は歴史に対しても、将来に対しても、同じ過ちを犯さないという責任を負っているのだ。

 前後の文章を読みなおしてみたけれど、この "its words" ってのは、たぶん "It" は国際連盟しか指しようがないので、「国際連盟の発した言葉」−国際連盟が発表した決議とか宣言とか−が、そのまま実行されなかったから失敗したんだ、今の国際連合は言葉にしたことは実行するっていう決意表明のように受け取れる。意訳すれば、「ヤル言うたらヤルで」と凄んでいるということだ。今回の場合は、国連が(正確には安全保障理事会が)「ヤルぜ」と言わなくても英米がやりそうな気はするけどね。

 さて、ここで問題にしたいのは、実はイラク情勢のことではなくて、こういう、まず言葉を発してそれを実現することで、現実を変えていくという手法(と言う表現が妥当かどうか迷っているけどね)だ。
 最近読んだ本の中に『インド哲学七つの難問』(宮元啓一;講談社選書メチエ)というのがあって、その第1章でのテーマが「ことばには世界を創る力があるのか?」という問題だった。この回答はYesだ。と言ってもいわゆる言霊信仰を認めているわけではない。インド哲学というか仏教上の修行の感じからすると、「誓願」のことを指していると思えばよい。
 まず言葉を発する。つまり決意発表する。その時点ではできそうにないことであっても、それができるような力量を身に付け、環境整備をすることで、それを実現してしまう。この意味で「言葉が世界を創る」というわけだ。まあ、英米が国際社会において「誓願」を果たしてる、とは見たくないが、構図は同じだ。まず宣言する。その手続きにしたがって行動する。そして実現する。

 私が、合衆国はうまいことやるなと感心する点であり、鼻持ちならないなぁと思っている点は、まさに、その宣言を、どこの誰よりも早く出してしまうことと、それを周囲に押し付けようとすることだ。
 現代思想が好きで好きでたまらない人はソシュールのイヌとヤマイヌとの違いに関する議論を思い出してもらえばいいが、世界の現実というのは、それをどういう枠組みで切り出してどういう言葉で表現するかで、現実の捉え方がまるで変わってしまう。そしてその枠組みと言うのは、最終的には最も説得力があるものが残るのであろうが、その途中で常に参照され、中心的に扱われるのは、やはり最初に出された枠組みだ。つまり、まず勝てる「土俵」を設定し、その上での「ゲーム」に周囲を引きずり込む。これだ。

 本気で現実を変えたい者は、「反対!」とかシュプレヒコール−この言葉を知っているのは一部の組織活動家と中島みゆきのファンだけぢゃないのかえ?−してたり、どーでもいい掲示板でうだうだ書きなぐってる(それで「ネットでの議論が盛り上がってる」と思ってるあたりがしゃらくせぇ)だけじゃなくて、まず言葉を発して、その通りに行動することだ。アラン・ケイが言ってたけど、たしかに 「未来を予測する最良の方法は、それを発明してしまうことである。(The best way to predict the future is to invent it.)」なのだ。


[Previous] : 2003/02/03 : 宇宙には全体主義がよく似合う
[Next] : 2003/02/18 : 個人を特定する方法
[Theme index] : 人間
Site:Felix Logo
Updated : 2003/02/09