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Title : Peeping satelite
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Contemporary Files #20030115
騒がれない情報衛星
/ BBSへGo! /

 ここの読者の皆さんは「情報衛星」ってなんだかおわかりになるんだろうか。
 ほとんど家には寝に帰るだけなので、朝出勤する前のわずかな時間と帰ってからの23時代のニュースしかテレビは見てなくって、その範囲では報道してるのはここ最近は皆無じゃないかなと思う。
 情報衛星。いやあ、言葉ってのはうまく繕うもんだねぇ。まあ、表向き、日本は軍事衛星を持てないもんだから。もちろん周辺諸国への影響ってのもあるし、1969年5月9日に衆議院で採択された「わが国における宇宙の開発及び利用に関する決議」には宇宙開発を平和利用に限るってしてあるので、これに抵触する危険性があるわけね。けど、今年の3月には打ちあげちゃうんだよな。今回打ち上げる情報衛星に関しては、災害初動時の情報収集などの民生利用も行うので−素直に「軍事偵察衛星」と呼ばれないようにそうした使途も準備したという気がするけど−、自民党はともかく民主党も必ずしも国会決議に反しているとは明確に指摘しておらず、「憲法の範囲内で」行えばよいと考えていると受け取れる。
 「偵察衛星」を「情報衛星」と言い換えただけで問題視されなくなったのかどうかわからないが、何でもかんでも反対したがる人たちの騒ぎ方が静かなのはなぜなのかなぁと言う、逆の意味での違和感をもって眺めている。

 何でこんなことを私が言っているかと言いますとね。
 世間で「日米安保反対!」って言っている人たちがいるじゃないですか。でもね、そういう人たちから、どうやったら破棄できるのか、破棄した後に何が必要かっていう具体的なロードマップが示されたことがなくって(って、少なくともワタシャ耳にしたことがないってことだけど)、ただただ反対してるだけっていう気がしてて、じゃあ、どうなるかってちょっと頭の中でシミュレートしてみたことあるわけよ。
 まず、ね。安保の破棄なんて簡単。「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」の第10条をよく読んでごらん。

第十条(条約の終了)
  1. この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合州国政府が認めるときまで効力を有する。
  2. もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意志を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行われた後一年で終了する。

 これはいわゆる「60年安保」の時に成立したわけで、1970年6月23日以降はこの第2項の適用により、やめたいほうが「やめたいんだけど」と言えば、それでいい。「協議する」んじゃないよ。「通告する」んだよ。だからね、本気で米軍を追い出したいんだったら在日米軍基地に向かって「Yankee, Go home!」って叫ぶんじゃなくて−つまり他国に政策を変更しろと現場の出先にいる人間につっかかるんじゃなくて−、安保破棄を標榜する勢力で衆議院の過半数を確保して与党になり、「やめちゃうよん」と通告する−自国で多数派となって政策を転換する−のがスジってもんだ。
 まあ、それで合衆国がすんなりとひっこむかはともかく、条文に従う限り、一方的に通告すれば事足りる。だから、次の(というか本当ははるか前から必要な)手は、太平洋西北地域及びユーラシア大陸のせめて東半分くらいの安全保障体制を合衆国抜きで成立させること。そのためにはアジア諸国との集団安全保障体制の確立が必要なんじゃないかと私は考えている。「それは憲法違反だ!」と叫ぶ人もいるだろうけど、私は守るべきは憲法という法律の親玉ではなくて、民衆の生命と財産だと思うゾ。もし民衆(「日本国民」とは言ってないことをあえて強調しておく)の生命と財産を危機にさらすものから効果的に守れる体制が確立できるなら、法律のほうを変えればいいじゃないかと基本的には思ってるのでね。
 さて、そこで、だ。
 日米安保がない状態、より具体的に在日米軍が撤収した後の日本には、米軍のほかになくなるものが2つある。1つは米軍がいないことによる、日本の軍事力−憲法では「戦力を保持しない」なんて書いてあるけど、自衛隊は誰がどう見ても軍事力だ−の行使への抑制が弱体化するのではないかと周辺諸国が危惧すること(いわゆる「ビンのフタ」論)、つまりパワー・バランス。そしてもう1つは周辺地域の安全に関する情報の収集・分析能力。
 前者についてはアジア諸国との集団安全保障体制の確立という方法でカバーできるだろう。けれども後者にはその代替物がない。
 もちろん今回の「情報衛星」打ち上げの決定は1998年8月のテポドン発射に応じてなされたものだ。(ちなみに同年11月に当時の小渕政権が閣議決定、それから毎年千億円単位の予算が計上されている。) だから第一義には朝鮮半島をはじめとする日本周辺地域の「情報収集」を主目的と考えていいだろう。けれどもミサイルを撃つのは国家とは限らないし、仮に国家だとしても故意とは限らない。これまで米軍が行ってきた役割を幾分かは縮小するにしても、皆無にすることはできないだろう。安全保障のための情報収集機能の確立は、安保なき後の日本にはかなり重要度の高いものになると私は考えているわけだ。

 「戦争のにおいのするものは何でも反対!」という方々とは別の意味で、今回の「情報衛星」の打ち上げの意図というか意味がどこにあるかを注目している。もしどこかに日本の合衆国からの「独立」を望む勢力がいて、しれっとした顔で独自の情報収集体制の確立とそのノウハウの蓄積をもくろんでしかけたのなら、なかなかのものだ。ただ、その意図が奈辺にあるかによるんだけど。
 ふ〜む。そこまで切れる&ハラの座ったヤツって、今の日本にはいないだろうけどね。。。


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Updated : 2003/01/15