Location : Home > Contemporary Files > 2003 Title : Japan 2003 |
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だいたい、年末年始にここに書きたくなるようなことって起こらないのでネタをどうしようかと悩んでしまったので、買ったままの2003年予測本を眺めた結果でも書いておこうと思う。
毎年10月〜11月になるとイミダスや知恵蔵と言った用語集と「来年の日本はこうなる!」的な次の年の予測本が本屋の店頭に並ぶ。まあ、ある程度のビジネスマンなら1冊くらいは手にするんだろうけど、わたしゃほぼ全冊を買い、見比べる。「ほぼ」というのは、いくら次の年の日本経済の行方や世界情勢について予測している本と言っても、ほとんど「予言」としか呼べないもの(著者の思い込みと言うかご託宣というか、とにかく論拠と論理構成が説得力を持たないもの)もあるし、予測本というより陰謀論の本に分類したほうがいい本もあるので、「将来を予測している本」全てを買ってよむほどの伊達と酔狂は持ち合わせておらんのだ。(財布もだろ、というツッコミは甘んじて受けよう。だって事実だもん。)
銀行が合併して4大メガバンクになる前までは、銀行系シンクタンク・証券系シンクタンク・保険系シンクタンクがこぞって予測本を出していたのでそれらをほとんど網羅して入手するのも一苦労だったのだが、今ではずいぶんと集約されてしまった。眺める本が少なくなったからよいではないかという声もあろうが、実は結構シンクタンク(の主席研究員?)のクセ・予測の傾向というのがあって、毎年強気・イケイケの予測を出すシンクタンク(アナリスト)と弱気の予測−というか、「日本はもうだめだぁ」的破滅願望−を出すシンクタンク(アナリスト)があって(いて)、その両極端を足して2で割ったらだいたい現実に近くなるということがあって、かなり見通しが立ちやすかったのが、そういうアンカリングポイント(anchoring point)が見えなくなってしまった。ま、ともかく、「シンクタンク」が出している本で共通している項目を眺めてみると次のようになっている。
日経大予測2003 | 2003年日本はこうなる | 日本経済の進路2003年版 | 2003年日本経済 | |
日本経済新聞社 | UFJ総合研究所 | みずほ総合研究所 | 高橋乗宣(三菱総研) | |
景気 | 景気回復は2004年以降 | 2003年夏ごろまでは回復が続く | 2003年後半から後退の行方 | マイナス成長は避けられない |
個人消費 | 勢いなく一進一退 | 所得環境は厳しいがデフレの恩恵を享受し緩やかに回復 | ||
物価 | 緩やかなデフレ進行 | デフレ圧力は緩和するもののインフレまではいかない。 | 緩やかなデフレ進行 | ますます深刻化 |
失業率 | さらに上昇、景気との爬行 | 失業率は高止まりのまま | 悪化する雇用情勢 | 大倒産・高失業となる |
株価 | 景気・業績悪化により不安定な相場 | 前半は堅調地合、後半に調整局面 | 中長期的な下降傾向に歯止めはかからず | |
外国為替 | 緩やかな円高 | 前半は緩やかな円高、後半にかけて円安へ | 超ドル安 | |
不良債権処理 | 3年以内の最終処理はむり | 劇的改善は望めず | 新規発生がとまらず | 改善されず、先送り |
米国経済 | 2003年に回復 | 回復力が強まる。 | 景気回復力は緩慢 | |
EU経済 | 2003年に回復 | 一段と磐石に | ゆるやかな回復へ | |
2003年に回復 | 堅調に回復 | ゆるやかな回復へ |
そう、一番右端の高橋氏はいつも数あるシンクタンクの中で最も悲観的な展望を示している。が、それを差し引いても、ほとんどどこもかわりがない。景気はよくならないしデフレは緩やかだろうが急激だろうが、とにかく進む。不良債権も改善されず、失業率は低くならない。
で、どうすんだよぉ、という話になったとき、デフレの原因をめぐって共通した論調がある。つまり「デフレというのは国内の総需要と総供給のバランスが崩れていることによっておこる」という(一国)マクロ経済の理論に基づいて説明していること。もしこれが正しいとすれば処方箋はそのバランスをとること、つまり供給過剰なら需要を拡大する、手っ取り早く言えば財政出動しろってことになるんだけど、そんなのここ10年でかなりやってるのに効果がない。もっとほかに原因があるんじゃないのかいな、ということになる。
これに対し、長谷川氏が『100年デフレと日本の行方』(徳間書店;ISBN4-19-861618;\1600+tax)で面白いことを言っている。タイトルのとおりこのデフレは100年間続くと言うのだ。それはこのデフレの原因を次のように解釈しているからである。
まず、20世紀がインフレ基調であったのは、20世紀が「戦争と革命の世紀」であったからだと言う。戦争は巨大な絶対的消費装置(その活動によって何かが副生的に生産されることはなく、ひたすら消費するだけの機能しかもたないもの)であるので、常に貨幣に対して物資が不足するような構造だった。それが冷戦によって根本的に変わった。1つには「戦争と革命」の発生する危険性がきわめて低くなった一方で、これまで共産圏に閉じ込められていた相対的に安価な労働力と資源が一挙に市場に提供されるようになったからだ、と。個人的には結構説得力のある話だなぁと感じている。長谷川氏の分析が全部正しいかどうかはともかく、従来の(一国)マクロ経済理論に基づく施策では埒あかんというのは事実という気もするし。…というわけで、デフレは続くよ、もっと長く。たぶん。
それともっと国内的な理由で、物価ってのは下がっていくと私は観測している。話は単純。中長期的には日本の人口は減っていくから。そうするとね、まず住宅の需要が減っていくんだわ。というか不景気ってこともあるけど、現に減り始めてる。それと同義だけど、少子化、ね。一人っ子が増えてきてて、一人っ子同士が結婚するときに、両親の持ち家のどっちか(へたすると両方)があまっちゃうと。実際問題として、無理しなくても家が確保できる人数が少しずつ増えていくだろうということと、無理してまで確保するのはリスキーだという感覚から、「何がなんでも持ち家!」という願望を持つ人が減っていく。そうすると、宅地開発なんてのは活発じゃなくなる。そう、今も下がり始めているけど、地価がもっと下がっていく。するとだな、その土地の上で生産するもののコストが下がるわけだから、価格も下げざるを得ない。日本の物価が高い元凶ってのは、地価の高さと、この狭い国土に1億人も住んでいること(だからそれだけ食っていかなきゃならないからそれだけの仕事が発生するように手間をかけることによってコストが高騰する)にあるわけだから、そこからじわじわ利いてくるんだな。人口が減るってことは。
それから、これは以前別のところで書いたんだけど、そう遠くない将来(おそらく2010年まで?)、今、バカでかいインフラをもってしまってる企業がアブナクなるかも知れないと思っている。携帯電話について言えば次世代(今試験中のFOMAじゃなくて、さらに次の世代)の通信規格(ってまだ研究段階だけど、その研究の方向性)は、インフラ非依存なもので、かつ異種のものも接続するようなもの(「ヘテロジニアスなシステム」と呼ぶそうな)になるので、現世代のように設備を拡張することでサービス提供を拡大するなんてことがナンセンスになる可能性が大。つまり、必要な時に必要な設備を借りちゃうことが可能になる。
もちろん、誰かがインフラを持たないとだめなんだけど、インフラへの重複投資はすっごく無駄になって、資産じゃなくて、負債にしかならんということになると踏んでおりやす。このことについてはまた書くと思いますけど。
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Updated : 2003/01/06
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