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Title : Who are skilled?
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Contemporary Files #19991213
そして誰もいなくなる?
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 今週、東京出張の新幹線の中で、村上龍が主宰するメールメディアの内容を刊行した、『日本の選択した道』・『雇用問題を考える』(NHK出版)を読んだ。特に印象的だったのは、後者だ。

 記憶に残っているのは2点。

 まず1点めはフリーターの増加についてだ。
 世界的な基準から言えば、日本は豊かな国だ。不況だなんだと言っても、町に失業者があふれているわけでもないし、子供が栄養失調でどんどん死んでいっているわけではない。定職につかなくたって食っていけるのだ。まあ、確かに、定職がないとローンを組まなきゃいけないような買い物(家とか)は難しいかも知れないし、誰かを扶養しなければならないとなったら大変ではある。が、そうなったらなったで、いろいろと救済(?)方法はある。

 もう1点は、外資系企業を中心に広がりつつある労働力の流動化である。有能な即戦力を他社からひきぬいたほうが、競争力が高くなるからだ。

 この2点には共通した問題が潜んでいる。誰がどこで労働の技能を修得させるか、である。
 社会でそれなりに通用する(とりあえず、「労働力として価値がある」ということ)ためには、よほどの才能がない限り、それなりに訓練を受ける必要がある。もちろん、特定の企業・組織でしか通用しない技能ばかり修得してもしかたがないのだが、フリーター(短期間しか一定の職を行わない)となると技能が継続的に蓄積されない危険性があるということ。
 これまでは、日本は新卒を採用してコストと時間をかけて、一人前にしてきたわけだが、どの企業もヘッドハンティングに走り、どこもその教育コストを担わなくなると、最終的に、本当に誰も人材を育てなくなる。それでも生き残る人材は、常に自分に投資し続ける稀有な存在であるだろうし、その他の凡百な人は相手にもされなくなるかもしれない。
 もちろん、個人としてどう振る舞うかという問題でもあるのだが、これでは長期的に日本には広い意味での「熟練工」(skilled worker)がいなくなる危険性がある、というわけだ。これは30年後くらいに、ボディブローのように効いてくるかも知れない。


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Updated : 1999/12/13