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Title : Casting Vote?
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Contemporary Files #19990621
キャスティング・ヴォート
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 " Casting Vote " とは公明党がよく使う言葉であるが、その状況とは一体何なのかを分析してみたくなって、投票の影響力を示す指数をちょっと計算してみた。

 議会における政党の目的がみずからの政策を含んだ法案を可決させることにあるとすれば、賛成票が過半数を超えるように他党に働きかける。
 提出された議案に対し、順に賛成する政党が指示していく提携を考える。当然、全政党が反対した時は否決されるし、全政党が賛成した場合には可決される。ということは、ある政党が賛成する側に加わることによって初めて過半数を超えることになるはずである。その政党を「ピボット」という。仮に全ての投票者が同様の確率で支持・不支持を決定しているとすると*1、すべての組み合わせを考慮した時の、ピボットになる回数の期待値をその政党の影響力の指標とすることができる。これをシャープレイ=シュービック指数( Sharpley-Shubik index ;以下「SS指数」)という。…というのは『投票システムのゲーム分析』(武藤滋夫&小野理恵;日科技連)の受け売りで、この本には Mathematica のプログラムが載っているので、それを打ち込んで計算してみただけであるが。

 こういう説明だけでは満足していただけな方のために定式化しておくと、

 投票者数(ここでは政党数) n 、投票者 i に関する重みを wi(ここでは政党に属する議席数)、勝利提携となる過半数を q であるような重み付け多数決ゲーム [ q ; w1, … ,wn ] を考える。このとき投票者 i が加わることで勝利提携になる(過半数を獲得できるぎりぎりの)勝利提携 S は、


を満たしている。したがって i を含まない提携で重みの和を k 、要素数が s - 1 となるような場合の数を CIk,j-1 で表すと、SS指数は

と表せる。

 このシャープレイ=シュービック指数だけでは何も言えなくて、指数のばらつきが、政党の議会における議席獲得率と比較して大きいか小さいかで影響力を判断することができる。

 例えば新進党分裂時は、議席獲得率の割にこのSS指数が小さかった。議席数の割に影響力が低いために求心力がなくなったというわけである。小さいグループとして外に出て、自民と連携することで政治的重要性を増すという戦術が取り得たということだ。
 逆に、PKO法案が通ったころ(「自公民路線」のころ)もこの数値が、議席獲得率の割に異常に高かったのであるね。ひょっとして今の状況もそうなのかな、と思ったので、現状はどうなのか確かめてみたのである。

 まず衆議院では自民党が過半数を占めているので、ピボット政党は自民である。ゆえに考察の対象外。参議院の状況はというと、自民+自由でも過半数に満たず、自民+共産ではじめて過半数なのであるが、それが成立するわけはなく、その次の可能性としての自民+公明で現実的な過半数となる。

 したがって、公明党の影響力を表すSS指数が高いもの、、と思いきや、政党間でのばらつきと議席獲得率を比較しても大差がないのである。下の表で言うと、一番右の列の値がほとんど1付近である。これはどういうことかというと、議席数に応じた影響力をもっているという、実に実に明らかで説明のしようのない当然といえば当然の状況ということであり、公明党が有利なポジションを握っているとは断言できないということなのである。

政党

議席数

比率

最小との比(A)

SS指数

最小との比(B)

(B)/(A)

自民

105

0.4167

26.25

0.9219

35.04

1.335

民主

56

0.2222

14.00

0.4184

15.90

1.136

公明

24

0.0952

6.00

0.1651

6.28

1.046

共産

23

0.0913

5.75

0.1578

6.00

1.043

社民

14

0.0556

3.50

0.0941

3.58

1.022

自由

12

0.0476

3.00

0.0803

3.05

1.018

参議院の会

10

0.0397

2.50

0.0666

2.53

1.013

二院クラブ

4

0.0159

1.00

0.0263

1.00

1.000

無所属

4

0.0159

1.00

0.0263

1.00

1.000

合計

252

1.0000

-

-

-

-

 早い話が、公明党の躍進によってこの状況が生まれたのではなく、第1党の自民がやや負けで、第2党の民主党が大勝も大敗もしない数であることによって(ということは前回の参議院選挙の結果から)派生した状況でしかないということである。
 つまりこの状況は、次の選挙で自民がもう少し議席を伸ばせば、たとえ公明の議席が伸びても影響力は急激におちる危険性をもっているということである。

 当初は、公明党の影響力を示す指数が大きく出ることで、現実を説明できると思ったのだが、逆の状況が示された。

 自民党としては、いろいろな重要な法案を今国会で通過させてしまい、公明党を使い捨てにするのがもっともオイシイ戦略かも知れない。このことで民主党の影響力を封じ込め、有権者に民主党への期待を萎えさせるという影響もでるかも知れない。おお。もしこれはこのことを計算済みなのなら、自民になかなかの策士がいるということかな。
 公明としては使い捨てられる前に、「トロイの木馬」的に、表面上は自民の(官僚の、かなぁ?)提出する法案に(修正を加えながらも)賛成しつつ、時限爆弾が将来炸裂するような仕掛けを仕込んでおくというのが、とり得る手かも知れない。


footnote1:
当然、この仮定は現実的ではない。実際、公明党と共産党の議席はほとんど変わらないので計算上の影響力にも差がない。しかし政策上の違いなどをSS指数の基本型(今回の計算に用いたもの)では扱っていない。政党による(一般には投票者による)政治的立場の違いを政策空間を定義してその上での分布をもとに反映してSS指数を拡張する試みはすでにいくつか提案されている。( Sharpley-Owen 指数など。)
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Updated : 1999/06/21