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Title : Not In Anybody's Back Yard
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Contemporary Files #19990301b
NIMBY あるいは NIABY
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 高知県の脳死と見られる女性患者の件で非常に陰が薄くなってしまったが、高知県ではもうひとつ気になることがあった。
 高知県の非核港湾条例(県港湾施設管理条例)である。

 条例提案のきっかけは、高知新港の整備である。1996年11月に高知県原水爆対策協議会が非核化の提言を行ったのだ。新港の開設により、大型の船舶が接岸できるようになり、外国艦船の寄港が多くなると考えられ、これを受けて橋本知事が1997年の県議会で「外国艦船の入港時に非核証明を求める神戸方式でいく」と言及した。
 しかし、今年の定例県議会に条例案を提出しようとした高知県に外務省が、地元選出の国会議員を通して「国の外交にかかわること」と難色を示したという。また外務省の公式見解では「自治体の権限を逸脱しており、条例化は許されない」とのことであったという。これに対し県側は、「国の所管であるというなら外務省が非核を証明すべき」とし、同省を通じた間接証明方式にし証明手続きは法的拘束力のない要綱(条例ではない)にすることとにし、国側の批判をかわそうとした。
 橋本知事がこれを発表するや否や政府・閣僚は猛反発した。

 実はこれには矛盾がある。
 日本には「持たず」「作らず」「持ち込ませず」の非核3原則(1967年12月表明・1971年11月衆議院で決議)がある。これを根拠に日本の港湾に寄港するすべての艦船は核を積載していないことの証明を求めても何ら問題はないはずだ。いや、それどころか積極的に政府の方針を遵守しているとも言えよう。「国の所管であるというなら外務省が非核を証明すべき」という高知県側の言い分は至極当然である。それを「けしからん」とすれば、いったい国はどうするのか。

 国が非核を証明するのか、「実は核を積んでるカモ」と疑惑を残したままにするのか。

 NIMBYという言葉がある。Not In My Back Yard(「うちの裏庭だけではやめてくれ」=「自分の領域内では反対」)という意味である。通常はごみ処理場など、社会生活に必要なのだが、誰もが自分の近くには設置してほしくない施設の建設に反対するような時によく見られる姿勢である。「核」だってそうなのだ。そんなの近くに来てほしくない。「核」があれば別の「核」から狙われる。せめて自分のとこには来るな、ということで、高知県の姿はこの NIMBY と言えるかも知れない。
 しかしよく考えてみると、日本各地でも「非核都市宣言」をしているし、国際的にも非核地域条約(ラロトンガ条約・南極条約など)がある。これは規模はどうあれ、煎じ詰めれば「この地域に核を持ち込むな」という取り決めである。これは地域エゴだと批判されたりはしない。核廃絶への有効な方法の一つが、この非核地域の拡大なのだ。
 Not In My Back Yardではなく、Not In Anybody's Back Yard−誰の裏庭であってもならない−そういう言葉が、NGOの活動の間で広がってきているらしい。NIMBYでは結局エゴの押し付けあいになって根本的な問題解決にはならないことに気付いたからだ。「自分の近くにあっては困るもの」を無くす、すくなくとも極力少なくする方向へ動いているのだ。

 高知県だけでなく、北海道函館市でも条例案が今年の市議会に提出されるらしい。また、渦中の高知県港湾課には「条例案を送ってほしい」という依頼が全国から相次いでいるとのことだ。この動きが日本中のすべての港湾に及んだとき、正確に「持ち込ませず」が確認できることになり、政府としては喜ばしいはずなのだが。


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Updated : 1999/03/01