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Title : Sakinohaka
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サキノハカといふ黒い花といっしょに

 最近、幸村誠の『プラネテス』を読んでいる。近未来の宇宙でデブリ(宇宙ゴミ)回収会社で船外活動に従事している星野八郎太(話の中では「ハチマキ」と呼ばれている)たちが繰り広げる話である。

 ハチマキは新しく開発された木星往環船のクルーになるための試験を受けている。しかし、その候補生の中に、人類の宇宙進出をテロで阻もうとする宇宙防衛戦線のリーダー・ハキムも潜入していた。それを発見したハチマキハキムを撃とうとする。…が撃てない。

 ハキムは言う。

君は知っている
そばにいる者を踏み台にでもしない限り
星々の高みに手など届かんということを。

そしてその後に、宮澤賢治の詞が引用される。

サキノハカといふ黒い花といっしょに
革命がやがてやってくる
ブルジョアジーでもプロレタリアートでも
おほよそ卑怯な下等なやつらは
みんなひとりで日向へ出た蕈のやうに
潰れて流れるその日が来る
やってしまへやってしまへ
酒を呑みたいために尤らしい波瀾を起すやつも
じぶんだけで面白いことをしつくして
人生が砂っ原だなんていふにせ教師も
いつでもきょろきょろひとと自分とくらべるやつらも
そいつらみんなをびしゃびしゃに叩きつけて
その中から卑怯な鬼どもを追ひ払へ
それらをみんな魚や豚につかせてしまへ
はがねを鍛へるやうに新らしい時代は新らしい人間を鍛へる
紺いろした山地の稜をも砕け
銀河をつかって発電所もつくれ
〔サキノハカといふ黒い花といっしょに〕

 理想に邁進する者は、その理想に従わない者を排除したい衝動に駆られる。いや、実際に排除してしまう。理想への確信が純粋であればあるほど。理想に従っているはずなのに、怠惰に行動を起こさない者へはそれ以上の苛烈さで排除する。
 何かを成し遂げるためには狂おしいほどの情熱が必要なのだ。複数の情念の衝突は、周囲にも破壊をもたらす。
 近年の情勢はその図式で動いているような気がしてならない。


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Updated : 2002/06/18