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Title : Happy Holidays
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Contemporary Files #20061225
「クリスマス」
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 Google のトップページのロゴは、「今日は何の日」みたいな感じで日やシーズンによって変えられている。今は「クリスマス」シーズンなので、それっぽいロゴになっている。後になったら画面は切り替えられるだろうから記録としてこっち(http://www.google.com/doodle12.html)を示したほうがいいだろう。さて、気づく人は気づくだろう。このページのどこにも「Merry Christmas!」とは書いてない。Google の本当の意図は知らないが、これは多文化を意識したものだろう。

 「Merry Christmas!」=「キリストの誕生日、おめでとう!」と祝うのは、キリスト教徒に限られるはずだ、というのが宗教的に一貫性のある見方だ。特に移民の国・合衆国では、最近、不特定多数の人へのこの時期の挨拶としては、Happy Holidays が使われるようになってきている。だってユダヤ教徒はそもそもイエスをキリストと認めてないわけだし、この時期に別の祝祭があるし、ムスリムには、ムハンマドの前座の預言者だけを特筆して祝う必要ないし。その他仏教徒・ヒンズー教徒に至っては関係ないし。だから、いくらキリスト教が多数だと思われている国でも、国民の宗教的な多様性に配慮した呼び方が行われているというのは、個人的にはなかなかいい傾向だと思う。

 まあ、毎年クリスマスはやってくるのに、今年はこのネタに触れようと思ったのは、ここ数日で気になる事件が立て続けに起こったからだ。

 先日、エジプトで信仰上の理由で身分証の発給を拒否された夫婦がその処分撤回を求めた裁判で、却下されるというニュースが報じられた。この夫婦が信仰しているのはバハイ教。バハイ教はイランのバハーウッラーが創始した一神教で、イスラム教の1派から派生したと言われているが、当のイスラム教からは異端視…というか邪教あつかいされている。
 エジプトでは身分証の宗教欄にイスラム教/キリスト教/ユダヤ教の3つの選択肢しかなく、この夫婦はバハイ教徒であるため空欄のままにしておいたところ、身分証更新時に記入(…というか3つのうちどれかを選択すること)を要請され、これを拒否したために身分証を没収されたとのこと。エジプトではこの身分証がないと社会サービスが受けられなくなるため、裁判となった。今年の春先にはこの裁判をきっかけにアラブ語圏内でバハイ教を非難する報道が相次いだ模様。
 宗教の多様性を前提とする欧米諸国や、まったくと言っていいほどその手の問題に無頓着な日本から見れば、非常に不寛容なことと思える。

 また、24日、エチオピアが隣国ソマリアで勢力を拡大する原理主義組織「イスラム法廷会議」が支配する町を空爆したというニュースが報じられた。
 「イスラム法廷会議」と言うと、イスラム教の正当/正統な組織のように聞こえるが、そうではなく、もともとはソマリア国内でのイスラム聖職者によるイスラム裁判所の連合体のことである。イスラム教では何か法的な判断が必要になった場合、法源に基づいて判断するわけだか、個別の案件については、それらから結論が導き出せないことがある。これをその地域のイスラム法廷で判断してもらうわけで、イスラム地域では、地域内の社会的紛争を解決する権威の核となるわけだ。ところがソマリアでは政府が崩壊して秩序が保たれなくなったときに、そのイスラム法廷がいくつか連合して、ほぼ自治政府に近い働きをしたことがある。それ以来、その勢力化では実効支配を行っている。その武装集団がソマリア各地で暫定政府と戦闘を広げ、国土のかなりの範囲を制圧しているのが現状である。この動きに対し、暫定政府側を支持するエチオピアが、イスラム法廷会議の勢力下の街を空爆した、というのがことの顛末である。

☆ ☆ ☆

 ある社会において、宗教が個人の自由であるような社会と、社会を構成する道徳や規範と固く結びついている社会とでは、個人の宗教的信条に対する態度が異なってしまうのはある程度仕方がないだろう。が、現状として個人の信奉する宗教にはバリエーションがあるにも関わらずそれを認めない、(意図しない結果かも知れないが)排除のために用いるというのは、その社会を結局は住みにくくするのではなかろうか、と思うのは、私が日本に住んでおり、その文化にどっぷりつかっているからだろうか。


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Updated : 2006/12/25