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Title : Consequence
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Contemporary Files #20060302
正しさの連鎖
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 今日(3/2)、仕事で某独立行政法人に行ってきた。別にこの手の元お役所的なとこだけじゃなくて、大手の企業とかなら、打ち合わせで訪問してもいきなり担当者の席にまで押しかけるのではなくて受付で自分の所属と訪問先を書いてバッジか何かをもらって入っていくことが多いとは思うんだけど。で、この前来た時には要求されなかったのに、今回は受付で「身分を証明するものを見せろ」と受付で言われた。免許証でもいいというのでそれを見せた。
 そう言えば別件で先日某官庁に行った時も、入館時に身分を証明するものの提示を要求された。まあ、私は別にアヤシイ者でもないので…と思う…困らないので見せるけど、上司は社員証を見せる、と言う。

 いや。あの。

 確かにねぇ、グループ企業になら、社員証に本人が社員であることの「証明」になるのかもしれないけど、私の勤務先の会社の存在すら知らない人に、その会社が私の身元を保証したとして、それって「身分を保証するもの」と言えるんだろうかね。
 私が逆にそんなもん見せられたら、「何ですか、それ?」と意地悪く聞くんだろうな、きっと。たとえそれがどんなに綺麗で高機能そうに見えても、その発行主体のうさんくささが解消されないと証明にはならんからねぇ。

 そう言えば、最近、こういうメールがやってくる。ひょっとしたら読者の許にも届いてるかも知れないけど。

 ええーっと。このメールの出所だけれど、もちろん怪しい記者から入手したわけじゃなくて私の手元に来たのだけれど、To 行に記載されている私のアドレスを表示すると私の所属だのなんだのを特定できてしまうのでぼやかしてますです。--;
 ちなみに、メールのヘッダのなかに X-Junkmail とか X-Junkmail-Status とか見慣れないものがあるけど、これは、UCE(Unsolicited Commercial Email;まあ、SPAMと同義)をはじくために一部のサーバに導入されているヘッダで、その横に表示されている数値が一定値を超えるとSPAM認定、ということらしい。

 これも、「ウチの公認だから安心です」ってったって、頼みもしないのに勝手に収集したアドレスに対してこんなメールを突然送ってくる業者のどこが安心なんだってば。
 コレ、構造的には先の社員証と同じだわな。「正しさ」というか「アヤシイ者じゃないよ」という証明が完結してないのよね。
 昔、『妖怪人間ベム』というアニメがあって、人間と仲良くなりたい妖怪人間のベロがピチピチのスピードスケートのスーツみたいな服(?)を着て「おいら、アヤシイもんじゃないよ」って突然話しかけてきて、3本指見せられたら、「そうか、アヤシイもんじゃないな。」って得心しないでしょ。

 「正しさ」の証明が完結してない(かつそのために被害が出るかも知れない)例としては、いわゆる「オレオレ証明書」ってのがありますね。ネット上で個人情報を入力するとかカード番号を打たなきゃいけないときとか、そういうことを要求する際にはプロトコルを http から https に(もちろんサーバ側で)変えてることが多いし、そうあるべきなんだけど、「SSLをかけたサーバだ(httpsでアクセスできる)から安心」とは言えない。だってさぁ、Webサーバを構築…というかコンパイルするときにSSL用のソースをあてればいいのでね。いくらでも作れるわけだ。って言うか、私でもできるし、現にやったことある。だから、「SSL使ってます」では正しさの保証にはならない。「このサーバを運営している企業は確かに存在していて、きちんと運営されているよ」という証明は別途与えられなければならない。それがSSL証明書ってヤツで、有名なところではベリサインなどが発行してる。けどね、中にはその手を証明書の取得をサボって、自分で自分を証明する、「オレオレ証明書」で済ませてるサイトが結構あったりする。(このあたりについては 高木浩光@自宅の日記 を参照のこと。)
 これも、正しさの連鎖が完結してないでしょ。

 えー。メールつながりってことで、ここ最近、国会を騒がしていた、件のメールの問題だけども。

 この問題、「堀江メール問題」と呼んでるメディアもあるけど、一応今のところ、堀江氏が出したメールではなさそうということになりそうなのでそう呼ぶのも彼にとっては迷惑だろうし。
 メールの真贋や、そのメールに記載されてた金銭の授受に関する真偽も問題かも知れないけど、この一連の騒動で、来年度の予算審議がさほど深まらずに衆議院通過(ってことは参議院が否決しようが最終的に成立するので事実上予算案が通った)してしまったこともかなり問題じゃないのかえ。

 これは、例の永田議員が、メールの真贋についての正しさの根拠を「メールを持ち込んだ元記者が『正しい』と言った」ことに置いているってとこが、ミスの根源。「正しさ」を確認する連鎖が完結してないのよね。もしその元記者が表に出てきて会見でも開いたとして、「私にこのメールを示したライブドア社内の『情報提供者』が正しいと言ったから」なんて言ったりして。

 メール騒動で急に騒がれなくなった耐震偽装問題にしても、建築が耐震基準を満たしていることを証明するのは建築確認の段階なんだけど、それをエエカゲンにしたか、みんなグルですっ飛ばしたかで、連鎖が途切れてる。仮にグルじゃなかったとしても、正しさの保証を与えるべき機関が、「一級建築士がやったんだからその結果は正しいだろう」ってことで、正しさの根拠をそっちに移した。ここがダメダメの素。

☆ ☆ ☆

 結局ね、何かを「正しい」「アヤシクない」と言うためには、何かみんなが「正しい」と思っている、または「正しい」と言うことにしているところから始めて、「正しい」証拠と推論によって連鎖をたどれる場合だけなんだって。もちろん現実の社会ではそのあたり「信頼」ってことではしょったり「縮退」させたりするもんだけど。その確認をいちいちしなきゃならなくなったって、イヤな世の中になったねぇ。

 あのさ。最近、社会のいろんなところで、この手の「正しさ」の連鎖、信頼の連鎖がぶち切られてるという感じがするんだけど、小泉首相を好きでない人たちは何でもかんでも規制緩和のせいにしたがる傾向があるよねぇ。じゃあ規制を強化して何でもかんでもお役所がやったら「正しさ」の連鎖が確実に保持されるのかって言うと、そうでもないように思う。民がやるか官がやるかの問題じゃなくってね、担当した人が真面目であってもおバカなミスをした場合や、もともとおバカな人が担当者になった場合や、頭に「ずる」がつくくらい「賢い」ヤツが担当者になった場合でも、その被害を最小限に食い止める、フォールトトレラントな仕組みを用意することが重要なわけで。一発逆転を狙うなら、その手の提言をしようね、野党のみなさん。


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Updated : 2006/03/02