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Title : Fahrenheit 451.
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Contemporary Files #20041124
華氏451度
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 あれ、どうなのかなぁ。今、何の前置きもなく「マイケルのことなんだけど」と言ったとき、誰のことを想像する人が多いんだろう。
 最近全然騒がれもしない(少なくとも日本では報道されない)マイケル・ジャクソンのことだろうか。神様・マイケル・ジョーダンのことだろうか。マイケル・富岡のことだろうか。猫の「What'sマイケル」のマイケルだろうか。それとも意表をついてワタナベ・エンターテインメントのマイケルだろうか。

 ま、それはさておき、マイケル・ムーアの『華氏911』がずいぶんと話題になったけど、やっぱり子ブッシュが勝ってしまった。勝ってしまった子ブッシュについての話はまたそのうち(っていつかは不明 ^^;)書くとして、今回は『華氏911』つながりのネタで。

 『華氏911』は日本では「かし・きゅー・いち・いち」と発音されてるけれど、合衆国では「Nine-eleven」と発音されてる。昭和11年2月26日に発生した陸軍の一部皇道派将校によって引き起こされた「226事件」のことを「にーにーろくじけん」とも言うが、「にー・てん・にーろくじけん」と言う、この後者のほうがニュアンスとして近いように思う。だからどうしても日本語で言いたいのなら「かし・きゅー・てん・いち・いち」のほうが原義を踏まえてることになるように思う。…がこれが本題ではなくて。

 『華氏911』はSF『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ)を踏まえていると言われる。

 『華氏451度』で描かれている世界では、Fireman は火を消す「消防士」ではなく、火をつける役割を背負った役人だ。やたら放火しまわるわけではなく、その世界では本を読むこと、本を所有することが禁じられているため、本を持っている場所や人を発見したら(もしくは通報を受けたら) Fireman は現場に急行し、それらの本を焼き払うのである。そう、華氏451度とは書物(紙)が発火する温度なのである。(だから『華氏911』の副題とかで「華氏911度は自由が燃える温度」という言い回しがされる。)

 Fireman である主人公のモンターグは、自分の仕事に疑問を持ち、人目を盗んで書物を保有し、読むようになる。…が長年の社会の風習により、書物を読み通して理解できるほどの能力を持ち合わせない。いや、彼がおバカさんなのではなく、社会の仕組みが、統治する側が、次から次へと娯楽と刺激を与え続け、じっくりと思考する機会を可能な限り削ぐように手配し続けてきたのだ。だからこそ書物を読むことが禁じられていたわけだ。
 やがて書物を保有していたことがバレたモンターグは追われる立場となるが、逃げている最中にある川沿いの地域に出て、ある集団に出会う。モンターグがその集団に出会った夜、戦争が起きて都市は徹底的に破壊されてしまう。

 その状況をみた、その集団はゆっくりと都会のほうに向かう。「街の連中は、わしたちを必要としておるにちがいない」と言って。彼らは、書物を、組織的に少しずつではあるが記憶していた集団なのだ。彼ら自身が知識の保存媒体となっていたのだ。モンターグも期せずしてその一員となっていたのである。

 『華氏451度』で描かれている世界では、ある世界が、個々人に考えることを極力させない状況に置かれ、しかもその統治機構が破壊されたとき、ごく少数の人たちがその代替物をひそかに準備していた点に救いがある。では、現実の、こちら側の世界を『華氏911』と呼ぶことは可能かも知れないが、その体制が崩壊した(もしくはさせた)として、その代替物は、いったいどこにあるのだろうか。
 ブッシュを批判するのは簡単だ。でも本当に必要なのは、「ブッシュ後」の世界の準備をすることなのだ、と最近、痛感している。


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Updated : 2004/11/24