最近…でもないか…よく「日本はどうなる？」みたいなことがよく言われる。
　で、結論。どうなってもいいんじゃないかなぁ。ってなことを言うとずいぶん投げやりに聞こえるね。まあ、どこに視点というか最低ラインというか、これさえ死守できればっていうところをどこに見出すかによるんだろうけど。
　もし10年以上前の、あのバブリーな時期と同等の生活を送りたいっていうのなら話は別だ。けど、自分の家族の食べるものと寝るところと着るものが確保されればいいというのなら、つまり家族の生存を確保するだけでいいのなら別に国家の存在は不可欠ではない。自分の家族を養える分（と少しの備蓄）だけの食料を生産し、それを消費していくという生活を「悲惨」と呼ぶのかどうかは価値観によるだろうが、それはそれなりに「満ち足りた」生活が可能だろう。でも、おそらく圧倒的大多数の日本国民はそういう生活を選びたがらないだろう。実は自活能力ってのを失ってしまってるのかも知れない。
　日本にどうにかなってほしいと望む気持ちってのは、その背後に、どうにかしてもらわないと生きていないと思い込んでるという心理がはたらいてるんだろうなぁと感じるのだ。

　おや？　何を言っているのかわからない？　これはこれはすみません。
　いや、あのね、個人の生命を超える価値ってもの−個人の命と引き換えにしてまで守るべきもの−なんてないと考えるなら、「日本」なんていう抽象名詞で表されてるなんだかよくわからないものがどうなろうと、究極のところではどうだっていいんだ。でも逆に、個々の事情に制約を加え、痛みを与えてでも「日本」のためになんとかしなきゃいけないと言うのなら、それはどこかで個人を超える何ものかへの奉仕に価値を見出してるってことなんだ。
　もちろんこんな言い方で明示的にどちらを選択するかと質問をすれば、おそらく大多数の人は前者を選ぶのだろう。けれども、実際の行動は後者ではないのか、と思う。口でどう言おうと、行動がそれと一致しないなら、行動にとったほうが本心で選択していることなのだという原則（確かニーチェが言ってたぞ。ヒマな人は探してみよう！）に従えば、実際には個人を超える何ものかへの奉仕に飢えているのかも知れない。

　去る11月28日、首相の私的懇談会である「対外関係タスクフォース」が『２１世紀日本外交の基本戦略』（PDF）という報告書を提出した。個人的にはこの報告書が発行されたことを評価をしている。この報告書では、これまで日本外交は、国家としての明確な指針に欠け、対外的な戦略の一貫性がなかったと批判し、中長期的な指針を首相に提言する「外交安全保障戦略会議」の創設を求めている。ま、会議の創設そのものよりも、その会議に上程されるであろう、世界情勢に関する包括的かつ継続的な分析のほうが重要だとは思うが。で、その報告書でははっきりと、外交戦略の基本は国益の追求だ、と言い切っている。そうそう。これは正しい。へへ。ほら、そこのあ・な・た。これだけで目くじら立てちゃだめですよ。そういう短絡的な反応が、余計に状況を悪化させるんだから。「国益」と言えば「お国のために死ぬこと」とは限らんでしょ。現にこの報告書では「日本の平和と安全の維持」「自由・民主主義・人権の擁護」「自由貿易体制の維持」としてる。まあ、ただその達成の方法として集団安全保障体制を受け入れるようにしていこうと主張しているので、猛反対する人は反対するんだろうけど。

　さっき、私は「報告書が発行されたことを評価をしている」と書いた。内容に全面的に賛同をしているわけではない。また、首相の私的懇談会の報告書なので、それがそのままこれら先の政府が踏襲するかどうかはわからない。けれども、日本の外交は外国にとってだけではなく、当の日本国民からみてもわかりにくいものだったのだ。それがこのように報告書で提出され、それにしたがって進むという方向に変わるだけでも大きな進歩だと思うわけだ。
　ただ、一方で、国民に対し「国益」を守るためになすべきことを要求してくる可能性はある。ならばその「国益」の中身は何か、そしてその達成手段として何が許され、何が許されないのかを十分に吟味する必要があるはずだ。…が、どうもこの報告書のことを、マスコミはそんなに大きく扱っていない。知らないぞ、10年後くらいに「なんでこうなったんだ！」とか臍を噛んでも。