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Title : Confidence
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Contemporary Files #20021006
信頼
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 今週も、ずっと朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)の拉致問題に関するニュースが多かった。いやまあ、いろいろとあるとは思っていたが、これからもまだまだ出てくるのだろう。けれども、多くの人は、DPRK政府の発表をそのまま信じてはいないのだろう。そしてその状況を説明する外務省や内閣の言葉もそのままは信じてはいないのだろう。
 それでなくとも、最近ずっと、国内では政治家だけじゃなくて一流とされてきた企業の情報の隠蔽や虚偽の報告が相次ぎ、どこの誰が公式に何を言っても、どこかで「それホンマかいな?」と思われてしまう風潮がある。もちろん、そういうことが為されること自体マズイことではあるのだが、社会に対する信頼が崩壊するという事象も、とっても困ったことなのだ。

 実は社会というのは信頼で成り立っている。
 「信頼できるのはお金だけ!」と言う人がいるかも知れない。そうじゃないんだ。そのお金だって、それを発行している主体(通常は国家だけど)の安定性を前提にしてるんだ。国がつぶれればそんなもの紙切れにすぎなくなるからね。それに国がつぶれないにしても、他人がそのお金を受け取ってくれるという前提がないと受け取っても仕方がないんだ。
 通常の企業間の取引では掛売ということがよく行われる。物・サービスの売買をそれが発生した段階ですべて決裁するのではなくて、一定期間(まあ、通常は一月)のまとめて一挙に決裁するという方法が採られる場合がある。納品だけして請求は後、支払はもっと後ということもある。これは「相手の会社が潰れない」「潰れない限り金額どおり支払ってくれる」という前提でのみ成り立つ行為だ。

 毎日、事故は起きないと思って通勤電車に乗るのだし、偶然隣り合わせた人がいきなり自分を絞め殺したりしないと思うから満員電車でも耐えられる。まあ、一種の思考停止でもあるんだが、そうしないと常に警戒・意思決定を強いられることになる。社会活動を円滑に行うためには実にたくさんの事柄についての判断を縮退させる−ニコラス.ルーマンの言う意味で「信頼」する−ことが必要なんだ。

 信頼というのは、崩すのは簡単だが、構築するの大変なことである。
 現在の社会の根本的な問題は景気低迷なのではなくて、信頼の崩壊のほうだとわたしゃ思うのだがね。
 んじゃあ、どうするばいいのか。信頼は、常に一貫した言動をとることと、そこから外れた際の自己修復能力を見せ続けることでしか得られないと思う。たとえ自分と思想信条や立場が異なっても、その立脚点から矛盾したことを行わないのならば、こっちは安心して相手ができるわけだ。そしてそこから離れた言動があったとき、もしくはそれまでの言動を覆す時には、その経緯を透明性を高くして明らかにすること、だろう。個人であっても、組織であっても、国家であっても。


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Updated : 2002/10/06