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Title : Legislation to deal with emergencies (3)
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Contemporary Files #20020603
守るべきもの(3)
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 「反○○」に固執するってのは実は「○○」をより強固なものにする、共犯(者)じゃないかと思う。

 「反○○」という存在自体が、その反対する対象となる「○○」が(反対する側の主観にとっては)全否定の対象となるほど強固でいてくれないと成立しない。例えば、誰かがこのサイトに反対して「反Site:Felix」って呼びかけたって、ネット上で大きな運動にはなりえない。圧倒的大多数のネット利用者はこのサイトなんて存在すら知らないだろうから。反対し甲斐のある対象だからそれへの反対運動が成立し得る。運動のイデオロギーが「反○○」だと、アイデンティティの存立基盤は、実はその倒したいはずの、その「○○」がいかに頑強で、倒れにくそうかによるという矛盾したことになってしまう。もし本当にその対象が滅亡したら、運動の存在理由がなくなるからだ。もしそこで「じゃあ、目標達成!」ってすっぱり辞められるもんならそれでいいんだけどね。
 そしてもう一点。それほど強固な「○○」は、反対勢力の言い分を内部に取り入れることで、より生命力を増すことができる。
 自民党が55年体制をかなり長い間維持できたのにはいろいろと理由が挙げられるけど、野党の政策を取り込んでしまったってことも大きな理由の1つだと思う。
 昔懐かしい元ソ連のゴルバチョフ元大統領は在位中に党の機関紙プラウダに掲載した論文で、「社会主義陣営は資本主義の革新能力をあまく見てた」みたいなことを言ってた。マルクスが生きてた時代の共産主義運動の文書(んー、例えば『共産主義宣言』あたりにもあったかな)には、「全ての鍋に肉を!」みたいなスローガンがあったりした。社会全体の生産能力を向上させ、労働者の家庭の経済事情→食糧事情を向上させようという、ありがたいスローガンだったのだが、それを先に達成したのは資本主義諸国ではなかったか。
 いや、まあ、生産性向上能力の差ってのもあるんだけど、資本主義って要するに何でもありって言うか、鵺というか、変幻自在に貪欲にいろんなものを飲み込んでしまって、当初(ってマルクスご在世あたり)は共産主義者陣営が掲げていたスローガンを巧妙に自分たちの政策に取り入れ実行してしまったわけだ。
 実は与党(実際に政治を行う側・権力を握っている側)にしてみれば、最も巧妙な野党の影響力のつぶし方なんじゃないかなと思う。野党の政策を実行してしまう。これにより、野党は与党の政策を攻撃しにくくなる。野党にしてみればもともと自分たちが主張していたことなのだから反対はしにくいし、その政策を、現在の与党にが実施するからという理由で反対するのなら、自分たちが国民のためになると主張してきたその政策の実施を自らの手で妨害することになるし、もしそんなことをしたら政策の実施より、党のメンツを優先することになるからだ。
 反対する側は、単に反対するだけだと、反対される側のいいエサになるんだってこと。
 Aという立場を否定したいなら、「反A」だの「非A」ではなく、そのAの存立基盤そのものを包含しうる立場を提示し、その枠組みではAは的外れな方策だという批判の仕方をしないと、(繰り返しになるけど)Aにがんばってもらわないと存立基盤を失ってしまうという、情けない状態になってしまうだろう。

 有事法制反対派−という言い方は妥当ではないのかも知れないが、現時点では文字どおり反対しかしておらず実施可能な別の選択肢を提示していないという点において「反対派」としか呼ぶことができない。実に厄介なのはこの点なのだが、当の「反対派」自身がそのことに気付いていないのがそれに輪をかけて厄介ではある−がなすべきことは、反対し続けることではなくて、「じゃあこの法案を潰したとして、どういう方法で日本を守るのか」と問われたときの回答を示すことである。
 戦争に反対さえすれば平和が維持できるなら、第1次世界大戦後にヨーロッパを覆った平和主義はヒトラーの台頭を防ぎ得たであろう。結果はここに書くまでもあるまい。必要なのは平和を夢想することではない。平和を構築し、維持することである。「平和を守る」と言えるのは、既に守るべき平和が実現されている状態にいる人しか言えないことだ。

ちょっとだけ訂正。よく見ると、自由党が安全保障基本法(案)を 平成14年5月23日に提出してた。だから、上の文章はちょっといいすぎ。

 じゃあ、具体的に何が可能だろうか。
 ちょっと思い付くのを1つだけ。「紛争予防基本法案」を提出すること、だ。まあ、法案の名前なんてのはこの際、好きなのをつけてもらえばいいんだけれど、要は紛争予防(Conflict Preventation)・予防外交(Preventive Diplomacy)を強化するための基本法の制定を提案するってわけだ。
 「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」のであるから、それを実体化するための法律とし、その実現を政府の責務とするための法案というわけだ。

 有事法制ってのは、結局、紛争がさし迫った状況しか想定してない。紛争予防ってのは、平時も戦時も戦後も包含したアプローチを要請する。『予防外交入門』(発行:国際フォーラム,発売:フォレスト出版)って本から少し具体的にそれぞれの想定事態におけるアプローチを抜書きしてみると、次のようになる。

1:一般的な紛争予防のための軍事的措置
  1. 一般的な紛争予防のための軍的措置
    • 国連およびその他の地域的機関の平和維持機能の強化
    • 個別および集団的自衛能力の維持
    • 非攻撃的防衛政策の採用
    • 軍備管理条約の締結と履行
    • 世界的・地域的な軍備管理体制の構築
    • 信頼醸成措置の整備
  2. 一般的な紛争予防のための非軍事的措置
    • 国連による紛争予防機能の強化
    • 地域的機関による紛争予防機能の強化
    • 世界的/地域的協議による紛争予防
    • NGO間のネットワークによる紛争予防
    • 早期警戒体制の強化
    • 開発援助の実施
    • 災害救援の実施
    • 紛争予防についての意識の育成
2:特定の紛争予防
  1. 特定の紛争予防のための軍事的措置
    • 紛争当事者間の交渉
    • 早期警報の発出
    • 情報の共有体制の強化
    • 事実調査団の派遣
    • 仲介・調停による紛争解決
    • 仲裁裁判・司法的解決による紛争予防
    • 国際世論の喚起
    • 国際会議の開催
    • 経済・技術支援の約束
    • 外交制裁の実施
    • 経済制裁の実施
  2. 特定の紛争予防のための非軍事的措置
    • 信頼醸成措置の実施
    • 軍事封鎖の実施
    • 予防展開の実施並びに非武装地帯の設置
    • 世界的・地域的機構による強制措置の警告
3:紛争発生後の紛争予防
  1. 紛争発生後の紛争予防のための軍事的措置
    • 軍事封鎖の実施
    • 「安全地帯」などの措置とその防護
    • 人道的救援活動の警護
    • 世界的地域的機関による強制措置の警告
    • 世界的地域的機関による強制措置の実施
  2. 紛争発生後の紛争予防のための非軍事的措置
    • 交渉の継続
    • 仲介・調停の継続
    • 国際会議の開催
    • 外交制裁の継続
    • 経済制裁の継続
    • 人道的救援活動の実施
    • 国際世論の喚起
4:紛争集結後の再発予防
  1. 紛争集結後の再発予防のための軍事的措置
    • 停戦の監視・維持
    • 元紛争地域の非軍事化
    • 元戦闘員の武装解除・動員解除の実施
    • 対人地雷の除去
    • 小火器の回収・管理・廃棄
  2. 紛争集結後の再発予防のための非軍事的措置
    • 紛争の再発予防のための国際会議の開催
    • 相互理解の増進
    • 人道的救援活動の実施
    • 難民・避難民の帰還
    • 元戦闘員の社会復帰支援
    • 開発援助の支援
    • 自由選挙の実施、民主化支援
    • 司法制度確立への支援
    • 新警察の確立および訓練
    • 人権の保護の監視
    • 評価システムの構築および情報公開
    • 国際戦争犯罪法廷の開廷

 「有事」というのは、上のリストで言えば 3:紛争発生後の紛争予防の 1.紛争発生後の紛争予防のための軍事的措置 を指すに過ぎない。そう。まずは「有事法制」で想定している枠組み自体をまるのみしてしまうのだ。そしてその上でそのあり方を問う。間違ってはいけないのは、紛争を否定することが目的ではないということだ。悲しいけれど紛争はありうる。まずは紛争を平和裏に解決することへの取り組みの強化し、それでも努力至らず武力紛争になってしまった場合でもその被害を最小限にし、終結後の復興を最大限に行うための基本法案を提出する、というような発想は、野党側にはないんだろうか。与党の中から出ればなお実現性が高くなる。
 こういう基本法は、仮に不幸にも日本が紛争に巻き込まれた(もしくは、あってはならないことだが紛争を起こした)場合に、その紛争終結後のことまで考慮した枠組みであるべきだ。有事の際の振る舞いの取り決めもそこまで検討されておくべきであろう。何かと疑惑の多いODAだの、外交官の行動規則だの、難民の扱いだの、もここに集約されるかも知れない。

 平和を望む者は、戦争を望む者よりも、さらに壮大かつ実現可能性が高い構想を提示する必要がある。でなければ現実の危機感を刺激する後者に民衆をからめとられるであろう。


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Updated : 2002/06/03