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Title : Witch hunting
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Contemporary Files #20010611
そして「魔女狩り」が始まる。
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 今週最大の話題は、やはり、8日に大教大付属池田小に男が乱入し、刃物で児童8人を死亡させ、15人に重軽傷を負わせた事件である。報道によると、逮捕された容疑者は「なにもかも嫌になった。何回も自殺しようとしたが死にきれない。死刑にしてほしい」と言っているらしく、それを耳にした関西の芸人が「死ぬんやったら1人で勝手に死ねばいい」とTVで発言したらしいが、クレームはほとんどなかったという。その気分は、正直なところ、よくわかる。そうなのだ、たぶん、圧倒的大多数の人の本音は、容疑者に対して、「なんでこんなヤツ野放しにしてたんや!」であろう。「そんなアブナイヤツは病院から出さんかったらええねん」と思ってる人もきっと多い。でもこういう切り口での問題点は既に 南雲行雄氏が「痛ましさと腹立たしさと…」で指摘されているのでここでは繰り返さない。

 最近のご時勢では、電車に乗ってたらいきなり切りつけられたり、混雑したときにちょっとのことで殴り殺されたりする。学校に行ったらいきなり包丁で刺される。罪を犯してしまった後でなら、確実にその身柄を拘束することもできるし、そうすべきなのだが、罪を犯す前では−少なくとも具体的な被害が出るまでは−なかなか警察だって行政だって動きにくいのだ。だって、「アブナイ人がいるから捕まえてください」って言っても、その「アブナさ」というのは犯罪すれすれから、ちょっと普通と違うという程度までいろいろあるだろう。「アブナイ」ことを理由に身柄を拘束できるなら、刃物を持っている17歳はみんな捕まえてしまえばいいんだ。でもそんなことできっこないだろう? 罪を犯す危険性が高い(と誰かが判断した)だけで、犯罪者と同等に隔離される世の中って結構、恐ろしい世の中だゾ。

 気をつけてみていよう。
 ハンセン氏病の時に「隔離」は人権の保護にもとると言っていた人で、今回の問題で精神病院に通院歴のある人を隔離しろなんて言ってる人がいたら、その人には実は人権感覚なんてないのだってことがわかる。それは単に時流に乗って耳あたりのいいことを言っただけの人間だ。
 こういう事件が起きたときに容易に「被害者の人権」だの「加害者の人権」だのという言葉を持ってきて論じる人の言葉って、正直に言って、容易に信じることができない。なぜって、「殺すこともヒューマニズムである。」 ででも触れたけれども、「1人でも犠牲を少なくすることが民主主義社会における『ヒューマニズム』であり、社会を自ら逸脱し、社会に対して危害を与えるものを排除することは、より多くの人を守ることである。そのためにはその逸脱者を殺すことも、(1人でも多くの)人を守ると言う意味での『ヒューマニズム』である。」という考えだって(「殺す」が過激なら、この場合「隔離」と言い換えてもいいが。)成立可能だということを見落としているからだ。そして、この考えを正面切って口に出されたら反対するだろうが、多くの人−それも日々平凡に暮らしている圧倒的大多数の人々−の本音はおそらくそれに近い。そして、積極的な施策を打ち出せないであろう行政(無能というのではなく、それを実施すると言うことは多数の生活を守るために少数の犠牲を是認することになるから理念上できない)を横目に、この「フツーに暮らしたい」という情念はいずれ自己防衛本能を発揮し、自分たちが「アブナイ」と見なす対象を排斥しはじめるだろう。

 …そして「魔女狩り」が始まる。


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Updated : 2001/06/11