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Title : To be alive.
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Contemporary Files #20001204
殺す/殺さない 赦す/赦さない
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 今週は困った。
 気になるテーマが2つある。

 1つめ。『バトル・ロワイヤル』騒ぎである。
 『バトル・ロワイヤル』(高見広春;太田出版)を深作欣二監督が映画化したものに対する、国会議員たちによるいちゃもん付けである。今、「いちゃもん」と書いてしまったが、これが正直な私の感想である。芸術がどうとか、表現の自由とかそういう堅苦しいコトではなくて、国会議員が完成した映画に文句を言うのってヤだなぁ、ということ。

 まず、国民が見る映画を「これはいい」「これはダメ」って国会議員が口出すって、何様のつもりなんだろう。ダメかどうかは観客が判断すること。国民は見る映画も国会に判断してもらうべきだと思ってるのかね。
 例えば、東條英機を描いた『プライド』なんかは「軍国主義賛美であり、青少年に悪い影響を与える」とかって国会議員が騒いだかっていうとそうじゃない。その他のスプラッタ系ホラー映画にも口を出さない。じゃあ、なぜこれだけなんだろう。結局、何か気に入らなかったか、これに対してだけ騒いだロビイストがいるってコト?
 つまりね、そもそも国会議員がこういうことに口出すなよっていう気持ちも強いけど、口出すなら一貫性を持たせろよってこと。
 それから、完成して封切りを待つ作品に対して騒いでどうすんのさ。発禁処分にしてお蔵入りさせたいわけ? 仮にそうだとしたら、具体的な法的根拠は何? 仮に民間同士で問題になって、あれこれ交渉してるのだったら、やれ興行的に採算がとれそうにないとか、道義的にやっぱりネェとかというレベルで止めることだって可能だろう。交渉ごとだから。でも国会議員が公的な力の発動として指しとめたいなら根拠が必要。…となるとね、『バトル・ロワイヤル』を国民に見せるべきでない、やめさせるべきであると本気で思っているのなら、そういう命令を出すことの出来る法案を提出し可決させるか、現存する法律で可能な行動をとるべきだろう。もし、騒いでいた国会議員がそういう具体的な行動をとっていないなら、要するに騒いだだけ、ということになる。いかなる批判発言をしても、具体的にそれを阻止する行動を現実に採っていない限りは、本当にやめさせたいのではなく、単に騒いだだけで、結局のところはその批判していた対象に話題を提供させるだけに終わる。「反対した」ということだけを残したいのであって、最終的には肯定したことになってるんだって。本気なら阻止してみろよって思う。

 2つめ。花岡事件の和解である。
 花岡事件とは、第二次世界大戦中に日本に強制連行された中国人が、劣悪な労働環境に対して蜂起し、鎮圧され多数の犠牲者を出した事件であり、11月29日に和解した。
 「戦争責任」や「戦後補償」と言うとき、中国に対する日本国家による補償というのは公式には行われることはないはずだ。ひどいことをしたんだから償うべきだというのは、確かにそうなんだけれども、国際法的には賠償の義務はない。第二次世界大戦の対日戦争に参加した連合国と日本との間の平和条約には賠償請求権の放棄が明記されているし、1952年の日華平和条約を(締結したのは中華民国だが)中華人民共和国は承認しているし、日中共同声明でも賠償権放棄を明記しているから。だから、日本政府としては「賠償します」とは決して言わない。言えない。もし言ったら、国際法の慣行を突き崩すことになり、コトは日本・第二次世界大戦だけの問題でなくなってしまう。この事情は、誰が政府の首脳であっても変わらない。たとえ現在の与党が下野し、民主党や共産党が政権を執っても変わることはない。もちろん、変えてもいいのだが、それが引き起こす影響の結果を全て引きうける覚悟の上で行わなければならない。その覚悟が今の政治家にあるようには思えないし、そういうことを今の国に求めようと司法が一石を投じるとも思えない。
 だから、「あくまで国家による賠償を求める」という主張は、心情的にはわかるけれども現実的な解決を生み出さない。今回の和解はこの状況に1つの現実的な解決策を提示したという点で評価したい。

 いろんな問題が日本だけでなく世界中にあり、大騒ぎする人はいっぱいいるんだけれども、そういう人たちって本気で解決したいのかなって思う時がある。
 自分の主張を聞いて欲しいのと同様に、相手にも主張はあるし、双方を周囲で眺めている人たちから見ても納得できるような「落としどころ」を模索・準備しないで騒いでるだけって言うのは、結局、解決を長引かせ対立を深めるだけで、余計に事態を深刻化させてしまう。本気なら、本気で考える。本気で行動する。

 本気で解決したい責任感の人には知恵が涌く。
 でも実は騒いで脚光を浴びたいだけの無責任の人には悪知恵が働く。


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Updated : 2000/12/04