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Title : King's favorites
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寵姫

【概要】

 当時、張儀は楚の国にいたが重用されることもなく暮らしていた。張儀懐王に見(まみ)え、「なかなか私を用いていただけないようですのでお暇をいただき、晋の国に行こうと思います」と述べた。懐王は受諾したが、これに対し張儀は、王に、晋の国で何か入手したいものはないかと尋ねた。懐王は、たいていのものはわが国にあるから特に晋国から得るものはない、と答えた。
 これに対し、張儀は、「晋国には美人が多いと聞きます。是非探してきましょう。」と述べた。

 そのやり取りを耳にした懐王の后である南后と夫人の鄭袖は、大いに恐れ、使いを立てて張儀に、「晋国に行くと聞きました。お馬の飼料にでもお当てください。」と黄金を届けさせた。

 張儀懐王に暇乞いをし、「今度いつお目にかかれるかわかりませんので、是非杯を受けさせてください。」と言い、ある程度酔った後に「是非王のお気に入りのご婦人方を同席させてください」と述べ、南后と鄭袖を席に呼んでもらった。この2人を見た張儀は「こんな美しい方を見たことはございません。にも関わらず美人を見つけてこようと申し上げたことは失礼に当たります。」と述べ、大いに恐れ、懐王もそれを聞き満足の意を表した。

人を動かすにはまず周囲を動かせ

 もしこの文章に「大いに恐れ」という一句がなければ、張儀が王におべんちゃらを使った話として読み飛ばしていたかも知れない。

 張儀の目的は、お金をせしめることでも、本当に晋国に行くことでもなく、懐王にその存在を認識せしめることであったはず。その手段として何が手っ取り早かったかということだ。王が寵愛して止まない2人の美姫を褒めること、そしてそれだけではなく、その2人の美姫に自身の存在を(脅威をもって)認識してもらうことで、さらに(美姫経由での)王への存在感の提示度を高めることを企図したものと思われる。

 杜甫の「人を射んとすればまず馬を射よ、賊を擒えんとせばまず王を擒えよ」ではないが、最終目標であるAを「落とす」のに、Aが大事にしているBを動かすことで、Aへの作用を強化し、自分の目的を達成するという構図、ということのようだ。
 もちろん、そのBへの圧力が強すぎて「排除すべし」を判断されない程度に抑えておかねばならないだろうが。

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Updated : 2006/02/15