日皮会ガイドラインに対する評価

中谷皮フ科 西田秀造 曰く

今回日皮会の発表したガイドラインはその本編中でも述べられているとおり、皮膚科の臨床トレーニングをある程度積んだ医師を対象にした内容と言うことができる。普段何気なく理解していた知識、常識の明文化されたもの(ステロイドに抵抗感のない多くの皮膚科医)としてとらえる皮膚科医が大半だが、逆に「こんなにステロイドを賛美するとはもってのほか。」と嘆く皮膚科医もごく一部おられることと思う。

当然私はステロイドになんのうらみもなく、患者さんのQOLをおしあげるものならこれを利用しない手はないというスタンスなので、今回のガイドライン、ごくごく常識的な内容と受け止めた。ただ、全く問題がないわけではない。

「4. 重症度」の記述で、ことさらに難解な皮疹の名称を羅列しているが、もっと平易な言葉で解説しないと他科の医師にそっぽをむかれるのではないだろうか?皮膚科医向けとはいってもこれではわかりにくいのでは?

「6. 薬物療法」の部分 「アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多病因性の疾患であり、疾患そのものを完治させるの薬物療法はない。よって対症療法を行うことが原則となる。」としている。我々皮膚科医がよく経験することだが、皮疹を対症療法できれいにし、それを数年にわたって続けると、好酸球やIgEもどんどん下がってくる。これは、対症療法で症状の鎮静を保つことが自然寛解の誘導に寄与する可能性を示唆する事象である。したがって「疾患そのものを完治させるの薬物療法はない」といいきられるのはいささか抵抗を感じる。

コンプライアンス」の部分
「ステロイド外用剤対する誤解(ステロイド内服剤での副作用との混同およびアトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用剤の副作用との混同が多い)から、ステロイド外用剤への恐怖感、忌避が生じ、コンプライアンスの低下がしばしば見られる。その誤解を解くためには十分な診察時間をかけて説明し、指導することが必要であり、それが治療効果を左右する。」
この記載は簡潔にして全く当を得ている。しかし、実際、大変難しい。「その誤解を解く」のにはなかなかに大変なエネルギーを要する。患者を納得させるより、むしろ患者の言うようにステロイドをつかわないで済まそうかと、疲れているときにはよく思うようになった。その方が診察時間も少なく、皮膚科医としての気疲れも少なくてすむし、楽であろう。特に最近はなぜかステロイドを敵視し、さらに医者をも敵視した患者が少なくなく、「素直に医者の言うことが聞けないのになんでうちに来たの?他にも皮膚科はあるでしょ?」と言いたくなるような患者が三日に一人くらいは来るので、こちらもストレスが多いに溜まる。しかし、こちらが「キレル」わけにはいかないので、なんとか相手の思考パターンをステロイド忌避から切り替えようと努力はする。しかし、10分すぎる頃にはもうこちらもあきらめてしまう。で、「ステロイドをお出ししても塗ってくれなかったら元も子もないですから、あなたにはステロイド以外のお薬だけをお出ししときましょう。」などといってお帰りいただくようなことも。そういう患者は大抵二度とこない。専門家の意見を素直に聞く姿勢がない、多くのステロイド恐怖症の患者には。目の前の皮膚科医よりも隣の奥さんのいうことや(口コミ)活字になった情報(アトピービジネスを含め)のほうがなぜ信じられるのだろう?また、皮膚科医が信じられないならなぜ皮フ科に足を運ぶんだろう?失礼、評価するつもりがいつの間にか愚痴に。これはアトピー徒然草のネタでした。

その他の意見

去る9/29に大阪国際会議場で開催されました中部支部学術大会、そこでのアトピー性皮膚炎フォーラムにおきまして、本ガイドラインを含め、活発な議論が交わされました。その模様を星ヶ丘厚生年金病院の加藤先生がレポートされてますのでご参照ください。