アトピー性皮膚炎  


-----この文章は95年日皮会皮膚科専門医テキストを参考に改編・加筆したものです-----




  アトピー性皮膚炎患者の皆様へ

  
ステロイド剤の乱用

  
生活環境の悪化

  
アトピー性皮膚炎の原因は?

  
アトピー性皮膚炎とステロイド剤

  
どうやって治療するのか?

  
スキンケア

  
原因追究と排除

  
ダニの生態

  
対症療法

  
精神力強化




アトピー性皮膚炎患者の皆様へ Top
  アトピー性皮膚炎はなおらないのか?
アトピー性皮膚炎は外来の抗原(たとえばだにやスギなど)に対する病的過剰反応ということが出来ます。従来は乳児期のアトピーは3歳頃までに、学童期のアトピーは高校生くらいまでに治っていく(自然治癒)ことが多かったのです。ところが最近の患者さんの中には皮膚炎が場所を変えながら小児期から成人に達しても未だ症状が強く残ってなかなか直らないという患者さんが多くなってきています。ことに、ここ数年、成人型のアトピー性皮膚炎患者さんが急増しております。成人型では首から上に症状が強くでるので学童型より事態は深刻です。サービス業の場合はなおさらでしょう。なぜこういう事態になったのでしょうか。学会においても明確な回答を得るに至ってはいませんが、多くの皮膚科医が共通して類推していることの一つにステロイド剤の乱用が挙げられます。また、我々の生活環境の悪化もアトピー難治化の一因となっているのではないでしょうか。

ステロイド剤の乱用 Top
1953年、皮膚疾患の治療に画期的な進歩がもたらされました。ステロイド外用剤の開発成功です。それ以前は、たとえば皮膚がウルシにかぶれて真っ赤になったりした場合、まずは天然の消炎作用を持つアズレンなどを何日間かつかい、じゅくじゅくしてくるようなら乾燥作用を持つ塗り薬を、かさかさしてくるようなら保湿作用のあるような生薬を、細菌が感染してくるようならゲンタマイシンという抗生物質の薬を塗るといった治療が一般的でした。当時から内服のステロイド剤はあって有効なことはわかっていましたが全身的な副作用が強く、生命に危険が及びそうもない患者さんにはなかなか使われなかったのです。こうした単純なかぶれの場合、現在のステロイド外用剤のもっとも強いものをぬればわずか3〜4日でほぼ略治させることが可能なのです。従来の方法では皮膚科医の熟練度と知識がかなり要求されましたが、この優秀なクスリの登場のおかげであまり皮膚科的な知識のない医師でもそういった炎症をすばやく押さえることが出来るようになったわけです。しかし、専門の皮膚科医は同時にこの魔法のクスリの副作用にも当然着目しておりました。主なものとして、

  皮膚の菲薄化と毛細血管拡張
  水イボやとびひにかかりやすくなる易感染性
  色素沈着
  ステロイド皮膚炎
  全身的な副作用
       中枢性肥満、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、重症感染症、副腎萎縮

などがあげられます。これらはもうかなり以前から医師国家試験にも出題されているほど常識的な知識です。
慢性に経過してなかなか直らない奇妙な湿疹、いわゆるアトピー性皮膚炎の患者さんに対しても当然ステロイド外用剤は使用されましたが、他の湿疹や皮膚症と違って、アトピー性皮膚炎患者さんには上記のような副作用がより強く出る傾向にはほとんどの皮膚科医が気付いておりました。というのも、アトピー性皮膚炎は元来皮膚の抵抗力が低下した病態であって、慢性に経過する、従って治療期間が長く、ステロイドの副作用が顕著になるということに、皮膚科医であればたいていは気付いているのです。ゆえに、こころある皮膚科専門の医者は注意深く患者さんの皮膚を観察し、今ステロイドを使える状態か、副作用は出ていないか、以前に試用していた薬はどの程度の強さの薬か、この患者さんはどの程度しっかりお薬を塗っているのだろうかなどと考えながら、注意深くステロイドの強さや期間、適応を考慮するのです。ここまでいえばみなさんおわかりだと思います。誰がステロイドを乱用し、今日のような社会問題を作り出しているか。私もここではっきりと言いきることは出来ませんが、これはやはり不勉強な医者と不勉強な患者(ステロイドは既に薬局で処方箋無しで買えてしまうのです)、および3分診療(たとえ優れた皮膚科医でも、患者さんが1日に100人以上も押しかけてくるようになると患者さんを裸にしてじっくり観察することが不可能になってくるのです)、および儲け主義に走って不慣れな医者に強い薬を売りまくった製薬会社とそれを許した??省にその責があるといえるのではないでしょうか?

生活環境の悪化 Top
成人のアトピー性皮膚炎の方のほとんどがダニにたいする強いアレルギーをおもちです。なぜなんでしょうか?
ダニの絶対量は我々の廻りで増えてるんでしょうか?実は増えております。実際にはダニが増えているからといってそれに対するアレルギー患者数が増える理屈にはならないのですが、ここでは単純にダニがなぜ増えているのかをかんがえてみましょう。まず私たちのライフスタイルの変化を考えてみましょう。最近の住宅はマンションも含め、非常に機密性の高い構造になってきております。冷暖房の効率を高め、節電によって経済性と快適性を高める工夫であります。必然的に年間を通して室温がなかなか下がらないことになっておりまして、このことが部屋のダニにも非常に快適な環境を提供しているのであります。昔、方丈記でしたか、「住まいは夏を旨とすべし。」といいましたが、つい数十年前までは我々の住まいはどうだったでしょうか?日本建築は夏の湿気と高温を避けるという意味合いから、かなり地面から床板が離れていて風通しがよく、屋内も隙間だらけで、冬は外気と変わらない温度まで室内が冷却されてましたね。畳につきやすいダニも、こう気温が下がってはやっていかれませんでした。冬を越す毎にダニはゼロになっていたのです。また、昔は家具も少なかったですよね。タンスと水屋、それに火鉢といった具合に。じゅうたんもなければ観葉植物もなく、いろんな家電製品やフィルターにいっぱいダニを蓄えたエアコンもなく、ソファーもなければクッションもない、ダニが住むとこがなかったのです。

アトピー性皮膚炎の原因は? Top
アトピー性皮膚炎は外来の抗原に対する生態の過剰反応ととらえられます。たとえば風邪ひきを考えてみましょう。ウイルスが気管に入り込み、気道粘膜細胞やリンパ組織の細胞に感染します。1〜2週間たつと、ウイルスは細胞内で増殖し、細胞を破壊して一斉に周辺へ進出してきます。生体側はこれに対し、免疫系を活性化し、同時に高熱を出してウイルスが増殖しにくい環境を作り出します。自分を守るために生体は発熱するのですが、その程度と期間によっては生体はむしろ疲労してしまい、免疫機能が落ちてさらにウイルスの増殖を許してしまうこともあります。いわゆる、こじらせるという状態がこれです。生体はこの様に、元来自分以外の構造をもった分子、いわゆる抗原に対して炎症、免疫反応を自ら起こしてそれを排除しようという優れた機能を備えているのです。ところがこうした免疫反応が不必要に起こったらどうでしょう。皮膚科にはシェーグレン症候群や全身性紅斑性狼瘡(SLE)、進行性全身性強皮症(PSS)の患者さんも来られます。これらの患者さんでは、免疫細胞が間違って、自分の体を構成している細胞の一部を抗原と誤って認識しており、自分で自分を攻撃してしまう、そういう難病に苦しんでおられる方がいます。間違った免疫反応のためにつばが出なくなったり腎臓が悪くなったり、手足が動かなくなったりします。アトピー性皮膚炎ではこうした大きな障害は起こりませんが、病気の機序、誤った免疫反応によって起こるという点ではにています。ただし、アトピー性皮膚炎患者さんの免疫細胞が攻撃するのはウイルスや、自分の細胞ではなく、人間が太古から共存してきた、生体が異物とは認識しているのだけれども相手にしてこなかった物質、ダニの死骸やカビ、スギの花粉などを目標に攻撃してしまうことによって病気が惹起されているのです。なぜ、何故に近年こうした誤りをおもちの方が増えてきたのかは全く不明ですが、私は漠然と、我々が甘受してきた西洋文明、機械文明、消費文明の遺産なのではと思ってはいますが。

アトピー性皮膚炎とステロイド剤 Top
ステロイド剤の乱用のページでも取り上げましたように、ステロイドにははっきりとした副作用があり、アトピーが元々直りにくく、治療が長期に渡ることが多いため、その使用法には十分な知識と計画性が必要であるということが大前提です。つまり、できれば医者としてもこんな危なっかしい薬は使いたくない。使うとしても短期間で、出来たら濃度の薄いものを使いたいというのが現在の皮膚科医の多くのみなさんの本音でしょう。しかし、薬たるもの、よく利く薬ほど副作用も多い、という言葉がありますが、これは事実です。私はステロイド剤を否定し、敵視する方には賛同できません。副作用を恐れるあまり有用な薬を使わないというのはあまりにも短絡的発想であって、自分の見立てに自信のもてない医者がとるであろう態度ではないかと思うのです。かといって、まずステロイドを使って見た目きれいにするのはもっと悪質です。しかも、塗り薬に混ぜてしまって表示せず、患者にステロイドであることを隠して使わせる医者はもう論外です。ステロイドに代わる有効な外用薬がない現在においては、

ステロイドは使用するが期間や種類を限って使用する
ステロイドの副作用を診察時に十分チェックしてくれる医者に通う
ステロイド以外の治療の選択肢を多く持つ医者にかかる
スキンケアを欠かさない


こういったことが大事なのではないでしょうか?
また、医者はもちろんのこと、患者さんもステロイドのことをもっとよく知ってほしいと思うのです。以下に外用ステロイド剤のランキングを載せておきますので、参考になさって下さい。


I群
strongest


II群
very strong


III群
strong


IV群
mild


V群
weak

デルモベート
ジフラール
ダイアコート
フルメタ
アンテベート
トプシム
リンデロンDP
マイザー
ブデソン
ビスダーム
ネリゾナ
パンデル
エクラー
メサデルム
ボアラ
ザルックス
アドコルチン
ベトネベート
リンデロンV
プロパデルム
フルコート
リドメックス
レダコート
アルメタ
キンダベート
ロコイド
デカダーム
プレドニゾロン
コルテス





どうやって治療するのか?Top
アトピー性皮膚炎患者さんの治療は現在のところ、


の4本だてです。各種の民間療法については私はコメントを控えたいと思います。決して全てが効かないわけではありませんしなかには学術的にも見るべきものが多少なりともアルのではないかな、詳しくデータを取ればいいのにと思うようなものも見受けられますが、学会や論文において多数の専門医の評価、洗礼を受けていないものについては評価のしようがないのです。

スキンケア Top
  アトピー性皮膚炎患者さんでは皮膚の保湿能、皮脂分泌が低下する傾向にあります。かさかさしているということです。この様な乾燥はアトピー性皮膚炎をもっていない方においても痒みを生じさせる原因となりますので、これを是正することは当然、必要不可欠なものです。
保湿能を改善させるには皮膚の上からワックス状の軟膏を塗ってあげるのがもっとも手っ取り早くかつ効果的な方法です。人間がもっともかぶれにくいといわれているワセリンがもっぱら使用されます。特に入浴後に水分をあまりふきとらないうちに、十分な湿り気が皮膚にあるうちにワセリンでカバーするのが効果的です。
  皮膚に十分な水分を与えると同時にかさついた皮膚で増えやすい細菌を洗浄する目的で、入浴は非常に効果的なスキンケアです。できればアトピー性皮膚炎患者さんには1日3回、合計3時間ほど入浴していただきたいくらいなのです。ただし、あまりタオルでごしごしと体をこするのはかえって逆効果です。無香料の固形石鹸を用い、手のひらで軽く全身をなでてやるだけで十分です。あとは出来るだけぬるいお風呂に長くつかって下さい。入浴剤は特になくてもかまいませんが、使用するならタケダのニンニクエキス製剤(シャンラブ)あるいはエーザイの米ぬかエキス製剤(クアタイム)が良いでしょう。  


原因追究と排除 Top

  アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、一部の喘息などはその発症、増悪に1型のアレルギーが関与しています。1型のアレルギーは血中の肥満細胞に結合したIgEに外界から進入してきたアレルゲンが結合することで肥満細胞が脱顆粒を起こし、種々のケミカルメディエイターが炎症反応をひきおこすというかたちのアレルギーです。厳密には、特に喘息などはこうした単純なアレルギーだけではありませんがここではこの1型のアレルギーを中心に話を進めようと思います。

  アレルギーの原因、すなわちアレルゲンをみつけてそれが体に全く入らないようにできればアトピーの症状は劇的に改善します。症状の改善にやや遅れて血中に存在するフリーのIgEも徐々に減少し、ゼロにはならないものの、数年内には再びアレルゲンが体内にやってきても強い炎症を起こせない程度まで下がっていきます。こうした抗原遮断療法は、数あるアトピー性皮膚炎の対症療法の中でもっとも合理的で優れた効果を上げられる方法です。したがって、現在の自分のアレルギーが、なにに対するアレルギーであるのかをまず知ることが非常に重要な第一段階となるのです。

  アレルギーの原因を知るための皮膚化学的検査法について紹介いたします。

  #1 パッチテスト

     別名皮膚貼付試験とも呼ばれます。アルミ製のフィンチャンバーや綿素材にアレルゲン混合物を塗り、皮膚(背中が主体)に張り付けます。48時間後にそれをはがして一度判定し、72時間後にもう一度判定します。したがって、抗原貼付後48時間は入浴が出来ません。この2回の判定、特に72時間後にやや硬い紅斑がでていればアレルギー試験陽性と判断されます。この方法は、主に接触アレルギーのテストとして評価が定着している検査法です。しかし、精製した大量の抗原を要する点や、接触部位に強いアレルギー反応がでた場合、非接触部位にも悪影響を与えることがある点、また、アトピー性皮膚炎患者さんでは試験を実施できるような正常な皮膚面があまり多くないケースが多いこと、入浴の制限があること、夏場は実施しにくいこと、貼付したのりにひどくかぶれたりすることなどの理由でアトピー性皮膚炎の検査としては今一つ適さないものです。

  #2 スクラッチテスト

     皮膚にごく小さな傷を付け、そのうえにアレルゲンを塗布、または滴下する方法です。陽性の場合、15〜30分で試験部位に蕁麻疹様の紅斑が出現します。いわゆる1型のアレルギーを直接調べられる方法で、採血が難しい乳幼児にたいして非常に簡便でよい方法といえます。しかし、皮膚を直接傷つけるので検査後に細菌感染を起こす可能性がややあるのと、偽陽性反応が多い点で後述するRAST検査に劣ります。

  #3 皮内テスト

     滅菌したアレルゲンの混合溶液を0.2ccほどずつ表皮内に注射し、即時反応(15〜30分)および48時間後の紅斑反応をみるものです。即時型と遅延型の両方のアレルギーを検査できる点と正確性においてもっとも確かな検査法といえます。しかし、一度に多数の項目を検査するには患者さんの苦痛が大きい点、アレルゲンの濃度次第では注射部位に潰瘍を起こし、直ってもやや醜い瘢痕を残すことがある点で、しょっちゅう行える検査とは言えない面があります。

  #4 RAST検査

     患者さんから採血し、血中の遊離IgEを特定の抗原と試験管内で結合させてその量を正確に定量する方法です。そこから得られたデータは抗原特異的で、えられたスコアは特定の抗原に対する患者さんの感作状態をほぼ正確に反映しています。患者さんに与える負担が軽く、スコアも正確で優秀な検査法ですが、1型の過敏症のみの検査である点と、なによりお金がかかる点がこの検査法の欠点です。1カ月に1回しかこの検査を施行することは認められていませんが、1項目約1800円。最大項目数の10項目を調べると18000円。1割負担の患者さんでもこの検査のためだけに1800円の自己負担が必要となります。(97年4月から社会保険本人も2割になるということですが。)家族3割の方では5400円にも膨らんでしまいます。ここが最大のネックです。私たち医者の立場からすると、こうした良い検査法はうんとコストを下げてもらい、検査を患者さんにお願いしやすい環境が望ましいわけです。RAST検査がコスト高な理由は、検査過程で放射性同位元素を使用するからなのですが、最近は酵素抗体法で安上がりな方法が徐々にではありますがひろがりつつありますが、それでもまだまだやすいとは言えません。


抗原排除

  RAST検査で抗原が特定されれば、そのアレルゲンが影響の強いものであればあるほどそれを遮断したときの症状軽快は劇的なものとなります。強いものであればあるほどと申し上げたのは、アレルゲンは無数に存在するからです。たとえばここにトータルIgEが5000の患者さんがいるとしましょう。CAP-RASTで10項目検査したところ、ヤケヒョウヒダニが100以上、カンジダが50、その他はなしとでたとします。この患者さんがダニ、カンジダ以外にアレルゲンをもってないと言い切れるでしょうか?現在、約170項目についてRAST検査が可能です。かりにこの人がのこり160項目について調べ上げ、全て陰性であったとしても、この人がダニ、カンジダ以外にアレルゲンをもってないと言い切れないのです。人がアレルゲンとして認識しうるものは、自分の体内にない全ての蛋白質です。その数はまさに無限大です。ですから抗原排除が、抗原遮断がかりに完全に出来たからといっても(普通は完全には出来ません)アトピー性皮膚炎の症状が全例でゼロになる補償はないわけです。がっかりさせるようなことをまず申し上げましたが、これはあくまで理論上の話で、実際には成人のアトピー性皮膚炎の患者さんでダニにスコアが高ければ、後述しますダニ対策をしっかりやっていただければその症状の90%は改善すると言えましょう。以下、ダニ対策について述べます。

ダニの生態 Top

   ダニは節足動物門のダニ綱に属し、昆虫綱、蜘蛛綱、甲殻綱などと並ぷ大きなひとつのまとまった動物群です。ダニにはおよそ5万種あり、喘息やアトピー性皮膚炎に関連したヒョウヒダ二(Dermatophagoides)はチリダニ科に属します。体長は0.3mm。ほとんど目には見えません。日本の家屋からdustを集めて調べると、ヒョウヒダニがふつう8−9割を占め、その他にイエササラダニ、ホコリダニ、ケナガコナダニなどが見られます。これらは刺咬しないダニで、稀にニキビの原因となることがあります。刺咬するダニとしては、9月頃にツメダニやシラミダニの見られることがあります。新しい家を建てると、まず最初にケナガコナダニが増え、3−4年でヒョウヒダニが8−9割を占める程に入れかわり、この傾向が以後長く続きます。人が住まないとダニも増えず、その理由はヒョウヒダニは餌としてコレステロールの要求性が高く、人表皮から飛散する角層の小破片を食べるからといわれています。 家の中でダニを増やす要因として、
  1. 気温20度前後、
  2. 湿度50%以上、
  3. 人が住んでいること、
  4. 空気が動かないこと、
  5. 隠れた産卵できる繊維の隙間があること、
などがあげられます。とくに、畳の上のカーペットや、カーペットの二重敷き、ソファの上の毛布やマット、敷き放しのふとんや毛布は絶好のダニの繁殖場所となります。日本の家についてみると、昭和30年以前は床下を風が通り、木造で隙間も多く、冬は乾燥してひどく寒いものでした。即ちダニには極めて不利な条件でした。それが現在では断熱材とサッシの枠のついた窓の使用で冬も暖かく、床下も湿ったコンクリートで風は通りません。畳の下面にはビニールが貼ってあって湿気が床下に逃げることができなくなり、ダニの生棲に不可欠な湿気を提供するようになっています。床に敷いた毛の長いカーペットもあって、ダニが沢山居ても家主がカーペット除去を許可しないこともあります。家のどこに、どれだけのダニがいるかをダニ相(mitefauna)といいます。アトピー性皮膚炎におけるダニのRASTの値が多くの症例において食物や真菌とは比較にならない程高値を示すこと、そしてダニ成分のパッチテストで明瞭な湿疹型反応が20−50%においてみられることなどから、とくに激症で難治のアトピー性皮膚炎症例においては、ダニこそは主な原因ではないかと考えられるようになり、実用的なダニ相検査の開発が急務と考えられ、1989年に完成をみました.この方法をMBA法(Methyleneblue agar method)といい、この方法により、初めて多数のアトピー性皮膚炎患者宅のダニ相が明らかにされました。厚生省の班研究として調査された1992年のアトピー性皮膚炎患者宅における四季別、インテリア別のダニ相を表に示します。ダニ相の表わし方は、320W級掃除機で20秒間1平方メーターからしっかりと吸引してとったほこり中のダニを数える方法です。表のような調査を4年連続して実施した結果、以下のことがわかったということです。



アトピー性皮膚炎患者宅の季節及びインテリア品目別平均ダニ数

患者数142   1992年  (総数/平方メートル/20秒吸引、仕事率320W)


品  目



(3〜5月)



(6〜8月)



(9〜11月)



(12〜2月)



(1〜12月)


1.カーペット


144.5


66.8


235.9


56.7


127.7


2.畳


188.8


78.2


71.0


106.9


93


3.床
(フローリング)


43.1


36.5


39.7


3.0


31.3


4.布団


68.8


21.6


49


24.7


38.6


5.毛布
(含むタオルケット)


13.4


16.5


15.8


42.0


22.9


6.畳床


1508.5


215


5998


563.8


2793.7


7.ベッド用マットレス


15.6


31.2


34.4


68


43.6


8.枕


9.3


7


3.3


3.6


5.8


9.座布団


77


40.4


47.6


21.9


38


10.ソファー


39.6


144.4


68.2


23.7


80.6


11.椅子


13


13.8


127.9


6.9


53.9


12.防ダニ布団


4.7


5.6


5.4


4


4.9


13.防ダニ畳


31.4


5


/


0


25


14.防ダニ枕


0.5


0


4.6


0.4


1.6


15.その他
(引き出し、クローゼット)


116.6


79.8


21.5


18.2


47.2

(1)重ね敷きの部分にダニは極めて多い.
(2)猛暑になるとダニは滅って、快適な気候、即ち初夏や秋口にダニが多く見られる.
(3)冬期のダニの滅少は期待できるが、決して零にはならない.畳の下や、とくに毛布を敷いた毛足の長いソファ、ベッドなどには、冬でもなかり多くのダニが存在する.
(4)意外なところ、とくに食堂の椅子、玄関のマット、下着を入れた引出し、ぬいぐるみなどにダニが多いことがある.
(5)電気掃除機の集塵袋中に5万一10万匹のダニがのこり、明らかに多くの生ダニが存在する.吸引するとダニが死ぬという説は誤りであることがこれで分かる.モーターを回す度にダニの成分が室内に飛散することは注目に値する.
(6)床張0(フローリング)の部分にはふつうダニは棲息できないが、周辺に挨やダニが多いと、床上からも20−30匹/1平方メートル/20秒吸引程度存在することがある.従って、住居内のダニを減らすにはフローリングは良い方法であるが、これが全てと考えてはいけない.
(7)防ダニ用品には本物と偽物があるが、良心的に作られ、科学的にダニが住めないか、極度に少なくなるように作られた防ダニ畳(PrapaI畳)、防ダニふとん(Purist,or Clinic)では事実上ダニは0−10匹以下/1平方メートル/20秒吸引がふつうであった、 ということです。 (本稿の作成にあたっては中山秀夫先生の講演を参考にしています)

以上のことをふまえ、適切な環境対策をとることこそがアトピー性皮膚炎の根治療法です。つけ加えておきますが、ここにとりあげた防ダニ商品は実験的に効果を証明できたものですが、「防ダニ」とうたったあやしげな商品はこの世に五万とあります。なかなか高額(たとえば布団一式で約8から9万円程度)なものですから、防ダニ製品を選ぶときには皮膚科専門医にご相談の上購入されるのが賢明かと思われます。また、ダニに強いアレルギーを示す成人型アトピー性皮膚炎患者さんの臨床症状はこうした対策で劇的に改善いたしますが、症状が非常に強くでている時期には次に述べます対症療法の併用が必要不可欠です。くわえて、家庭環境を上記の知見を元に十分整えても、職場環境、旅行先の衛生状態などにより影響されることはいうまでもありません。注意が必要ですので念のため。


対症療法 Top

  昔、町火消しというのがありましたね。自治会的な火消しで、ある地域に火事が起こったらその周辺の家屋をとりこわし、類焼を防いで火の勢いを落としたのだそうです。ずいぶんと乱暴な方法ですが、給水システムが井戸水しかなかったのですから諦めざるを得ません。さて、現在、まちなかで火事が起こった場合、周辺の家屋を壊して回ることが出来るでしょうか?
  アトピー性皮膚炎にしろ、接触皮膚炎や日焼け、脂漏性皮膚炎にしろ、皮膚炎があればそれは第1度の熱傷と考えていただければよいかと思います。やっかいなことに、この熱傷は病巣周辺の皮膚をひっかくことでどんどん類焼が広がっていきます。町火消しならいざしらず、壊していいような皮膚は人間の体には存在しません。当然、荒れ狂う炎には水をかけてやらなければ治まりません。こうした、「炎に水をかけるがごとき治療法」が「対症療法」なのです。
  以下、どんなものがあるかみてまいりましょう。

1. 皮膚をさする

 決してひっかいてはいけません。ひっかくのは火に油です。爪を短く切っていても、やはり指を直接皮膚にたててしまうと症状の増悪をきたします。シャツや、洋服の上から、指の平でなでてみて下さい。思いの外痒みがまぎれます。

2. 皮膚を冷やす

 アイスノンを用意し、勉強机や職場にタオルでくるんでおいておきましょう。成人型の、顔に皮疹がある方におすすめです。「かゆいなっ」とおもったらすかさず、つめよりさきにアイスノンを顔に運んで下さい。眠気も吹っ飛ぶので、受験勉強にうってつけでは。

3. 早く服を着る(着せる)

 乳幼児から小児期にかけてのお子さんをおもちのかたなら、さあお風呂というとき、裸にしたらなんとはなく体をかく動作をするわが子にお気づきではないでしょうか?人の皮膚は、なんにもつけないと軽い痒みを生ずるものなのです。アトピー性皮膚炎のお子さんではなおさらです。入浴前、服を脱がしたら遊ばせないですぐお風呂につかりましょう。おふろあがりにはすばやく保湿剤を全身に塗布し、すぐに綿の下着を着せてあげましょう。

4. 抗ヒスタミン剤内服

 痒みについてはまだまだ研究が十分ではなく、薬剤でそれを100%おさえきるのは難しい状況といえます。しかし、現在のところ、主たる炎症持続の原因は皮膚網細血管のヒスタミン受容体(主として1型ヒスタミン受容体)にヒスタミンが結合し、血管透過性が亢進することで起こると類推されています。抗ヒスタミン剤はこのヒスタミン受容体にヒスタミンより先に引っ付いてしまうことで、ヒスタミンと受容体の結合を阻止してやろうというお薬です。さらに、大脳皮質に抑制的に作用し、痒みをやわらげますが、副作用として眠気を感じる方が多いのです。また、局所麻酔薬的な薬理作用ももっていますので、この点でも痒みを抑える方向に働くものと思われています。
 抗ヒスタミン剤の副作用は、先に言いました眠気が主なもので、使用頻度が高い割に重篤な副作用の報告例がありません。非常に安心して使える薬剤といえます。ただし、抗コリン作用がありますので、緑内障(目の奥がいたくなる病気)や前立腺肥大症(男性高齢者で、前立腺が老化により大きくなり、おしっこがでにくい、夜何回もトイレに行くなどの症状)のかたには投与してはいけないお薬です。
 効果的には、古典的なこうした薬剤も、なかなかに効果が認められます。軽症のアトピー性皮膚炎では外用なしでも十分な臨床効果が得られます。ただ、長期に投与した場合、その効果がやや薄れるという印象を持っています。

5. 抗アレルギー剤

 抗アレルギー剤はここ20年来使用されだした、抗ヒスタミン剤に比べて新しいお薬です。一般に、1型アレルギー反応における肥満細胞からの化学伝達物質の産生、遊離を抑制、及び化学伝達物質に拮抗する作用を持つ薬剤の総称です。抗アレルギー剤は前述の抗ヒスタミン作用を持つものと持たないものに大別され、これまでのところ、抗ヒスタミン作用を持たない薬剤は止痒効果が不十分という理解が一般的です。この事象をとらえて、抗アレルギー剤は抗ヒスタミン剤となんらかわりばえのしない薬剤であると結論づける皮膚科専門医も多数いるというのが現状です。しかし、近年、止痒効果は抗ヒスタミン剤と同等か上回り、しかも最大の弱点である眠気を起こさない薬剤が相次いで開発されました。これら新薬は抗ヒスタミン剤にとって代わり、もっぱらアトピー性皮膚炎内服剤の主役となったのです。さらに一昨年、選択的にIgE産生を抑制する(抗ヒスタミン作用はない)という画期的な新薬も発売され、皮膚科医としてもかなり内服薬選択に余裕がでてきたのは患者さんにとっても有益なことと思います。但し、抗アレルギー剤は抗ヒスタミン剤と違い、起こる副作用がどれも同じ訳ではありません。皮膚科専門医の適切な助言に耳を傾けて下さい。

6. 保湿剤

  皮膚が分泌する脂質の中で、アトピー性皮膚炎患者さんにおいてはセラミドが有為に低下を起こしており、このことが皮膚のバリア機能を弱めて自分の汗や衣類の刺激などへの過剰反応を助長しているのではと類推されるようになってきました。で、セラミドをはじめとした種々の脂質を逃がさないために、皮膚をコーティングする必要があるのです。保湿剤はアトピー性皮膚炎の方では皮膚に赤みが無くとも是非とも毎日欠かさず行っていただきたいスキンケア製剤といえましょう。現在、皮膚科でよく処方するものは、 (1)皮膚の脂質の1種であるスクワランを主成分とするコラージュデルム、 (2)皮膚角質侵軟作用を持つ尿素が主成分のケラチナミン、ウレパール、 (3)ヘパリン類似物質を主成分とするヒルドイド、ヒルダーム、 (4)ビタミンA油含有のザーネ軟膏 などがあります。 これらの剤形は皮膚にすべすべ感を与えんが為にクリーム基剤ですので、その保湿作用はマイルドではありますが、小さなお子さんでも抵抗無く塗ってくれるというメリットがあります。
  軟膏系の保湿剤の代表はワセリンです。ワセリンは人間がもっともかぶれにくい外用剤で、その皮膚に対する低刺激性は他の追随を全く許しません。石油蒸留の際の中間産物として得られる炭化水素で、わずかに黄色を帯びています。これに脱色処理を施した白色ワセリンはその低刺激性と、皮膚をカバーして脂質や水分の蒸発を防ぐ効果が非常に高いため、色々な外用軟膏薬の基剤として使われています。ただ、べとべとした使用感や、皮膚に塗ったときに非常に硬い感じがするため、敬遠されやすい薬です。最近はこうした使用感の悪さをカバーした、ややモディファイしたワセリン(プロペト等の眼科用ワセリン)があり、皮膚科医を中心に広く使用され始めています。

7. ステロイド外用剤

  ステロイド外用剤は、近年その副作用がマスコミに大きくとりあげられたために、全く薬の知識のない人でも「先生、ステロイドは使わないで下さい。」という患者さんが最近非常に多くなっています。そういう患者さんには、私は無理にステロイドを勧めず、ステロイド以外の方法、すなわち原因の特定、排除、入浴指導、スキンケア指導、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤の内服と非ステロイド系外用剤の使用、日常の生活指導、精神的な指導などで良い方向に向かってもらうようにしています。しかし、ステロイドを全く使用しないと、かえって患者さんのストレスを大きくしてしまい、なかなか良くなってもらえないということもあります。わたしは、ステロイドを全く使用しないことがかえって患者さんの不利益になる場合が多いという実感を日々の診療で感じていますので、ステロイド絶対反対という立場はとりません。ステロイドの副作用は、「ステロイド剤の乱用」のところでもふれましたが、皮膚の菲薄化と毛細血管拡張、紫斑、皮膚潮紅、多毛、水イボやとびひ、ニキビなどの易感染性、色素沈着、ステロイド皮膚炎などですが、注意深い診察と丁寧なカルテ記載をしておればそうした副作用は出鼻でくじくことが出来るものなのです。ときおり、「私はステロイドに廃人にされた!」といったショッキングな単行本の広告をみますが、多くの場合、正確には「ステロイドの使い方を知らない医者に廃人にされた。」というのが正しいと考えています。実際、多くの専門医はステロイドを今でも必要に応じてよく使っているはずです。副作用はありますが、適応や病状、患者さんの生活や性格を考慮すると、ステロイドが最短ルートであるという場合も存在するのです。しかし、最近はごく普通の皮膚科標榜医のところへいくとあまりステロイドを出してくれないようです。マスコミの影響でしょう。副作用をこわがってステロイドを出さなくなってきているのです。実際、全身がじゅくじゅくの重症アトピー性皮膚炎プラスステロイド皮膚炎患者さんが大学に来るたび、安易に、ろくに皮疹も見ずに強いステロイドを出し続けたドクターを恨めしく思ったものです。こうしたステロイドを知らない医者によって重症化したアトピー性皮膚炎患者さんでは、ステロイド離脱を試みるよるほか対処の使用がありません。重症の方の中には皮膚が薄すぎてワセリン、ガーゼにすらかぶれるようになっている人がいました。どうかこのようなことがないことを望みます。そういう意味では、最近不勉強な先生が(不勉強なのに先生とはおかしいのですが)ステロイドをこわがってあまり出さなくなってきたことは、重症の患者さんの減少に利するところがあるやもしれません。


8. 非ステロイド外用剤

  ある程度以上の炎症の抑制にはステロイド外用剤は不可欠ですが、炎症の程度、年齢あるいは部位などによっては、ステロイド外用剤よりも非ステロイド外用剤の使用がより好ましい場合もあります。特に顔面へのステロイド外用は、可能な限り避けることが望ましいので、ステロイドを含有しないこれらの外用剤を使うケースがあります。現在皮膚科領域で使用されている非ステロイド系消炎外用剤の主なものは、ブフェキサマック、ベンダザック、フルフェナム酸ブチル、イブプロフェンピコノール、スプロフェンなどです。しかしこれらはいずれも単独としての抗炎症作用が低いため、ステロイドと混ぜて使用したりする場合があります。標榜医の先生方は例のステロイドバッシングの後、この系統の薬をよく使用されているようです。しかし、ステロイド外用剤の副作用を恐れるあまり、非ステロイドでは炎症抑制効果が期待できない症例で症状の軽快をみないまま長期に使用し続けるのは好ましくありません。こうした誤った使い方のため、最近非ステロイド外用剤による接触皮膚炎が増加しています。症状は激しい炎症を伴うことが多く、お岩さんのように顔が真っ赤に腫れ上がります。お医者さんにかかっていてあまり良くならないのにそのまま非ステロイド薬を塗り続けている人は注意して下さい。
  非ステロイド系消炎外用剤の抗炎症作用は、ステロイド外用剤に此べてはるかに弱いものです。一定以上の程度の炎症に対しては、その抑制効果はあまり期待できません。しかしながら、アトピー性皮膚炎のように長期間ステロイド外用剤を必要とする疾患では、その寛解期に非ステロイド薬を維持療法として使用し、ステロイド外用剤の副作用を軽減するのに有用です。

9. ステロイド内服療法

   アトピー性皮膚炎の治療では、副腎皮質ホルモン薬はほとんどの場合外用剤として用いられ、内服薬として用いられることは特殊の場合だけです。副腎皮質ホルモン療法は対症療法にすぎないこと、副腎皮質ホルモン薬には使い方によっては副作用が出現すること、アトピー性皮膚炎の場合、病変部皮膚にのみ、その抗炎症効果が求められること等がその理由です。したがって、副腎皮質ホルモン内服薬の適応となるのは、外用剤ではコントロールができない程病変が激しい場合か、外用剤による副作用が内服薬の副作用よりも強いと考えられる場合です。顔面や頸部等は、副腎皮質ホルモン外用剤によって局所的副作用が出現しやすいので、通常IV群あるいはV群に属する弱い薬剤を用い、III群以上のものは原則として禁忌ですが、症状が激しく、IV群、V群の薬剤では抑えきれない場合、一時的に副腎皮質ホルモン内服薬を用い、症状の改善を待って外用に切り換える時があります。また、病変がきわめて広範囲な場合、I, II群に属する副腎皮質ホルモン外用剤の場合、1日10g以上を連日塗布すると副腎機能の抑制が起こり得るので、それ以上の塗布量を必要とする広範囲病変の患者さんに対しては、副腎皮質ホルモン薬は、外用よりも内服のほうが副作用が少ないので、一時的に副腎皮質ホルモン内服薬を投与することもあります。投与法通常、症状を抑制しうる十分量を初期量とし、症状の改善とともに減量する潮滅法が行われます。十分な初期量とは、アトピー性皮膚炎の場合、1日2−3錠(分2−3)で、約2週間ごとに半量にし、長くとも5−6週間以内には、中止するように心掛けます。なお、この際、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬による止痒、副腎皮質ホルモン外用剤の塗布を同時に行い、滅量がスムーズに行われ、反跳(リバウンド)現象が出現しないようにしなければいけません。こういった副腎皮質ホルモン内服薬は、あくまでも特殊な一時的治療法であり、長期間漫然と行う治療法ではないことを、患者さんに十分説明しておく必要があり、医師も十分心得ておく必要があります。。内服療法は、外用療法に比べてきれいであり、面倒なこともありませんが、長期に服用すれば全身的副作用が必ずおこりますので、アトピー性皮膚炎のように、長期にわたる疾患では原則として禁忌なのです。なお、消化性潰瘍、糖尿病、高血圧、結核などのある患者さんでは、これら疾患の状況などを十分考慮した上で投与しなければならないことはいうまでもありません。これらの原病を内服ステロイドは悪化させてしまうからです。


10. 光線療法

  アトピー性皮膚炎が日光浴によって軽快することは北欧で古くから強調された現象でした。日光の半分以上を占める赤外線によって温度上昇や発汗を来すことで痒みを増強させない限り、即ち紫外線を照射することは、アトピー性皮膚炎患者さんの痒みをとるのに効果的です。この方法は、l)通常の治療に反応しないような難治症例に対しても有効であること、2)長期寛解が得られること、したがって、3)通常の治療、特にステロイド薬による副作用の弊害を滅ずることができることにあります。光線・光化学療法の作用機序については、ランゲルハンス細胞、肥満細胞・リンパ球に対する抑制作用に基づく局所免疫調整、ひいては全身免疫調節作用が主体と考えられますが、表皮細胞を介した破綻バリヤー機能の修復も類推されています。最小紅斑量(光が当たることで皮膚に赤みを起こす最小の線量のこと。人により、人種によりかなりのばらつきがある)の2/3より紫外線照射を開始し、照射量は毎回20−30%ずつ上げていく、これを外来患者に対しては週1回以上施行するのが一般的なようです。副作用は、治療中あるいは直後、比較的急性に生ずる主な副作用−急性皮膚炎症反応、色索沈着、悪心・頭痛(内服PUVA)等です。慢性の経過で出現する可能性がある、一応留意しておくべき稀な副作用には、慢性紫外線皮膚変性(花弁状色素斑など)、発癌性(有色人種では稀)、白内障等があります。本法は重症患者に対して簡便かつ有効ですが、当医院には置く場所が無く、導入いたしておりません。しかし、昨年(平成8年)の11月の開業以来、本法をしたいほどの重症患者さんは今の所(平成9年2月3日)いらっしゃいません。奈良県はアトピー性皮膚炎の方の症状が京阪神と比べるとかなり軽いようです。生駒の山並みのおかげでなにかしら、大都市にはあっても生駒より東には届きづらい物質があるのでしょうか?そのかわりといってはなんですが、奈良は花粉症患者さんが非常に多いのですが..........。

11. 漢方療法

  アトピー性皮膚炎は多病因的で、その病因の中でも患者の有する内因の占める比率が高いとかんがえられます。ゆえに本症は漢方療法の対象にもされてるわけです。漢方薬は単独の薬ではなく、いくつかの生薬から構成されています。例えば、アレルギー反応を抑制する生薬として、柴胡、甘草、麻黄、当帰、黄苓、大乗等が知られてますが、実際に治療に用いられるものは、これらの生薬がいくつか組み合わされた方剤です。西洋医学では病名に対し、それに合った薬を投与しますが、東洋医学は随証投与が基盤にあり、証によって漢方薬を処方するのが通例となっています。しかし、一般的には西洋医学的な診断法で診断し、その疾患の病態を近代医学的に把握し、一方で生薬の臨床的薬理作用を熟知した上で、それらを組み合わせた方剤を患者の体質に合うよう処方する方法が行われています。アトピー性皮膚炎に比較的よく使用され、ある程度薬物の評価されたものには十味敗毒湯(ツムラ10番)、消風散(ツムラ22番)、柴胡清肝湯(ツムラ80番)、越脾加尤湯(ツムラ28番)、当帰飲子(ツムラ86番)、補中溢気湯(ツムラ41番)、黄連解毒湯(ツムラ15番)などがあります。これらの使用法については多分に医師の漢方使用経験に基づく部分ですので割愛させていただきますが、患者のみなさんに申し上げたいことは、あまり漢方薬に幻想を抱かないで頂きたいということです。「自然の生薬」と聞いただけで副作用のない、安全な薬と思われる方が多いのは何故なのでしょう?生薬といえども致死的な副作用を持ったものが数多くあるのです。また、よく処方されるツムラの漢方薬などは、実際に中国で漢方医が使用する量の1/10程度の容量しかなく、私、日中友好皮膚科学会においてお話しさせていただいたところ、こうした(日本人が使用する)少量ではまず生薬の効果は期待できないであろうとされるかたが多かったのも事実です。漢方薬という、魔法の薬さえあればと期待しながら日頃の治療を怠って重症化していった患者さんを数多く見てきたから私はみなさんに知っておいてほしいのです、こうした事実を。

12. 睡眠導入剤、免疫抑制剤

  アトピー性皮膚炎患者さんの掻痒には休みがありません。夜布団にはいると自分の体温の上昇から痒みを感じ、なかなか寝付かれず、ねてからも無意識に皮膚を引っかき、浅い眠りしかとれず、朝起きると寝不足であるのと同時にひりひりした痒みを覚え、1日のスタート時点から強いストレスを感じてしまう、この繰り返しがアトピー性皮膚炎をどんどん悪くさせてしまうのです。こういうときは寝る前の睡眠導入剤内服が効果的です。過量服用時の安全性と依存性の弱さから、ベンゾジアゼピン誘導体がもっぱら使用されます。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は内服後どのくらいの時間で効くかによって、超短期型(ハルシオン)、短期型(ドルミカム、レンドルミン、リスミー等)、中期型(ユーロジン、ベンザリン、サイレース等)、長期型(インスミン、ソメリン、セルシン)に分けられます。なかなか寝付けないというかたには超短期型、短期型が、朝早く目が覚めてしまうという方には中期型、長期型が適しています。長期型のセルシンは抗不安薬として低容量で使用されることが多いお薬です。

  近年、重症アトピー性皮膚炎治療に免疫抑制剤が非常に有効であるということで、注目され、複数の施設で臨床試験が行われています。免疫抑制剤はもともと腎移植後の拒絶反応を抑える目的で使用されるお薬で、ヘルパーT細胞系の機能を抑え、インターフェロンガンマやインターロイキン2、4などのサイトカインを減少させ、抗炎症作用を発揮します。こうした機序のお薬がアトピー性皮膚炎に効くという事は、本症が単純な1型アレルギーだけではなく、4型アレルギーの関与のあることをうかがわせます。しかし、この薬もまた万能ではありません。主たる容量依存性の(血中の薬物濃度に依存した)副作用に高血圧、腎機能低下があり、毎週一度は採血して薬剤の血中濃度を監視する必要があります。また、上記のようにT細胞の機能を弱める以上、色々な感染症にかかりやすくなるという可能性もあります。

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  アトピー性皮膚炎は本人のみならず、親にも大きなストレスを与えます。初診時、アトピーの親ごさんは精神的にかなり疲弊した状態で医師のもとにきます。この時に医師がいろいろアドバイスしてもほとんど効果を示さないことが多いものです。そこで家族の訴えを受け入れ、家族が話したいことをいわせてあげると、精神的に余裕ができて医師のいろいろなアドバイスを聞いて実行してくれるようになります。次に、時間に余裕があるとき、家族のアトビーに対する質問に対し1つひとつ丁寧に答えると、アトピーに対する家族のいろいろな不安が語られます。医者が話を聞くだけでも本人、家族は少し精神的安定を取り戻すようです。一般に、重症のアトピー性皮膚炎患児のおやごさんは過保護・過干渉のことが多いという印象を持っています。重症のお子さんは一般的に短気で怒りやすく、わがままが強い傾向にあるようです。しかし、そうしたことを本人に戒めるのではなく、常にお子さんの将来に期待しながら見守る姿勢が医師として大事だということを自戒して診療にあたっています。しかし内向的心理傾向がまたアトピーを長引かせていることが多いのは事実で、こうした性格はもともとの子供の性格とアトピーになったために二次的にできた性格が合わさって出来ていくものと思われます。精神発達が未熟である、自我力が弱い、情緒的な負荷にもろい、現実解決力が乏しい、行動がとろくて反応がワンテンポ遅れる、自分のもっているものを出しにくい、自分を押し殺す、子供らしくない、過度に周囲を気にする、対人関係では易怒性を認め、それを表出せず抑圧する傾向がある、干供は母に愛情欲求をうまく出せない、母も子供の愛情欲求を感知できない、こういった本人の性格、家族環境から、大人のアトピーは抑うつ感と不満感が強いようです。アトピーが治りにくくなる他の要因に、家族のアトピーの子供への対応のまずさもあげられます。子供に掻くなとしつこくいう、嫌がる子供を押さえつけて薬を塗る、子 供の食べたい気持ちを罰するようなことをいう、1日も早く治したいと焦る、病気を理由に子供の行動を制限する(アトピーの子供は一般に制限されることを嫌う)、親がいったことをきちんとするように子供に求める、親のほうが子供がやり終るのを待てない、子供の甘えたい仕草に親が鈍感、兄弟間のいじめ(いじめは親の愛情と承認を求める行為)と葛藤、弟と妹の誕生、友達ができなくて集団生活で孤立、子供の親離れ・親の子離れがスムーズでない、慢性的な両親の不仲、過酷で拒絶的な両親。このような家族の対応のまずさがかさなると、アトピー性皮膚炎は非常に重症化するものなのです。また、多くの成人例をみていると、基本に怒りと寂しさがあるようです。焦らず、自分のアトピーというよろいを脱ぎ捨て、親が敷いた路線に気がつき自分の道を歩き出し、徐々に親から自立していく。こうした自立をたすけ、適切な治療と聞く耳をもって日々診療にあたることが大切だと実感しております。(本稿の作成にあたっては著明な精神科の先生の講演内容を参考にしております、お名前は忘れてしまいました、申し訳ございません。)



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著者略歴

西田秀造
中谷皮フ科院長
1964年生まれ
平成元年 徳島大学医学部卒
同    大阪大学医学部皮膚科学教室医員
平成2年 大阪大学医学部大学院博士課程入学(皮膚科学専攻)
平成6年 博士課程修了 医学博士
同    公立学校共済組合近畿中央病院皮膚科医員
平成8年 国立大阪病院皮膚科医員
同年11月12日 中谷皮フ科開院