ステロイド剤の乱用 Return


  1952年、皮膚疾患の治療に画期的な進歩がもたらされました。ステロイド外用剤の開発成功です。それ以前は、たとえば皮膚がウルシにかぶれて真っ赤になったりした場合、まずは天然の消炎作用を持つアズレンなどを何日間かつかい、じゅくじゅくしてくるようなら乾燥作用を持つ塗り薬を、かさかさしてくるようなら保湿作用のあるような生薬を、細菌が感染してくるようならゲンタマイシンという抗生物質の薬を塗るといった治療が一般的でした。当時から内服のステロイド剤はあって有効なことはわかっていましたが全身的な副作用が強く、生命に危険が及びそうもない患者さんにはなかなか使われなかったのです。こうした単純なかぶれの場合、現在のステロイド外用剤のもっとも強いものをぬればわずか3〜4日でほぼ略治させることが可能なのです。従来の方法では皮膚科医の熟練度と知識がかなり要求されましたが、この優秀なクスリの登場のおかげであまり皮膚科的な知識のない医師でもそういった炎症をすばやく押さえることが出来るようになったわけです。しかし、皮膚科医は同時にこの魔法のクスリの副作用にも当然着目しておりました。主なものとして、

  皮膚の菲薄化と毛細血管拡張
  水イボやとびひにかかりやすくなる易感染性
  色素沈着
  ステロイド皮膚炎
  全身的な副作用
       中枢性肥満、糖尿病、高血圧、
       骨粗鬆症、重症感染症、副腎萎縮


などがあげられます。これらはかなり以前から医師国家試験にも頻繁に登場する常識的な知識となっています。
慢性に経過してなかなか直らない奇妙な湿疹、いわゆるアトピー性皮膚炎の患者さんに対しても当然ステロイド外用剤は使用されましたが、他の湿疹や皮膚症と違って、アトピー性皮膚炎患者さんには上記のような副作用がより強く出る傾向にはほとんどの皮膚科医が気付いておりました。というのも、アトピー性皮膚炎は元来皮膚の抵抗力が低下した病態であって、慢性に経過する、従って治療期間が長く、ステロイドの副作用が顕著になるということに、皮膚科医であればたいていは気付いているのです。ゆえに、こころある医者は注意深く患者さんの皮膚を観察し、今ステロイドを使える状態か、副作用は出ていないか、以前に試用していた薬はどの程度の強さの薬か、この患者さんはどの程度しっかりお薬を塗っているのだろうかなどと考えながら、注意深くステロイドの強さや期間、適応を考慮するのです。ここまでいえばみなさんおわかりだと思います。誰がステロイドを乱用し、今日のような社会問題を作り出しているか。私もここではっきりと言いきることは出来ませんが、これはやはり不勉強な医者と不勉強な患者(ステロイドは既に薬局で処方箋無しで買えてしまうのです)、および3分診療(たとえ優れた皮膚科医でも、患者さんが1日に100人以上も押しかけてくるようになると患者さんを裸にしてじっくり観察することが不可能になってくるのです)、および儲け主義に走って不慣れな医者に強い薬を売りまくった製薬会社とそれを許した??省にその責があるといえるのではないでしょうか?

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