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戦争法
戦争法には交戦国(belligerent)間の敵対行為を規律する交戦法規と、交戦国と中立国(neutral)の関係を規律する中立法(the law of nuetrality)とがある。これらの成立要因としては、軍事的必要性と人道的必要性がある。前者は、いわば不要な戦闘行為を避けるための手段であり、後者は不必要な殺傷・破壊を防止するためのものである。
【戦争法上の主要な条約】
戦争とは、国際法上は、戦意(animus belligerendi)の明示または黙示を伴う武力紛争と定義される。開戦ニ関スル条約(1907)では理由をつけた開戦宣言や最後通牒による戦意の表明を要求している。(法上の戦争;de jure war)
しかし20世紀になって「戦争の違法化」の流れが進むと、戦意の表明を避ける傾向が見られるようになった。戦意の表明により交戦法規や中立法の遵守が要求されることになるからである。
敵対行為の範囲を限定し、捕虜や文民の扱いを決めた交戦法規があるが、事実上起きている紛争を「戦争」と呼ばないことにより守られず、犠牲が生まれることは問題である。そこでジュネーブ諸条約共通第2条(1949)では、事実において敵対行為があれば、当事国が戦争状態であると承認するしないに関わらず同条約を適用することが規定された。(事実上の戦争;de facto war)
無差別戦争観のもとでは交戦国は「合法的」に戦争を行っていることになるので、戦争法適用に差別はないが、戦争が違法化されたもとでは、少なくともどちらか一方が違法であることになる。このとき違反国に戦争法上の権利を平等に与えるのはどうか、という議論がある。
しかし違反国に対して差別適用する(実際には当該国の捕虜や文民の扱いに差をつけることになる)と、その報復手段が講じられる危険性があり、かえって状況を悲惨なものとする危険がある。したがって違反国に対しても戦争法を平等に適用する。この原則を戦争法の平等適用という。原則だけでなく、事実としても差別適用された事例はない。
内戦とは、1国内の武力紛争である。
国家間戦争と異なり、国内秩序の維持と戦闘犠牲者の人道的扱いの確保という問題がある。前者を強調すると、国際法が適用できなくなり、捕虜等の扱いが条約ではなく国内の刑法(または軍法)で裁かれることになる。
通常は国内法が適用されるが、反政府勢力が一定地域を実効的に勢力下に置いた場合、これを交戦団体として承認することができる。これを交戦団体承認(recognition of belligerency)の制度という。ところが、実際にこの承認を行うと、反政府側を対等な相手として扱うことになるので、実際に行われたことはほとんどない。
このため国家間戦争よりも悲惨な状況になることが多く、これを緩和するためにジュネーブ諸条約共通第3条(1949)が制定され、紛争犠牲者の最低限の人道的保護が規定された。さらに第1・第2議定書(1977)で民族解放闘争などは国際的武力紛争とみなされるようになった。
攻撃目標には防守都市と軍事目標がある。
防守とは、都市の占領を企図して接近する敵に対し、軍隊が抵抗することを意味する。このような都市に対しては無差別攻撃が認められる(陸戦規約25条)。ただし、同27条には宗教施設・学術施設・医療施設などは軍事上の目的に使用されない限り可能な限り被害を免れるように努力しなければならないとする規定がある。(←この追加部分は読者からの指摘による。Special Thanks to 某S氏。)
無防守都市に対しては攻撃対象は軍事目標のみに限定され、民間のものに関しては攻撃が禁止される。この原則を軍事目標主義(Doctorine of Military Objective)という。陸戦だけでなく、海上や空中からの攻撃にも同様の制約がある(海軍砲撃条約第2条・空戦法規案第24条)。ただし軍事目標への攻撃で民用物に付帯的な被害が出ても、故意になされたものではなく、また、目標の破壊による軍事的な利益に比較して軽微な場合には違法ではないとされる。
【地上の軍事目標への攻撃に関する規定】
目標選定
付随的損害予防措置
攻撃実施
1907年の陸戦規約の時点では、正規軍同士の戦闘を想定しており、不正規兵・民兵・義勇兵には捕虜資格は条件付きでしか与えられなかった。捕虜条約(1949)では占領地の組織的抵抗運動の活動員にも条件付きで捕虜資格が認められるようになった。
しかし第2次世界大戦後は民族解放闘争でゲリラが多くなり、捕虜資格は与えられなかったが、これも1977年に緩和された。
捕虜は人道的に扱われなければならない。特に、捕虜の生命を脅かす行為や医学実験、暴行、恥辱を与える行為は禁じられている。また、敵対行為が終了後、送還されなければならない。
陸戦規約 | 捕虜条約 | 第1議定書 | |
正規軍構成員及び正規軍の一部をなす民兵・義勇兵 | 無条件(1条・3条) | 無条件(4条A1) | 43条で定義される軍隊の戦闘員(正規兵・不正規兵の区別なし)(44条) 戦闘員は戦争法遵守義務(44条2)と文民の区別義務(44条3)を負う。44条2違反により捕虜資格を喪失しないが、44条3に違反すれば資格を失う。 |
その他の民兵隊・義勇隊の構成員(被占領地を除く) | 以下の4条件を満たすもの(3条)
| 同左(4条A2) | |
群民兵(被占領地を除く) | 上記3・4の条件を満たすもの(2条) | 同左(4条A6) | |
被占領地で占領軍に抵抗する民兵隊・義勇隊・組織的抵抗運動団体構成員 | 捕虜資格なし(…と書いたけど、これは誤りではないかとの読者からの指摘あり。現在確認中。) | 陸戦規約の4条件を満たすもの(4条A2) | |
解放組織等の構成員 | 捕虜資格なし | 捕虜資格なし |
戦闘においては、交戦国は戦闘員と文民・一般住民を区別する義務を負う。
1949年の文民条約の保護の対象となる文民は、「戦争の影響に対する住民の一般的保護」の場合を除き、自国の外交上の保護を享有し得ないものを言う。(第4条)
交戦国は戦争のための統制や安全上の措置をとることは認められる(27条)が、文民の軍事利用・強制的情報取得・虐待・連座制などは禁止される。(28・31−34条)
文民条約 | 在留敵国国民 占拠地住民 (紛争当事国の権力内にある者で当事国国民でない者) | 文民条約の主要保護対象 ただし中立国国民及び共同交戦国国民については彼(女)らの本国が当事国の外交代表を駐在させている場合は保護対象にならない。 |
一般住民 (紛争当事国の住民全体) | 軍事行動から生じる危険に対する保護を規定せず。 第2編に若干の保護規定あり。 | |
第1議定書 | 在留敵国国民 | 文民の範囲拡大(50条) 無国籍社と難民も保護対象となる。(73条) 詳細な文民条約保護規定に追加されたのは女子・児童・報道関係者など。(76−79条) |
一般住民 | 軍事行動から生じる危険に対する保護を詳細に規定。(第4部) 民間防衛の制度を条文化。(61−67条) |
国際法上の戦争状態になった場合、その戦争に参加していない国家が交戦国に対してとる立場を中立といい、そのような国家を中立国という。中立国は公平と不干渉の義務を負う。
中立の義務は、黙認・避止・防止の3つの内容からなる。
黙認義務(duty of acquiescence)とは、交戦国の行為により中立国やその国民に損害が生じても黙認しなければならないことである。もしこれに報復した場合には中立国ではなく交戦国となる。
避止の義務(duty of abstention)とは、軍需物資や資金・情報を交戦国に与えない義務であり、防止の義務(duty of prevention)とは、交戦国による中立国の軍事利用を防止する義務をいう。
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Updated : 2002/08/06
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