リュックサック

やまもと雄大

リュックサックを背負って歩いている
知らないあいだに随分と歩いたようにも思えるけど
ほんとうはまだ少しだけしか歩いていないのだろう
背負っている荷物は特別に重たいわけでもないのに
ときには支えきれないと思うほど負担に感じたり
そうかと思えば荷物を意識しないで楽に歩ける日もあるんだ
大切なものが入っているザックだから
自分でしっかり背負わないといけない
道連れも大勢いるけど
みんなも自分のザックにそれぞれの荷物を入れて
最後の宿まで背負って歩くのだから
僕だけ そう簡単に音を上げるわけにはいかない
しんどくなったからと言って放り投げられるはずもない
僕が僕であることを証明する身分証明書も入っているのだから
失ってはたいへんだ
二度と再発行はしてくれない
このザックの重みがあるからこそ
今という時代の道を
確かな足取りで歩いているという実感を持てるのかもしれない

一九八九年十一月三十日