ナンパされちゃった。

植林を終えてテントのある広場まで帰ろうと歩いていると
後ろから声がかかった。「ワットタイムイズイット:今何時ですか?」。
おお、珍しい。英語じゃないか。
見るとまだうら若き黒人のお姉さんが年下の妹だろうかを連れて
歩いている。
10時半だよ、と答えると何て言ったっけ。
要は「家が近いから見においでよ」と言うではないか。
N氏が近くを歩いてて「おいでと言っているのですがいいんですか?」
と聞くと「大丈夫」と言うもんだから、
そったらちょっと見せて貰おうとお姉さんについて行く。
N氏は「OK、OK」と言った割りには気になったんであろう。
後ろからついて来て我々に追いついた。

彼女の家は植林地からほんの3分程歩いた所。
他の家が敷地の周りをわらか何かで囲ってあるのに対して
ブロック塀である。
家の横にはオバサン達がたむろしている。
紹介してくれるが英語がそれ程得意ではない様だ。
ブラザーだかファーザーだかマザーだかがごっちゃになっている。
元々が一夫多妻制なもんで4人まで妻を持つ事が出来るわけ
だが、そうなるとマザーと言っても本当のマザーか義理のマザーか
何やら訳が分からんようになりはしないのだろうか。
それはそれで別の呼び方があるのかも知れないが・・。

で、一通り紹介してくれたのだが、何人かのマザーがあった様に思える。
英語がいいかげんな所に上記の一夫多妻なんてのが
あるからややっこしくて仕方がない。
嫁はんは一人にしとけよ、と言いたくなる。
頭がこんがらがりながらも家の中に通される。
前にも書いたが家はブロックで囲まれている。
この辺にはなかなかそんな家はない。
きっとこれはブルジョアじゃないんだろうか、と考えた。
という事はこのナンパ姉ちゃんはいいとこのお嬢様だけど
ちょっと行動に難あり、というやつかも知れないな。
要注意だぞ、とフンドシの紐を締め直す。

中はかなり広い。20m角位あるのではないか。
入って右にはガレージの様なスペースがある。
車が入っている訳でもない。
オバチャンが大きな釜で何やら作っていた。
自分時なんでお昼を作っているのであろう。
一体この辺りの家庭料理はどんな物を食べているのだろうか。
興味があったが体調を考えて遠慮しておく。
入って左側に母屋が並ぶ。部屋数は4。
一番端の部屋が彼女の部屋だそうだ。
入れてもらうがベッドが二つ90度に並んでいる。
他には食器棚がど〜んとおかれているだけだ。
しかし、このベッドを見て少々びっくり。
マットが完全にない。では何があるかと言うと骨組みの上に
ダンボールが隙間があかない様に何重かに積まれている。
この上で寝てんのん??
恐らくこれは妹や弟のベッドなんだろう。
彼女のベッドは一応布団らしき物がひいてあって若干のクッションがあった。

ところで、食器棚の中には硝子の様々なグラスやら何やらが
一杯並んでいる。おおそうか、やっぱりブルジョアなんや。
窓の上には棚があって何だろうか、
高さ20cm、直径15cm位の小さなバケツの様な物がいっぱい
並んでいる。絵を見ていると食べ物の様だがよく分からない。
彼女の部屋を出て別の部屋に行く。
真ん中の部屋を飛ばして一番端の部屋。ここにもベッドが一つ。
窓の上の棚には彼女の部屋にあった物と同じ容器がたくさん積まれている。
気になるので聞いてみた。すると「ココアだ」と言う。
ココア? そんなもん飲むの? えらい文明的やないの。
あ、そう。そうですか。
彼女たちがココアを飲んではいけない訳ではないが、
何か肩透かしをくらった様な感じを持つ。

知らない間に「彼女たちは文明化されずに生きて行かなければならない」
と思っているのかも知れない。
各部屋を訪問して中庭に出てきたら若い青年が棹みたいな物を持って
出てきた。というか外から帰って来た。
彼女は何やらと紹介したが案の定なんかしっくりこない。
お父さんって言ったんだっけ…。そんなあほな。
見る所もなくなったら今度は外に行こうと言う。
外に出ると隣は何やらとか言っている。隣の家族の名前が何やらなんか
垣根の名前が何やらなんか全く分からない。
でも適当に「ふ〜ん」と答えておく。
面白い物でどうせ分からない時は大阪弁に限る。
頑張って英語で話してもどうせ伝わらないときは伝わらないし、
大阪弁でいった方がニュアンスが伝わったりする様だ。
歩き出してすぐにN氏が彼女に向かって
「我々はもうテントに戻らなければならない」と言った。
その言葉を聞いて彼女は「NO」ときっぱりと言った。
あららら、強い調子だこと。なんか怒ってはんのかな?
顔には先ほどの笑みはなく「あんた、何言ってんのん」といった表情がありあり。
やっぱりこいつはツッパリなんちゃう?
N氏はその返事に対して何かを感じたのか執拗にテントに戻るのは
こちらでいいのかと繰り返す。
最後に彼女は諦めたのか「こっちだわよ」と言った感じで道を指し示した。
なんとなく憮然とした態度であった。
我々はその言葉と共に彼女たちと別れた。
あのままついて行ったら何が待っていたのであろうか。
恐ろしい様な興味がある様な。
そんな変は事になったとは思わないが、彼女は何を見せたかったのか…

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