アトピー徒然草


このページは私が日常診療から得たImpressionをつれづれに書き連ねたものです


◎アトピー性皮膚炎の症状(2002.11.1)

 今年の皮膚の日(11/12)で中谷皮フ科も6周年、いやになるほどはやい(^_^;)、でもこの間ほとんど日本経済はゼロ成長、というかマイナス成長。そこかしこに倒産不景気風がふきすさび、日本人の倫理観は更に低下し、犯罪増加、またその検挙率は低下と、ふんだりけったりの世相。英国の戦後すぐってこんな感じだったかも知れません。そんななかでおかげさまできちんとご飯が食べていける、大変有りがたいこと。祖父母、父母、先輩や医学的師匠、そして家族に感謝・また感謝。

 春から夏にかけて主として大人の前腕部に生じるそうよう性多発性小丘疹(Papulo-vesicular Light Eruptionほど密集多発はしない)、これをアトピー性皮膚炎と思うようになったのは開業後からだが、同様の季節に手指に角層内水疱を多発する患者が多く、RASTでイネ科のアレルギーを多く発見することからこれもアトピー性皮膚炎と考えるようになっている。しかしいまだにそういう記載はアトピー性皮膚炎診断基準には載っていない。だからそういった症状で受診した患者は私の
「アトピー性皮膚炎の初期です。」
という説明を聞いてけげんそうにする患者も少なくない。
では以前に他の医者でどういわれていたか問うてみると
「炎症を起こしているのでしょう。」
??????
皮膚炎だから炎症はあるのだが。。。。。
これではなんのことだか??
「あせもの手にできた奴。」
たしかに異汗性湿疹と紅色汗疹、異汗性湿疹と汗疱状湿疹とはたがいに混同されがちなので、というか、あいまいな概念なので汗疹=汗疱状湿疹といってもいいのか?な??
 確かに、ある一つの症候がアトピー性皮膚炎によるものかどうか、さらにそれが1型のアレルギーとリンクして悪化するのかどうかは大規模な統計的検索を要す、難しい作業。でも皮膚科医のほとんどがそうだろうと感じればそうなるものでもある。事実、大抵の基準には
「典型的な皮疹」
たとえば小児なら肘窩と膝窩とか。
でもそれって全例じゃないし、確証もない、医者の多くの概念の総和。

 なにがいいたいのかわからなくなったところで今日はおしまいにします。

◎アトピー性皮膚炎と洗濯機(2002.5.16)

 先頃、朝日新聞とTV朝日で「アトピーの原因は洗濯機のカビ?」という報道があったようです。
「http://www.asahi.com/life/health/iryo/020508a.html」に全文が載っておりますが、以下に引用します。
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  近年増え続けるアレルギー性皮膚炎の原因の一つとして、洗濯機内で増殖するカビが疑われ始めている。皮膚科医の依頼で研究機関が調べたところ、洗濯機の中が大量のカビで汚染されていることがわかった。全自動式の場合、見つかったカビ胞子は洗濯水1ミリリットル中、最多で4000個を超える。洗濯すればするほどカビは増殖、きれい好きにとっては思わぬ落とし穴だ。専門家は「因果関係の詳細な調査が必要」としている。

 大阪市立環境科学研究所の浜田信夫研究主任は数年前から、アレルギー性皮膚炎を調べる複数の皮膚科医らに、洗濯機内のカビ汚染について尋ねられるようになった。このため、家庭で使われている洗濯機153台の洗濯水やすすぎ水に含まれるカビ胞子を調べた。

 その結果、胞子が見つからなかったのは1台だけで、洗濯水1ミリリットル中に最多で4566個の胞子が見つかった。平均値は、全自動式で同61個、2槽式で同24個。屋外で衣類に付いた胞子が洗濯機内で増殖する経路が浮かび上がった。

 カビは洗濯槽の裏側で増え、水流に当たって胞子を放出、洗濯物に付着する。家族の人数や洗濯回数が多いほど胞子は多かった。浜田主任は「これらのカビは熱に弱く、45度程度の湯で死滅する。家庭でも対策は可能」と話す。

 滋賀医大の杉浦久嗣講師(皮膚科)によると、アレルギー性皮膚炎で代表的なアトピー性皮膚炎の症状悪化には、微生物や化学物質、ストレスなど複数の要因が絡むが、洗濯機のカビも調べる必要があるという。また、大阪市立大医学部の深井和吉助教授(皮膚科)は「重度のアトピー性皮膚炎の患者宅で洗濯機が故障して新品にした途端、症状が大きく改善した臨床例があった」として、以前から洗濯機を疑っていた。

 ◆日本電機工業会の話 置き場所や使い方で洗濯機にカビが繁殖しやすくなることは知られていたが、具体的データはなく、皮膚炎との因果関係も分かっていない。今後利用者に洗濯槽の汚れ落としを呼びかけたい。
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この記事の内容そのものは大変興味深い、価値あるものです。今後にまだまだ検討を要しはしますが。特にいわゆるアトピー性皮膚炎の「dirty neck」とよばれる頚部の皮溝の色素沈着などに関与している可能性があるかと思われます。ただ、現時点では、すなわちまだカビとアトピー性皮膚炎の因果関係が確定的とする論文もなければ発表すら無いような段階で、まことしやかに報道するのはいかがなものかという、強い疑念を朝日さんには抱かざるを得ません。この会社はすぐに「正義の味方」をきどりたがる傾向があり、はやとちりで問題を起こしがちです。10年前の「ステロイドバッシング」、松本サリン事件、3年前の「ダイオキシン」など。なぜまだ因果関係がはっきりしていないうちに記事にするのでしょうか?「洗濯機を作ってもうけている資本家達のおかげで多くの国民がアトピー性皮膚炎になっている、これは巨悪だ。」などと時代錯誤に思っているからでしょうか?私自身は10年前から朝日新聞をやめていますが、この新聞社は時折チェックする必要があるなと、再び思わされました。

◎久しぶりに (2001/11/12)

 このHPのリニューアルをかまけているうちに暗い事件ばかりが多く起こり、世界は終末に向かって加速するかの感があります。大阪の児童殺傷事件、アメリカ同時多発テロ、新宿のビル火災etc.開院五周年というのに世相は暗くなるばかり..........。


 さて、アトピー性皮膚炎をとりまく環境は?これはやや好転しているのでは?その理由は、
1. マスコミのステロイド離れ
2. プロトピック軟膏の優れた効果
と考えられる。
 マスコミが以前のようにステロイドをバッシングする姿勢は、すくなくとも大手は影を潜めている。TV東京系が、多種類の内服薬の副作用で、Stevens-Johnson症候群などをひきおこして失明することがあることをくりかえし取り上げているくらい。これは実際事実なので報道する姿勢は評価できるが、あまりにも繰り返してとりあげると必要な内服薬も極端に忌避する患者が増加し、結果的に患者側が不利益を被るという可能性もあり、諸手をあげて賛同するわけにはいかない。むしろ、非常に少ない確率ではあるがおこりうるこうした副作用を、早期に発見、診断する、皮膚科医、眼科医も巻き込んだ救急体制の確立などに重点を置くべきではないかと思います。
 プロトピック軟膏、この新しいタイプの外用剤の導入で、顔面型アトピーの患者さんのQOLが大いに向上している。これは素晴らしいこと。たったひとつ困る点は、「長期、数十年単位で外用していくと、紫外線による発癌リスク(主に顔面の有棘細胞癌と基底細胞癌)が増加する可能性を否定できない」点ではないだろうか。似たような構造の免疫抑制剤は20年以上前から使用され、おそらくまだ紫外線発癌の増加の確証はえられていないとおもうのだが、これはもうあと30年くらい見てみないと断定はできないと。しかし、わたしは患者さんにはこうお話ししています、
「皮膚癌がプロトピックを塗らない人よりもできやすいかもわかりませんが、顔になんかおかしいものができたらすぐ私に申告してください、有棘細胞癌にしろ基底細胞癌にしろ、胃ガンや肺ガンに比べると致死率はうーんと低く、すこし大きめにとってあげればまず大丈夫なんですから。」
 全国のプロトピック外用中の患者の皆さん、安心してぬってください、但し「くすりだけ」はやめて、できるだけ皮膚科の医者に顔をみせてあげてください。

◎例外的に非合理的なアトピー性皮膚炎患者さん (2000/5/20)

久しぶりに「不思議」な患者さんが来たのでここに紹介します。

顔面と頚部、両前腕部に一部滲出液を伴う鱗屑痂皮を付着するび慢性紅斑が存在する、普通の言葉で言うと「じゅくじゅくの湿疹」状態の20代女性。

「どうしてこうなったのでしょう?」

「アトピー性皮膚炎が急性に増悪したのでしょう。そのきっかけは環境にあるか、ストレスにあるのか、はっきりとはしませんが、この状態では二次的にいろんな病気をおこしそうだし、社会生活上問題もあるでしょうから、お薬を使いましょう。」
「おくすりは使わないでなおしたいんですが。」
「ん、それはどういう意味ですか?なにかステロイドに関して懸念があるのでしょうか?」
「そうです、子供の時にステロイド使ってたんです。あれは恐いからいやなんです。」
「しかし、あなたはずっとステロイドを恐いと思って数年間全く使ってないんでしょ。」
「はい。」
「なのに今回のこの症状増悪も過去に外用したステロイドのせいにしてしまうのはおかしいでしょ。」
「はぁ。」
「もっと合理的に考えませんか?お薬のメリットとデメリットを秤に掛けて、自分にプラスと思うものはうけいれる、マイナスと思うものはやめる、そういう考え方でいきませんか?」
「検査して欲しいんです。」
「ん?検査の話に飛びます?そうですか、何を調べたいのでしょう?」
「何に対するアレルギーでアトピーになっているのか調べて欲しいのです。」
「うん、確かにRAST検査をして自分のアトピー性皮膚炎の増悪因子を知っておくことは大切なことです。薬がいやだから原因の精査と除去に重点をおきたいと言うことですか?」
「はい。」
「しかしね、今日はあなた保険証持ってきてないでしょう。こういうアレルギーの検査はね、いい検査なんだけどかなり高額なんです。一時的に立て替えるといっても二万円くらいになっちゃいます。どうですか、次回保険証を持ってきていただいたときに調べるということにしては。」
「いいえ、そういわずに今日調べてください、立て替えてはらっときますから。」
「なんでそんなに急ぐんです?」
「今日来たら次といってもなかなか来れないと思うので。」
「えぇ?次来られない?..............。アトピーをよくしようと思ってこられたんでしょう?なのに薬はいやだし定期的に通う気もないんですか?.............そういうことではあかんのと違いますか?(この間何回もまた同じ事を説明して)まぁ、今日は、こういう病気と向き合う為のお話だけにしておきましょう。」
「こんなこと聞いていいのかどうか解りませんが、私は仕事を辞めるべきですか?」
「おそらくは仕事を辞めて家に閉じこもって一日何回か入浴していれば薬なしでもかなり良くなると思いますよ。しかし仕事を続ければ今の状態が続くでしょうね。仕事を続けながら症状を改善したいというのであればお薬が必要なんです。(この間また同じ事を説明して)まぁ、今日は、こういうお話だけにしておきましょう。」

で、この女性、診察室からでていくとそのままエレベーターに乗ってとっとと帰ろうとするではないですか。事務員がおっかけていって診察料2000円少々を請求する始末。前から日本人ってこんな変でした?

◎プロトピック軟膏 (2000/1/31)

昨年の暮れから市販が開始されたプロトピック軟膏についての印象をひとこと。
ステロイドが非特異的に免疫反応全般を抑えるのに対し、免疫抑制剤FK506はTリンパ球特異的にその活動を抑制できる、ゆえにアトピー性皮膚炎に使用した場合、炎症(あかみやかゆみ)をおさえながら、長期に使用してもステロイドに見られた副作用のうち表皮の増殖を抑えた結果として引き起こされる網細血管拡張やしゅさ様皮膚炎がおこらないという長所をもつ、はずの薬剤である。しかし、思いの外皮膚刺激性がつよく、当初よりも認可が遅れたのもその特性故とか。で、市販開始。

始めはなかなかつかえなかった。なぜか。

ステロイド剤は長年の使用経験があり、作用、副作用の程度、種類など熟知しているが故に予想が効く。予想が効くから早め早めに対策がとれる。これに対し、全くのはつもの外用剤は使いにくい。順調に経過している患者さんにあえて使ってもらうのはむしろ良くないことではないのかと。もしステロイドをプロトピックに切り替えたが為に悪化したらどうするんだと。単なる人体実験になりはしないかと。

一ヶ月経過して一本も処方できなかった。

しかし、年末、しわすの慌ただしさ、ストレスから、コントロールをやや崩したアトピーの方々がちらほらとこられるようになった。アルメタあるいはロコイドを使用しながらも効果不十分な患者さんに、処方を開始。
「顔のごく一部分にこのくすりをしようしてください。ステロイドと違い、塗り始めてしばらくはひりひりした痛みや熱感を感じるようですが、一週間もすればおさまり、皮疹も引いてくるようです。もし刺激感が一週間以上続くようならステロイドに戻してください。」

こんなスタイルで、コントロールの悪化した患者さん主体に、次第に処方量を増やしていった。年始からこちら、そうした患者さんの再診があり、次第にプロトピックの実力がわかってきた。

結論からいうと、「大変よく効く」である。

しかしその効き方は個人差、部位による差が激しい、ステロイドと比較できないくらいに。

本格的に使い初めてまだ一ヶ月と少しなのでまだまだはっきりと断言はできないが、プロトピックはアトピー性皮膚炎に有効な外用薬で、うまく使用すれば患者さんのステロイド使用量をかなり減量できる薬剤であるとおもわれる。今後はより効率的な使用法の模索(例えば初期段階でステロイドとプロトピックを重複させてぬるなど)と検討を繰り返し、このページに再び紹介したい。

◎最近のこと (1999/6/25)

金沢大学の竹原先生がここ数ヶ月、アトピービジネス関連で積極的な発言をしておられる。文春でもシリーズ化されていたし、ステロイド関連の新聞記事にも、多くはステロイドアレルギーからくるヒステリックな意見への反対意見としてよく取り上げられている。国立大学の教授が声を大にして近年のアトピービジネスを糾弾して頂くのは我々末端の皮膚科医にとってはまことに頼もしく、ありがたく思われる。

今に始まったことではないが、というより人間の本性かもしれないが、人は人をだまして利益を得る、これが当然になっている。大阪では「値切り」が当たり前だが、これは売る方だけでなく、買い手側も商売人であるからか。ただ、このだましも程度問題であろう。「もうこの値でうちは原価割ってんますんで堪忍してください。」これもつきつめれば嘘であろうがまあ許せる範囲。温泉地に行くと大抵おいてある硫黄含有軟膏、「水虫、タムシ、湿疹などあらゆる万病に効く。」これも実害は小さく、許せるか。医者も薬の問屋や検査会社に対しては少しでも安くして欲しいと要求する。しかし「医者に行くから直らない。」「ステロイドを塗ったら副作用で大変なことになる。」「これをつかって多くの患者さんのアトピー性皮膚炎がなおった。」「あなたにはこの方法しかない。」こういう商売は許容範囲をおおきく逸脱している。日本人の質が問われている。

つい先日、厚生省が病院の検査差益について発表した。病院は検査専門の民間企業に検査を委託することが多いが、この場合、平均35%の利益を病院は得ているという内容。厚生省の病院いじめもついにここまで来たかという印象であり、ますます税金払う気力を萎えさせるものである。あたかも検査で差益がでるのが不正な行為であるかのように国民が受け取れる報告。現場では患者さんの検査を直接行うだけの検査機器や労働力を囲い込む金銭的な余裕は全くない。検査会社に出さざるを得ない。出す場合、検査の定価で検査する会社と、検査定価の65%で検査してくれる会社と、どっちにだす?検査精度や集配の問題が互角であれば、より値段のやすい企業に出すのが当然では?検査で病院が利益を出しているという情報を流す→患者が「検査したら儲かるから医者は検査したがる」と勘違いし、検査を敬遠する→検査が減り、医療費が下がる・というのをねらった情報操作。しかし、逆に、検査を敬遠する→発見が遅れ、外来で治療可能だった患者が入院を余儀なくされる→医療費がむしろ高くつく・ということになるかもしれないのに。はたまた、厚生省は、検査を敬遠する→発見が遅れて早く亡くなる→医療費の抑制・というストラテジーをねらっているのかも。超高齢化社会を迎え、少しでも質の高い平均余命を提供したがる医者側と、負担の抑制を図りたい厚生省、保険者とのせめぎ合いを終わらせる、抜本的な保険制度改革が必要とされている。

◎アトピーと遺伝 (1998/10/20)

最近私のところへアトピー○×なる雑誌の宣伝パンフが郵送されました。以下にその内容を

本書の主な内容
第一章 アトピーの最大原因は活性酸素
第二章 アトピーは遺伝するか?
    克服できない病気はない ○×大学講師
    重力を忘れた医学では病気は治せない ○×大学講師
    アトピーは遺伝しない 吉岡さん
第三章 歯科、治療家、栄養士が治すアトピー
    身体革命を医療に活かす
    歯科が治すアトピー
    アトピーにならない離乳術
第六章 アトピー○×の保湿剤
第七章 アトピーグッズレビュー

このようなアトピービジネスを目にする度皮膚科医として責任を感じてしまいます。
まず、アトピー性皮膚炎の原因が活性酸素とするならば、老化に伴って自然治癒するアトピーの性質が説明できないのではないでしょうか。アトピーが遺伝しないというのもまた、事実に全く反した机上の空論です。なぜこんな気休め的、場当たり的なことをあたかも真実であるかのように大衆に向かって宣伝するのか、腹がたつおもいです。おそらくは常識を覆すような表題による販売部数の増加と自ら開発と銘打った保湿剤の売上を伸ばすためであろうと考えるのですが。
こうしたアトピービジネス、アトピーの知識の混乱を受けて、先頃開催された皮膚科学会ではアトピーの知識、治療内容の標準化を積極的に推進しようという委員会が設置されたということです。もともと当HPもそうした趣旨に基づくものであり、今後日皮会の動向についても随時報告を挙げて行くつもりでおります。

◎アトピー性皮膚炎・夏期増悪傾向 (1998/10/05)

夏場に悪化するアトピー性皮膚炎患者さん、結構おられますが、その原因について考えてみました。
ダニアレルギーのつよい方ではダニ量の増加と供に症状が悪化して不思議はありません。しかし実際にはダニ量云々よりむしろ汗、汚れが皮膚を刺激してかゆみを強めることの方が多い印象があります。汗をかきっぱなしにせずによく洗う、こんな簡単な指導でかなりよくなることが多く、驚かされることがあるほどです。
成人の顔面型の皮疹でも、夏場に悪化する患者さんで抗生物質の内服が奏功するケースが少なからず見られます。夏場に顔面の皮疹が悪化してステロイドのランクを上げても少量のステロイド内服をおこなっても症状が悪化する場合には試みてみるべき治療法ではないかと思います。

◎アトピー性皮膚炎とイネ科の雑草花粉 (1998/07/30)

ながらくなにも書き込みしてませんでした。
思いつきでかいてみます。
毎年5月から6月にかけて気温、湿度が上がってくると、指の側面や手背にかゆみのある小さな水疱、および鱗屑を付けた紅斑を主訴に外来を訪れる患者が増えてきます。病名は「汗疱状湿疹」とか「異汗性湿疹」とされることの多い疾患です。3年程前まではこうした患者さんに対し、「汗が角質を通り抜けるときにスムーズに行かないので起こる湿疹でしょう。」とお話ししていました。実際に、多くの患者さんは5月頃から発症し、8月末には軽快するのでこうした説明でも納得してくれてたようです。開業後、アレルギー科の標榜により、杉花粉症の患者さんが増えました。杉花粉症の患者さんの多くは皮膚症状がありません。しかし、春に花粉症で受診された患者さんの中に5月頃になって汗疱状湿疹を主訴に再受診される方が多いのに気づきました。徐々に「汗疱状湿疹はアレルギーなのでは?」と思うようになりまして、汗疱状湿疹患者さんのアレルギー検査を多数施行したところ、約8割ほどの患者さんがイネ科の雑草のマルチアレルゲンに反応があるのでした。汗疱状湿疹のみを主訴にこられる患者さんを調べても約8割方イネ科が陽性でしたが、すぎ花粉にもアレルギーがある人は約5割くらいでした。ハウスダストとのオーバーラップは3割くらいで、ほとんどの患者さんが8月にはいると軽快するのも、イネ科の雑草花粉の飛散時期にてらすとぴったりと符合するのです。こうした傾向は毎年同様に見られ、私自身は汗疱状湿疹をアトピー性皮膚炎の一表現型なのだと確信しています。さらに、汗疱状湿疹を呈する患者さんでハウスダストにアレルギーのない方はおおむね顔面の症状がないか、あっても軽微なのです。
アトピー性皮膚炎は難解で興味深い病気だなぁとつくづく思います。

◎アトピー性皮膚炎とIPD (1997/12/11)

開院後一年を経過して、疾患の集計をとったところ、アトピー性皮膚炎がダントツで一位、20%をしめた。症状別では、学会でいうところの「典型的な皮疹」のかたちの人が多いが、貨幣状湿疹型、下腿慢性痒疹型、手掌足蹠の汗疱状湿疹型などの患者さんも比較的多い。なかでも治りが悪いのは成人型で顔面の高度な皮疹を有する症例、次に貨幣状湿疹型。慢性痒疹はステロイドは効きにくいが液体窒素を使用することで比較的早期に略治させることができるので、あまり苦労しない。私はこうした治りが悪い症例に対し、IPDを使用して比較的良好な結果が得られている。IPDは95年の春に承認された抗アレルギー剤。従来の抗アレルギー剤が抗ヒスタミン作用に依存してかゆみを抑えていたのに対し、IPDは「IgE産生と好酸球の組織浸潤を抑制する」という、抗ヒスタミン作用を持たない、純粋な意味での抗アレルギー剤である。抗ヒスタミン作用を持たない抗アレルギー剤としてはトラにラストがあったが、その臨床効果ははかばかしいものではなかった。したがってIPDにも当初はあまり期待していなかったが、あにはからんや、これがよくかゆみを抑える。投与初期からよくかゆみを抑える。投与後4〜6ヶ月くらいたって、難治だった人も「あれっ」て思うくらいきれいになってくる。で、好酸球やIgEをはかってみると、確かに半減している。これはすごいことだと思う。実質的な初めての体質改善剤であろう。と、いうわけで、当院では好酸球の多い、IgEの高い症例では必ずIPDを処方するようにしている。副作用はほとんどない。一例だけ、蕁麻疹がでてしまった人がいたが。今後は小児に対する適用が早くできるようになることを期待している。

◎抗真菌剤・抗菌剤内服について (1997/9/4)

最近、カンジダにRAST高値をしめす難治成人例で、イトリゾール(抗真菌剤)の内服が奏功した例をつづけて二人ほど経験した。また、風邪をひき、そのために抗生物質を5日間のんだところ、何をつかっても軽快しなかった顔面の紅斑が軽快したという男性例を経験した。
患者さんから学ぶことは多く、これは一生涯続くことと思う。

◎民間療法について (1997/8/6)

大阪府に、府立羽曳野病院というアレルギーコンシャスな府立病院がある。皮膚科の扱うメインはアトピー性皮膚炎であることは言うまでもない。ここのスタッフは非常にまじめにこの難解な病気に取り組んでいる。当院からコントロール不能なアトピー性皮膚炎患者さんを入院紹介するとすれば、この病院より他は考えられない。

メディカル朝日に羽曳野病院皮膚科の遠藤先生が発表しておられた各種民間療法の有効率を掲載したので患者の皆さんには是非参考にしていただきたい。手を出してみるべき療法、あるいはばかばかしい療法など、いろいろと見えてくるのではないだろうか。

◎最近のこと(1997/6/20)

   最近ようやく当院も通算患者数が1000になろうとしている。疾患別ではアトピー性皮膚炎がやはりダントツで、総患者数の30%を占める。最近気付いたことだが、汗疱状湿疹患者の大半はスギ花粉症とイネ科の雑草に対するアレルギーを有し、ダニアレルギーをもっていないことが多いように思う。従来、アトピー性皮膚炎の部分症状として、あるいは金属アレルギーとして汗疱を論じた文献はあるが、具体的なアレルゲンの検索結果とのかねあいについてはあまり知見が得られていなかったように思う。これから方々の論文をあたって従来の知見を再確認し、統計処理やスタディの組立を考えていかねば。

   重症のアトピー性皮膚炎患者は少ないながら、何人か通院するようになってきている。とはいえ成人の重症例が1例、乳児重症例が2例ほどであり、確率からして大阪府とのギャップは明らかに存在する、奈良ではやはり軽症例が多い。そういえば、信州大学の先生にアトピーの重症度についておうかがいしたいと思っていてきれいさっぱり忘れていた、せっかく全国区の学会があったのに。残念!

   重症の赤ちゃんのお母さんは土佐清水市の某有名病院で活性酸素除去とやらの治療(保険が効かず、数十万円かかるらしい)をさせたことのある女性。赤ちゃんは全身に苔癬化の強い紅斑を有し、肘窩、下肢には滲出を伴うびらんが多発している、アトピー性皮膚炎の2次感染症例である。そのお母さん、「ステロイドは塗りません、この状態の前の状態まで治してくれれば結構です。」「ルイボスティー以外塗りません。」という。一応抗生物質の内服と外用を処方したが、このお母さんが尋ねるべきところは皮膚科医院ではなく、薬局か土佐清水の病院ではなかったのだろうか?治療方針をすでに決めた状態で医者にみせてもらってもこちらとしてはなにをすればいいというのだろうか。子供の生活習慣、行動パターンを問診して増悪因子を洗い出していくことすらできない。重症患児の場合、詳しい問診と治療ゴールの設定は不可欠。親の因果がなんとやらである、かわいそうに、患児はかゆみのため常に泣き叫ぶ状態で自閉症的性格となりつつあり、ストレスもあって1歳半をすぎてもまだ歩くことができない、低体重児である。親による子供の人権蹂躙といえるのではないだろうか?

◎日本皮膚科学会(1997/6/12)

   4月に岡山において日本皮膚科学会総会がおこなわれた。小生も医院を休みにして、開業間もないのでホントは営業的には苦しいところではあったが、3日間楽しんできた。アトピー性皮膚炎をこのHPでとりあげた手前、出席はアトピー性皮膚炎の演題が中心になったのだが、ここ数年アトピー性皮膚炎をとりあげた演題、講演、セミナーは確実に増加傾向にある。アトピー性皮膚炎の成人難治例の増加、マスコミのステロイドバッシングとそれに影響を受けたヒステリックな母親たち、医師と患者間の信頼関係の低下など、かつてないほど社会的な要請がこの疾患には高まっている、それを反映してのことと思う。しかし、どの演題も医師ー患者関係や現在の診療報酬態型の問題点にまではふみこんでいなかった。おもうにアトピー性皮膚炎は患者の身体症状の診察はもちろん、患者の環境、習慣からその患者個々において異なる増悪因子を洗い出し、わかりやすく生活指導していくことが肝要で、そのためには現時点での本症の病因論についても繰り返し説明する必要もあって、こうした基本的なことを患者と話し合うだけでも相当の診察時間を要する疾患であるといえる。現在のところ1日患者数約40人の当院ではそうした診察が可能だが、1日100人にもなってしまえば前述のような診察は不可能となってしまう。対策としてアトピー性皮膚炎専用の予約時間をとってしばらくはしのごうと考えてはいるが、予期される混雑というのは既に開業している皮膚科医や勤務医の大多数が味わっていることで、これを是正するには診療報酬の算定システムにメスがはいる以外ないのではないか?ほぼ全ての医師が(出来高払い×患者数=診療報酬)という大原則の基、患者数を制限できないでいる、したがって一人当たりの診察時間が短くなる、患者は不満を持ち、ドクターショッピングを開始する、さらに診察時間が短くなるという悪循環。医者の理想像は一人当たり半時間から1時間ぐらいかけてじっくり患者と話し合い、質の高い医療を1日10人ほどの患者に提供してしかも十分な報酬が得られるというものではないだろうか?きけば欧州、とりわけドイツではそうした医療が可能に成りつつあるんだそうで、うらやましい限り。しかるに日本は医療費の抑制のために「医師過剰時代」などといって医師の数を制限しつつある、これは医者に診察時間を与えない様なものである。大体医療費を抑制したいのなら薬剤の価格を自由化しないといけない。薬の価格を厚生省の官僚が勝手に決める現在のシステムではもうもたない。彼らは自分の天下り先の製薬会社の薬の値段をつり上げることに熱心すぎるので。国民に自己負担の上乗せを求め、高い薬はさらに高くする厚生官僚のずるさ、きたなさ。管さんにもうすこし大臣でいて欲しかった。

◎1997/2/28
   京都の同志社大学近くに行列をつくって患者が押しかけるアトピー性皮膚炎専門の医院があるという。初診を電話予約して3カ月待たされ、予約日に親子で訪れると、子供と親を何かしらのパイプで結び、親に両手の人差し指と親指でつくったわっかをクロスさせるようにいわれるらしい。子供に牛乳のパックを握らせ、親にそのわっかがはずれないようにおもいきり力をこめるようにいう。そして突然助手が親の両腕を左右に引っ張り、親の指のわっかがはずれたら「この子は牛乳にアレルギーがある。下の店でこれこれという特別な牛乳を買いなさい。」と指導するんだそうな........。下の店の経営はこの医者、いや詐欺師がやっていることはいうまでもない。このようなことを考えつく医者がいるのも驚異なら、こんなでたらめを受け入れる人がわんさかいるのも驚異である。縄文時代並の呪術師に成り下がった医者には腹が立つよりむしろどんな顔してやってるのか、その顔を一度拝んでみたいという心境だ。オレンジ共済といい、KKC(だったかな?)といい、この高度文明社会といわれる現在においても非常に初歩的、原初的なインチキに引っかかる人が多いのはなぜか?心の隙間をつかれるということか?

◎1997/2/20
    今度の皮膚科学会総会にはアトピー性皮膚炎関連の興味深い演題が数多く発表されるようだ。(最新学会情報参照)なかでも「アトピー性皮膚炎・どこまでが正しい治療か?」なるシンポジウムが楽しみで、
  アトピー性皮膚炎と海水浴-深層水の臨床応用
  消毒療法の評価
のふたつは是非聞いておきたいと考えている。こうしたなんとなく不思議な感じのする治療法は、その効果をいかにしてほかの治療法と比較検討しておられるのか、この点が大事である。患者さんにステロイドをぬらせ、抗アレルギー薬を内服させながら同時にこれこれの治療法を併用したところ改善率が云々、というパターンではダメ。あくまで単独の治療法による改善率をみてみないと、確実に有効な治療法かどうかは判断できない。この点、日本はなかなか臨床試験が行いにくい環境にあるといえる。今苦しんでいるアトピー性皮膚炎患者さんに、AとBのふたつから治療法を選んで下さい、但し、あまり有効ではない可能性があります、などといって納得してくれる患者さんはまずいないということ。日本もアメリカのように、囚人に治験に協力してもらい、貢献度によってわずかながら刑期を短縮するということが出来ないものだろうか?囚人の人権はどうなる?といわれるかたもあろうが、あくまでvoluntaryなものにしていけばコンセンサスが得られるのではないだろうか?
    話を元に戻すと、「アトピー性皮膚炎にたいするウーロン茶の臨床効果」
「生後2カ月までのミルク摂取は牛乳アレルギーの成立を抑制する」といった一般演題もあり、これらも興味深い。発表内容が十分吟味されたもので、かつ同内容の論文の Publish が accept されればセミスタンダードとして治療に役立てていきたい。とはいうものの、この論文というのもくせ者で、キリは学内誌(大学内での雑誌)からピンのNature, Scienceまで、ごまんと存在する。私は、これは全くの勝手な言い分で多方面からのご批判もあろうと思うが、皮膚科臨床面での国内雑誌としては「日本皮膚科学会雑誌」「アレルギー」以外はあまり評価していない。みずから、あるいはグループとして投稿し、審査を受けた経験から、皮膚科臨床面での権威ある雑誌は
* New England Journal of Medicine (内科系)
* British Journal of Dermatology
* Archives of Dermatology
* Journal of American Academy of Dermatology
* Acta Dermatovenereologica
* Lancet
このくらいがすっとでてくる一流雑誌である。是非こうした雑誌にのせられるQualityの発表であってほしいと期待している。

◎1997/2/15
    奈良で開業して早くも3カ月を過ぎようとしている。誠に月日のたつのは早いものだと実感する。アトピー性皮膚炎の患者は多く、外来の20パーセント近くを占めている。というのも、当院は開業まもなく、外来患者に老人の占める割合が2パーセントと、異常に低く、その分若年層が多いことがこうした結果になっているものと思っている。厚生省が現在審議中の保険制度の中にあっても老人に対する締め付け、切り捨てが強まる傾向は明白で、開業医もあまり老人に頼った診療をしているとこれからは倒産の憂き目を見ることになるやも知れぬ。そうした見地からは、現在外来に訪れる患者はまだまだ少ないものの、好ましい患者年齢分布をしているということも言えるかな?しかし、もっとも意外だったのは、奈良には重症のアトピー性皮膚炎患者がいない!という点である。どこかに隠れているのか、はたまたほんとにいないのか?大阪市や伊丹市の基幹病院に勤務していた頃は重症の患者はかなりシビアな症状を呈する人が多く、これでは間違っても会社に行けないだろうというような全身からアイテルをしたたらせるじゅくじゅくの患者が存在した。奈良はアトピーに合併する花粉症の症状の強い患者は多いものの、皮膚がただれてというような患者はまだひとりも来ない。(現在までの総外来患者数330人)どこかに隠れているというよりも、やはり大都市と中規模都市の環境の差による部分が大きいと考えざるを得ない。ではなにが大阪と奈良で違うの?といわれれば、「生駒の山」とでも答えようか?では生駒山でなにがさえぎられている?明確な解答は出しようがない。むかし、アトピーの重症度と住居周辺の道路事情についての発表を聞いたことがある。IgEが非常に高いのにも関わらず症状がマイルドな患者の住居周辺には比較的交通量の多い幹線道路や高速道路がないというものであったように思う。また、岐阜県方面から一家で吹田方面の静かな住宅地へ越してきた家族4人が、越してきたとたん一斉にアトピー性皮膚炎を発症したという話も聞いたことがある。直接的なダニの暴露や精神的な問題以外にも、まだ十分にわかっていない高度文明社会がもたらしたアトピー増悪因子が存在するのであろう。それにしても、生駒山がさえぎるものはなんなのか?これをつきとめればノーベル賞も夢でないかも...........。