要約
近年の住居においては様々な種類の殺虫剤、防腐剤、可塑剤、難燃剤などがなかば法規制なしに使用されている。
住居関係の室内空気汚染源を以下に挙げる。
合 板ーホルムアルデヒド
殺虫剤(クロルデン、スミチオン、クロルピリホス)
床 材ーホルムアルデヒド
可塑剤(DOP、DBP、TCEP、TOCP等)
敷物(じゅうたん、カーペット、ござ、畳)
ーダイアジノン、スミチオン、フェンチオン等
壁装材ー可塑剤(上記)
溶剤(トルエン、キシレン、酢酸エチルなど)
断熱材ーモノマー、発泡剤
家屋基礎・土台
ー殺虫剤(クロルデン、クロルピリホス、ホキシム、スミチオン等)
ー防腐剤(IF-1000、サンプラス等)
他; 衣類防虫剤、押入乾燥剤、電気掃除機、押入シート、冷暖房機など)
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上記にあげた表を見てもわかるとおり、現在の住居はこれらの農薬や有害物質なしでは成立しないというほど全戸に普及している。これらは厚生省で「耐用平均気中濃度」を設定しているものもあるが、個々の家庭においてその基準値を下回っているという保証はどこにもなく、深刻な健康被害を入居者に与え、新築症候群の原因として特定されるケースが近年増加の一途をたどっている。
たとえば衣類用防虫剤パラジクロロベンゼン(パラベールという名前には覚えのある人も多いはず)の主婦の平均曝露濃度は0.1ppmで、これは耐用平均気中濃度と同程度である。しかし、この濃度以下であっても動物実験(モルモット)では花粉症の増悪作用が報告されている。また、シロアリ駆除剤やだに駆除剤、たたみの防虫剤として広く使われているスミチオンでもこうしたアレルギー増悪作用が動物実験において報告されている。
我々の食事面も有害、有毒な農薬から全く隔離されていないという現実がある。マラソン、クロルピリホスメチル、スミチオン等の農薬を我々は日々の食事から摂取している。マラソンとクロルピリホスメチルはアメリカ産小麦に、スミチオンはオーストラリア産小麦に多く含まれ、パン、麺類に含まれて日本人の体にはいる。で、全く皮肉なことにこうした農薬は日本製のものが輸出され、海外で使用されているということである。これを因果応報というのだろうか?
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後記
近年はアトピー性皮膚炎のみならず、アレルギー性結膜炎やアレルギー性鼻炎なども増加の一途をたどっている。しかも大人になってからの発症という、不自然な発症様式が目立つ。この現症を理解するにはただただ戦後大量に植林された杉の管理が悪いというだけでは不十分であろう。最近二十年から三十年くらいの変化としてモータリゼーションの発達(というか、過剰?)ゴミ量の爆発的増加とダイオキシンの残留増大、家屋の密閉、断熱性の向上、電化製品の普及など、われわれを取り巻く環境の変化全てがアレルギー疾患増加に寄与していないかと疑われている。しかし、それを立証するデータとなると皆無に近いのが実際である。しかし今回、植村先生のお話に登場した殺虫剤は疾患を悪化させることが動物実験であるにせよ明らかになった、これは重要なことである。と、同時に我々のライフスタイルに抜本的な改革を要求する鋭いきっさきでもある。現代人は自分の家を建てる、あるいはマンションを建てるとき、先人たちと同様に快適性、みばえ、利便性、安全性を求める。ただ先人と違う点は多種多様な化合物を使用して願いを叶えようとする点にある。コンクリートで固めた壁のつめたさ、味気なさのために壁紙を張る、その壁紙をはりつけるのりにはホルマリンが多く含まれ、高い耐久性を持たせる。壁紙そのものにも難燃素材や可塑剤を多く使用し、安全なものを求めてやまない。断熱を追求して床下に多くの空間がないところへシロアリ駆除剤をまき、柱の腐蝕を防ぐ一方、駆除剤が密閉性の良い室内へ徐々に進入し、なかなか大気中に分散せず滞留する。金儲けのために農薬、殺虫剤を大量生産、それが外国の穀物に混じって日本人の食卓へ。いったい我々はなにをしているんだろう?